第98話 造り枝 【古今】【良房】

昔、太政大臣と申し上げる方がいらっしゃった。その人にお仕えする男が、九月ばかりに、作り物の梅の枝に雉を付けて奉るときに詠んだ歌


 私が頼りにする主君のためにと折った花は、人工の花なので、いつまでも枯れることなく咲き続けます。


と詠んで奉ったので、とてもよく詠めていると面白がって、使いの者に禄をお与えになった。


【定家本】

昔、おほきおほいまうちぎみと聞こゆる、おはしけり。仕うまつる男、九月ばかりに、梅の造り枝に雉をつけて奉るとて、

 わが頼む 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける  

とよみて奉りたりければ、いとかしこくをかしがり給ひて、使に禄給へりけり。


【朱雀院塗籠本】

むかし。おほきをとゞときこゆるおはしけり。つかうまつるおとこ。なが月ばかりに。さくらのつくりたるえだに。きじをつけて奉るとて。

 我たのむ 君かためにと おる花は 時しもわかぬ 物にそ有ける

とよみてたてまつりたりければ。いとかしこがり給て。使にろくたまへり。


【真名本】

昔、太政大臣おほきおほいまうちぎみと聞ゆる、御坐おはしまししけり。祗承つかうまつる夫、無射ながつきに、梅の作り枝に雉を付け奉る。

 わが手飲む 君が故にと 折りつれば(折る花は) ときしも分かぬ 物にぞありける

と読みて奉りたりければ、いと賢くをかしがり給ひて、使に禄賜へりけり。


【解説】

『古今集』0866


「無射」はこれまた十二律に由来する、長月の異称。基音の黄鐘より十律高い音。日本の神仙にあたる。

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