180.Sな彼女とNな彼
「実結、愛してるよ」
その一言で今が続いて欲しいと願う。
「ずるいなぁ……」
私も心から愛してる。
「ほんまやで?」
もう言葉にはしないと決めている。
「紀樹はずるいよ……」
いつだって私の心も体も
全部を満たして幸せにしてくれる。
そんな人
私は二度と出会えない。
だから
思い出を抱えて生きていきたい。
「紀樹、ドライブ行きたい」
「今から?!」
「うん。夜景が見たい」
「クッタクタなんやけど……」
「一生のお願い♡」
「実結の一生のお願いは何回あんねん(笑)」
遅い時間の屋外展望台には
私たちの他には誰もいなかった。
星が降り注いだような夜景に
無言で見惚れる。
「綺麗だね……」
紀樹と二人で見る景色を胸に刻む。
「そうやな」
涙が込み上げてくる。
光が滲む。
別れるって言わなきゃいけない。
言えない。
終わりにしたくない。
誰か助けて。
「実結?」
顔が見られないように抱きつく。
「ありがとう、紀樹。ねぇ、キスして」
この温もりは覚えていられるのかな。
抱きしめられる強さもキスの優しさも。
一体いつまで思い出せるんだろう。
翌日も思い切り楽しんだ。
一つ一つを胸にしまっていく。
「長崎あおすけ売ってるやん」
「本当だ」
「買わへんの?」
「うん、いい。カステラ買って帰る」
「珍しいな(笑)」
形が残るものは処分に困る。
紀樹に素敵な人が現れた時には
私は思い出さえ手放していかなきゃいけない。
「また来ような」
嬉しそうに言う紀樹の頬にキスをした。
「来れたらいいね」
もう来ることはないけれど。
自分なりの最後の賭けは
どれも失敗してしまった。
悟さんの言うように
試すようなことをしたって
良い結果にはならなかった。
それなのに
別れを口にする勇気もなくて
淡々と仕事をこなして
退職日を迎えた。
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