第61段 染河
昔、ある男が筑紫まで行ったが、「色好みの風流男が通りがかった」などと簾の中にいる女が言ったのを聞いて、
染川を渡ろうという人がどうして色に染められないことがありましょうか
女が返しに、
たはれ島という名を負っているからにはきっと浮気性なのでしょう。寄せる波に濡れ衣を着せられたと言ってはいますが。
【定家本】
むかし、男、筑紫までいきたるに、「これは色好むといふすきもの」と簾のうちなる人の、いひけるを聞きて、
染河を 渡らむ人の いかでかは 色になるてふ ことのなからむ
女、返し、
名にし負はば あだにぞあるべき たはれ島 浪の濡れ衣 着るといふなり
【朱雀院塗籠本】
昔つくしまでいきたりける男有けり。これはいろこのむなるすきものぞと。すだれのうちなる人のいひけるをきゝて。男。
染河を 渡らん人の いかてかは 色になるてふ ことのなからん
女返し。
名にしおはゝ あたにそ思ふ たはれ嶋 浪の濡衣 きるといふ也
【真名本】
昔、男、筑紫まで往きたりけるに、「是れは、色好むと云ふ
染河を 渡らむ人の 如何でかは 色に出づ云ふ 言のなからむ
女、返し、
名にし負はば
【解説】
染川は太宰府に流れる藍染川とされる。
『後撰集』1046
女のもとにつかはしける
藤原さねただ
つくしなる 思ひそめ河 わたりなば 水やまさらむ よどむ時なく
1047 返し
よみ人しらず
渡りては あだになるてふ 染河の 心つくしに なりもこそすれ
『拾遺集』705
源重之
そめ河に 宿借る浪の はやければ なき名立つとも 今は怨みじ
『後撰集』1120 大江朝綱
女のあだなりといひければ
まめなれど あだ名は立ちぬ たはれ島 よる白浪を ぬれぎぬにきて
『後撰集』1351 たはれしまを見て
よみ人しらず
名にしおはば あだにぞ思ふ たはれしま 浪のぬれぎぬ いくよきつらむ
『新葉集』648『宗良親王千首』
恋と言へば あだなる波の たはれ島 たはぶれにくき までにかけつつ
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