178.Sな彼女とNな彼

綺麗に股間にヒットしたせいで


紀樹が両手で押さえていた。




「使いモンにならんくなったらどうしてくれんねん?!」




「後でじっくり確認してあげる」




恥ずかしい台詞を口にすると照れてしまう。




紀樹は照れ笑いを浮かべた私を掴まえて



二回目のキスを交わした。







教会から徒歩数分のホテルで


ウェディングイベントをやっている。




私は今日このために来た。




「あんなぁ、実結? 今はまだ……」




結婚できるわけじゃないのは知っている。




「わかってるよ〜。でもね、タダでウェディングドレスを試着してプロカメラマンが写真撮ってくれるんだって。コスプレ写真だと思って付き合ってよ」




"タダ"という言葉に


なぜか紀樹は意外と食い付く。




「それならええけど……」




案の定、思うより簡単にOKがもらえた。





有名デザイナーのウェディングドレスの


ファッションショーが終わると


ドレスを試着して撮影会。




実は男性にもタキシードが用意されている。




紀樹は「聞いてへん」と文句を言いながら



更衣室へと入っていった。






純白のウェディングドレスに着替えて



髪の毛をアップにしてもらい



簡単にメイクまでしてもらった。





鏡の中にいる私はお姫様みたいだ。





待ち合いスペースに行くと



白いタキシードを着た紀樹が待っていた。




本物の王子様みたい。




ドキドキと胸が高鳴る。



かっこいいなあ、もう。





立ち上がった紀樹の前に立つ。




「似合う?」




「き、綺麗やな……」




照れながら紀樹が言ってくれて



思わず顔がほころぶ。




「紀樹もかっこいいよ。赤いバラが似合いそうだね(笑)」




咥えている姿が目に浮かぶ。




「同じこと考えてたわ(笑)」




二人で笑い合う。





イベント用に用意されたティアラは


一千万円以上するらしい。


沢山のダイヤモンドが眩い。





最後にブーケを渡された。





英国王室の結婚式で使われた



スズランのブーケ。



一番好きな花。




花言葉は"幸福の再来"。




私の生まれた季節には庭いっぱいに咲く。




紀樹と離れてしまったら



再び幸せがやって来る日は来るのかな。






撮影の順番が回ってきた。




「新郎さん、もっと笑顔で~。はいっ」




バシャッ。




撮影した写真はそれぞれの自宅に


後日郵送してもらえる。




これで旅の目的は果たせた。




「ティアラ着けたままダッシュで逃げられないかな……」



一千万あれば借金返済して結婚資金になる。



「あほか(笑)」



お姉さんが早く外そうと近寄ってくる。



「冗談だって(笑)」



悪戯っぽく笑いながら


お姉さんの方へ振り返ると


すぐにティアラは回収された。







夜までタップリ観光を楽しんで


ホテルにチェックインした。




狭いユニットバスのお風呂に一緒に入る。




紀樹がマジマジと体を見てくる。




「実結……。痩せたなあ」




この一年で五キロ近く減っている。




「そうかな」




「そうやろ。ただでさえ脂肪の少ない胸がさらに小っちゃく……ぶっ!」




至近距離でお湯を掛ける。




それ以上は何も聞かないで欲しかった。




嘘がバレてしまう。





バスタオルを巻いて


いすに座った私の髪を紀樹が乾かす。




「髪伸びたなあ」って嬉しそうに言うから


短くしたくても出来ない。





別れたら切ってみようかな。





似合うかどうかは聞けないけれど。











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