81.Sな彼女とNな彼

「王子、打合せ行きますよ」




背後から経理の三鷹さんが



割って入ってきた。




慌てて隠した手の甲は



どうやら見られずに済んだけれど



冷ややかな目で私を見ている。




怖い。




「もう時間か。今日はどこやったっけ?」




「中会議室です。お昼は王子の好きな店を予約しましたよ」




これ見よがしに彼の肩を撫でる。




「ありがとう。俺ちょっとサーバー室に寄ってから行くから、先に行っといて」




王子を見送った三鷹さんは



ポンポンと私の肩を叩いた。




「間宮さん、会議室の準備手伝ってくれない?」




目が笑ってない。




「はい、すぐ行きます」




怖い。




受付の谷本さんには



本社勤務になってすぐ『注意』され



この前『警告』を受けたばかり。




次の『警告』で私は退場させらるんじゃないの?






恐る恐る中会議室へ入った。




「三鷹さん、私は何をすれば良いですか?」




「間宮さんは王子とどういう関係?」




準備の手伝いはなさそうだ。




「どうって、私が担当している業者さんです」




「それだけ?」




「それだけです」




私たちの間に特別な関係は存在していない。



これは本当。




「じゃあ、単刀直入に言うけど、王子は私のだから」




リップグロスが艶めく三鷹さんの唇が放った。




「そうだったんですか」




私の彼氏だから、とは言わなかったな。




「だから手を出さないでよね」




それは私じゃなくあなたの王子に言って欲しい。




「私は私の彼氏がいるので、王子には興味ないです」




一瞬の間が空いた。




「えっ、そうなの?!」




「はい」




「間宮さんって地味っていうか、大人しそうだから彼氏いないと思ってた」




さらっと失礼な人だな。




「ちゃんといるので間に合ってます」




「な~んだ~」と三鷹さんが高笑いして



私の背中をバンバンと叩いた。





上手く交わせたことにホッとして



「お手伝いがないなら戻ります」と



会議室を出ようとした。






三鷹さんの笑い声が止まる。




「私ね、おとといは一晩中ずっと王子と一緒だったのよ」




聞こえきた台詞に


ドアノブを回す手が止まる。




嘘だ。




そんなはずない。




「仲が良くていいですね」




営業スマイルで振り返って



ドアを開けた。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます