166.Sな彼女とNな彼

「にゃこランド久しぶりー!」



「俺も(笑)」




悟さんは私を見てクスクス笑っている。




「な、何がおかしいんですか?!」



「嫌がってるわりにノリノリだからさー(笑)」




テーマパークには


訪れた人のテンションを上げる魔法が


掛かっている。




「にゃこにゃんには罪はないですから」



「やっぱり実結ちゃんは可愛いよね」



「何言ってるんですか。パレード見たらさっさと帰りますよ」



「パレードまで五時間あるよ」




時間ギリギリだから急ごうと


慌てて車に乗せられた。




「……騙しましたね?」




「暇だからアトラクション回ろっか(笑)」




「あくまで社会見学ですからね?」




「仕事熱心な社員だったって伝えとくよ(笑)」





にゃこランドは紀樹とは来てないな。


野本くんとは何度も来たことがあるけど


並ぶのが嫌いだからと


人気のアトラクションには


一度も一緒に乗っていない。





「実結ちゃんはコースターは乗れる人?」



「あまり得意ではないです」



「じゃあ、いけるよね」



「えっ?!」




結局並んでコースターに乗り


アトラクションやショップを回って


時間を潰した。




悟さんはきっと遊び慣れていて


さりげないエスコートも全部


何から何までモテそう。




買ってもらったポップコーンを頬張り


バルコニーのシートに座る。




パレードが始まる頃には


すっかり夜になっていた。




にゃこにゃんにが出てきて踊るリズムが


下腹部に響く。




昼に薬を飲み忘れたせいで


お腹がズキズキと痛い。




帰りまで耐えられるかな。





「実結ちゃん?」



悟さんに異変はすぐ見破られた。



「何でもないです」



「お腹痛い?いつから?」



冷や汗が流れる。



「痛み止が切れた辺りから……」



「いつも薬飲んでんの?」



「はい」



「とりあえず病院に行くよ」




パレードはまだ半分しか見てない。



賑やかな音と光、花火も上がっているのに


私とは関係ない世界みたいだ。







南総合病院では


診てくれたのは男の先生だった。




どうせまたレディースクリニックの


薫先生と同じことを言われるだけと


たかをくくっていた。




検査を受けて


母と一緒に来るようにと言われてから


ずっと頭の中がパニック状態で


医師から話された内容は


自分では処理しきれなかった。




子宮頚がんの疑いがある。




そんな話だったような気がする。




子宮の全摘出した方がいいとか


何でそんなことが言えるんだろう。




「子宮を取ったら赤ちゃんはどこで?」




という子供じみた質問をしたことだけ


うっすらと記憶に残っている。





真っ暗闇の絶望だけが重く残ったまま。





何度寝ても覚めても



悪い夢なんかではなく



現実だった。





母からは「実結の命が一番大切」と


泣きながら訴えられた。





子供が産めなくなる?





どう向き合っていいのかわからない。





会社で淡々と仕事をこなす。



日常は救い。



でも、避けられはしない。




すっかりお腹の目立ち始めた園子が



「明日は検診日だから休むね~」と



有休届を持ってきた。




間宮のサインをする。




頭がおかしくなりそうだった。









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