156.Sな彼女とNな彼

私もこれから紀樹とデートなんだけど。






気が重すぎて全くテンションが上がらない。





出掛ける気分にならなくて


両親も隆人くんもいないと言うから


紀樹の家で映画を観ることにした。




前に私が吹き替えで観た映画を


今度は字幕なしで観ようってことで


『ロミオ+ジュリエット』を選んだ。




実は今年のハロウィンの衣装が


映画のヒロインと同じ天使の衣装に


決まっている。




リビングに二人きり。


何だかいつもより広く感じる。


飲み物を持って来た紀樹と


テレビの前のソファに並んで座った。




電気を消して映画に集中する。




仇敵かたき同士の家の禁断の恋。




紀樹に寄り掛かりながら


ふと園子と小池くんを思い出す。




あの後


彼女とデートって言ってたよね。




小池くんは彼女に打ち明けるんだろうか。




「赤ちゃんが出来た……」とか



絶対に彼氏から聞きたくない台詞だな。





ゆっくりと紀樹が画面から私に顔を向けた。




「実結、ほんまに?」




「え?」




「今の話、ほんま?」




「何のこと?」




「赤ちゃん出来たって……」




あ、心の声が漏れていた。




「うん」





数秒間のフリーズ。





「いつ?や、ちゃうな……」




動揺した紀樹を見て


誤解していると気付いた。




「あっ、ちがっ……」




「とりあえず籍を先に……」




「えっ?!」





「ちゃうな。実結の親に挨拶が先やな」





そういう流れになると思ってなくて。





「こんな形になって申し訳ないんやけど」





ソファを下りた紀樹が正座をして


私の手を握るのがスローモーションみたいで。





「俺と結婚して、実結」





このまま私が妊娠していると


嘘をついてしまえれば良かったのに。









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