136.Sな彼女とNな彼

仕掛けた私の唇に



彼の舌がねじ込まれた。





頭の中が真っ白になる。





きつく抱きしめられると



二人溶け合う気がして



夢中で彼に応じた。






激しく脈打つ体だけが



夢ではないと告げている。





呼吸を忘れる。





胸が苦しい。





眩むようなキスに



立っていられなくなる。





崩れそうな私の体を



彼は支えるように



抱え直した。





顔を離すと



長い舌を口の端から覗かせた彼が



艶っぽい目で私を見下ろしている。





「実結?」





「すみません。腰が抜けました……」





「だから待てって言ったやん(笑)」





本気のキスは腰が砕ける。





「ちょっと座らせて欲しいです……」





息遣いも整えられない。





「待ってや」と私を支えながら



器用に上着を脱いだ彼が



砂の上に服を落とした。





ゆっくりとその上に体を下ろす。





「えっ、上着汚れますよ」





「もう汚れたから一緒やろ」





「……ありがとうございます」





隣に座った彼が優しく肩を抱くから



自然に体重を預けた。





呼吸が整うまで



寄せては返す波を眺めていた。





この瞬間は永遠を感じていたのに。





「不意打ちで名前呼ばれるとキュンとするんやな(笑)」




「知らんかった」と彼が笑う。




私はずっとキュンキュンさせられっぱなしなんて



絶対に言ってやらない。





「今から敬語も禁止やからな?」




「急には無理です……」




もう色々ありすぎて心が追いつかない。




「ほな、敬語禁止と日本語禁止どっちがいい?」




「えっ」




「俺はどっちでもええけど?」




私は日本語以外はカタコトになってしまう。




「敬語禁止でお願いしま……たい」




「ギリギリやな(笑)」






日本語すらカタコトで



恥ずかしくて彼の膝の上で丸くなると



顎をくすぐるように撫でられた。





「本物の猫になれそう……」




「一生こうして可愛がるで?」




それもいいかもと思ったのに。




「紀樹、大好き」




「うん」





髪や顔を撫でる手が止まる。





仰向けに姿勢を変えて見ると



彼が遠くを見ていた。





「何か見えるんですか?」




「理性を召還してるだけ(笑)」




「理性?」




「実結が鎮めてくれる?」




何を……と聞こうとして察した。




両手で顔を覆う。




「バカ紀樹」




その手をどけた彼のキスが降る。




「次に敬語使ったら鎮めさせたるからな」





本気か冗談かはわからない。





「……いいですよ」





「ほんまに?」と照れて笑う。






その顔の向こうの夜空に



流れ星が流れた。





願い忘れたことがあったのに。





変態王子様のキスに目を閉じた。









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