179.Sな彼女とNな彼

同じシャンプーに香りだけを


身にまとってベッドに潜り込む。




紀樹がキスマーク禁止令を無視して


体のあちこちに吸い付く。




「ダメ」と言っても


「見える所には付けへんから」と


際どいところにまで印をつける。




いつもより感じてしまうのは


紀樹の興奮が伝わってくるからで


体の芯まで熱い。




もうこのまま離れたくない。




避妊しようとする手を止めた。




「そのままして?」




「何で?」




「紀樹の赤ちゃんが欲しいから」




大きな溜息をつく紀樹を見て


胸に黒い絶望がじわりと広がる。




「順番が違うやろ?」




そんなのどうだっていい。




「結婚できないなら赤ちゃんだけでも欲しい」




結婚はいつでもいい。



でも



私は病気が悪化すれば


妊娠が望めなくなる。




「わけわからんこと言うな」




「なら今日はしない」




無茶を言ってるのはわかってる。




「俺は無責任な事はしないって決めてる。今は子供が出来ても責任が取られへん」




責任なんて何一つ取らなくていい。




「私一人で育てる。紀樹に迷惑は掛けない」




いつか紀樹が結婚を考えられるまで


いつまでも待っていたい。




「何を愛人みたいなこと言ってんねん。そんな焦ってもしゃーないやろ。あと二年すれば弟も学校を卒業するし、それまでに親父が再就職すれば俺も自分の家族を作る事を考えられるかもしれんけど……」




「わかってるよ」




私だけが必死で焦っても


虚しく空回りすることも全部わかってる。




「やったら俺を困らせんな」




本当に紀樹を困らせてばかりで


自分がどんどん嫌いになる。




「……ごめん。頭冷やしてくる」




起き上がって着るものを取ろうとすると


腕を掴まれた。




「実結。頭冷やす前に俺の息子をどうにかしてくれ(笑)」




この状況で続きをするの?!




「バカじゃないの?!」




布団に引き戻されて



潤んだ茶色い瞳に見つめられると



キュンとしてしまう。




身動きできない。




息をするのも忘れる。




唇を重ね合わせると



思考はストップした。





このまま時も止まればいい。





何もかも止まって



世界が終わってしまえばいい。








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