104.Sな彼女とNな彼

「西川さん……」




どうしてここに?




「九時には終わるんやろ?」




ずっと避けてきたのに。




「片付けがあるので」




笑顔を向けないで欲しい。






だけど。




「終わるまで待ってるから」




嬉しくて。





黙って頷いた。





「それからイブに働いてるマミヤちゃんにプレゼント」




ポイと渡された小さな包みは



ゴールドのあおすけストラップ。




「あっ!これ当たりクジに入ってる限定ストラップじゃないですか!」




巨大ぬいぐるみのオマケにつけた


クリスマス限定のレア商品。


社員でもクジを当てるしか入手できない。




「さすがにぬいぐるみは持ち歩かれへんから車に置いてきたけど」




「当てたんですか?!すごーい」




黄金のあおすけをイルミネーションにかざすと


キラキラと光る。




「勝負ごとには強いって言うたやろ?」




「ふふっ。ありがとうございます。で、何回クジ引いたんですか?」




彼が「ナイショ」と言って笑うから



胸がぎゅっと痛くなる。






幸せそうに行き交う人たちを見て



羨ましく見ていた気持ちなんて



一瞬で消え去った。






視界の片隅でホットワインを飲みながら



うろうろしている彼と



時折目が合う。





焦れったい時間に胸が高鳴る。





急いで片付けを終えて着替えると



ビルのエントランスに手招きされた。






「どこ行くんですか?」




「上」




彼が展望台の案内を指差す。




「混んでるんじゃないですか?」




「特等席を取ってあんねん」




エレベーターが三十階を過ぎる。




到着して暗いフロアを見渡すと


思うよりは混雑してないけれど


窓際はカップルがずらりと並んでいた。




隙間から見える夜景やイルミネーションが


チラチラと輝いている。




「綺麗ですね」




「うん。こっち」




彼について反対側へ回ると



フロアから数段高いところに



カップルシートが幾つか並んでいる。




囲われるようなソファ席で



下からでは座っている人の様子が



殆ど見えない。




どれもカップルで埋まっているようで



見上げると人の影が見える。




最後のシートにたどり着いた時に



彼が上に向かって声を掛けた。




「山田、ありがとう。交代や」




「待ちましたよ~。カップルのプレッシーが半端なかったですよ~」




「ほんま助かった」




降りてきた冴えない感じの男の子と


目が合った。




「西川さんの彼女ですか?」




「いえ、違います」と反射的に答えた。




「ええから。山田はもう帰れ(笑)」




西川さんは山田さんを押し退けると



私の手を引いて階段を上った。



すみません、と私がペコリと頭を下げると



山田さんは会釈して帰って行った。




「まさか一人で場所取りしてもらってたんですか?」




カップル達から大ヒンシュクに違いない。




「さっきやで。たまたま下で山田と会ってん」




人が多かったらドライブするつもりやった、と


彼は私を奥に座らせた。




「今日はお休みだったんですか?」




私服を見るのは夏以来だった。




「マミヤちゃんのために休み取ってあるって前から言ってたつもりやけど?」




「すみません。仕事断れなくて」




しれっと嘘をつくのも慣れた。




「朔は土日両方出勤でもいいって言ってたのも知ってんねん」




うっ、バレてる。




「ごめんなさい」




「別にええけど。何で俺から逃げ回ってるんか教えてもらう権利はあるよな?」




彼はコートを脱ぐと


私のマフラーをするりと外した。




自分でも逃げ回ってしまう理由は


正直よくわからない。




思考がぐるぐる回ると暑くなって


私もコートを脱いだ。




茶色い瞳を見つめ返す。




「西川さんは私をどうしたいんですか?」




「えっ?!」




「何の目的で私を誘ってるんですか?」




「目的って……(笑)」




彼は笑いながら髪をかき上げた。




「私が逃げるから追い掛けてるだけでしょ?」




「失礼やなあ(笑)。俺もすべての女から好かれるわけちゃうからな。逃げるのを追い掛けて楽しむ趣味はないねん」




「じゃあ、何なんですか。もう放っておいてください」





そうすれば穏やかに生きられるのに。





「それは無理やな」





彼が私の手を握る。





「何するんですか」





振り払いたくても振り払えない。





「嫌ならやめる。けど、マミヤちゃんは嫌がってへんよ。一回も」





肩に手を回してうつむいた私に顔を寄せる。





「そんなはずないです」





彼はふっと笑って肩を撫でると





「嘘つきやな(笑)」





呟いて頬にキスをした。







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