93.Sな彼女とNな彼

翌月曜日。




問題はこの人だよね。




周りからは王子も誘えとプレッシャーを


掛けられていた。




「ハロウィンか。ええなあ」



「西川さんは去年は参加してないですよね?」



「平日は仕事やし、月末にそんな早い時間には帰られへんなあ」



「じゃあ、今年も無理でいいですよね」



「ええけど。誘ってるわりに来て欲しくなさそうやな?」



「そんなことないです。残念です」



「ほんまに?」




ナースコスプレが谷本さんと被っていて


並べて比較されたくない、なんて言ったら


笑われてしまうかな。



露出の高い衣装は来年から禁止にして欲しい。



夜は冷える。




「それより今日はランチ行かないんですか?」



十二時ちょうど。



いつもなら谷本さんか三鷹さんと出て行く時間。



「マミヤちゃんは?舞ちゃんと?」



「舞が休みなので一人でスープ屋さんに行きます」



「ほな、俺に付き合って。先行って注文しとくから、後から誰にも見つからんように来て」



「えっ?!」



しーっと人差し指を立てて


上着からお店の名刺を出して立ち上がる。



「ココな」



「どっ?」



どこですか?と聞こうとしたら



思い切り睨まれて黙った。





十五分後。





路地の中にあるバーにたどり着いた。




開店中なのかさえよく分からず



そっとドアを開ける。



マスターらしき人に奥に案内されると



ソファ席に彼が座っていた。



手招きされて横に座る。




「ここ何のお店ですか?」



「夜はバーやけど、昼は気まぐれにランチやってんねん」



「他にお客さんいませんね」



「気まぐれにしか店開けてへんからな(笑)」




気まぐれなマスターの気まぐれランチを頂いた。




「一人で食べようとしてたんですか?」



「そうやけど?」



私が他の人と行くのを嫌がったからだよね。



「そこまでしなくてもいいですよ」



「すぐヤキモチ焼くくせに(笑)」



笑いながら彼はソファの背もたれに


腕を回した。


髪をすくう手でふと思い出す。




「三鷹さんともここでイチャイチャしてたんですか?」




「んなわけないやろ(笑)。ここは俺の秘密の場所」




「秘密じゃない場所でしてたんですね」




追い詰められると逃げたくなるって



昔、野本くんにも言われたのに。




「もうずいぶん前の話やんか」




過去の話は掘り返さないでって



何度も言われたのに。




「そうですね。すみません。忘れます」




嫌な言い方をした。




「俺は忘れへんけどな」




「もういいです」




怒らせたって仕方ないのに。




「消毒の途中で邪魔が入ったよな?」




彼はニヤリと笑った。




「えっ?!」




「ちゃうな。上書きしようとした時に朔に邪魔されたんやったっけ」




「そ、そうでしたっけ?」




肩に腕が回される。




「あの続きしてよ、マミヤちゃん」




身動きできない。



催眠術にかかったみたいに



茶色い瞳に吸い込まれる。






「食後のコーヒーいかがしますか?」




マスターが来なければ



私は真っ昼間から……



恥ずかしさで顔を上げられない。





「コーヒーとミルクティー。ホットで」





彼が優しく髪を撫でた。






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