86.Sな彼女とNな彼

「僕、西川さんは谷本さんと付き合ってるのかと思ってました」




二人残されたミーティングルームの掃除中



朔くんがボソッと呟いた。




三鷹さんに負けず劣らず美人の谷本さんか。




「仲良いもんねえ」




私はテーブルを拭きながら応えた。




「でも、もしかして、西川さんは実結さんと付き合ってるんですか?」




「いやいや(笑)。あり得ないから」




私が会社を辞めるか



彼がうちの会社と切れるか



どちらかが社内から消えない限り



現実的じゃない。




「僕には谷本さんとより実結さんとの方が仲良いように見えます」




「そう?西川さんって誰にでもあんな感じでしょ」




「いや、でも、さっき……」




やばい。



意外としっかり見られてた。




「何もないよ。私はああいうチャラチャラしたタイプの人は苦手だし」




「じゃあ、どういう人がタイプなんですか?」




「真面目で誠実な人……」




元カレの野本くんみたいな、と思って



人は見かけによらないと



逆に痛感する。



女の子にモテるタイプではないのに



二股を掛けた挙げ句に



浮気相手に乗り換えていた。




「で、浮気しない人がいいな」




「そうなんですね」




「朔くんは浮気しなさそうだよね」




「あっ、はい。真面目すぎて面白くないって言われます(笑)」




「そう?朔くんといると楽しいのにね」




上手く怪しまれずに済んだ……かな?



朔くんが他の人にペラペラ喋るとは思わないけど


リスクは減らしておきたい。






自分のデスクに戻る時に



経理部の様子を伺ってみたけれど



三鷹さんは休み明けで忙しそうにしていて



具合が悪そうには見えなかった。





救急でって一体どういうこと?




病院で居合わせるって何?





謎解きは終わらなくて



その日はずっとモヤモヤしていた。



夜になっても、次の日も



彼からは連絡がなくて



一週間が過ぎた。






月曜日になっても



彼は来なくて



代理の大江さんがやって来た。





「西川が急な出張ですみません」




「いいえ。私から西川さんの携帯に何度か連絡したんですけど、圏外だったんですが……」




大江さんもなぜか朔くんを押し退けて


私の隣の席に座る。




「あー、電波の悪い地下に籠ってて。連絡取れるのが夜中なんです。すみません」




「そうですか」




「それに、朝から晩まで上司と一緒で激しく機嫌悪いんで電話しない方がいいですよ(笑)」




「わかりました」




「明日には戻るので、西川から連絡入れさせます」




「ありがとうございます」






モヤモヤしていた気持ちより



待ちくたびれていた気持ちより



明日にはきっと声を聞けるって



嬉しく思う気持ちの方が



ずっと大きくて戸惑ってしまう。






明日には、きっと。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る