53.Sな彼女とNな彼
洋食『ポリアフ』と書かれた店の前で
西川さんが立ち止まって
私の服をチョイと引っ張った。
「マミヤちゃん、オムライス好きやろ?」
「何で決めつけるんですか」
「嫌いなん?」
「いや、好きですけど」
この店は午前中に
西川さんが一人で
入って行った店のような?
「ここのオムライスは絶品やから」
嬉しそうに奥へと進んでいく彼の後を追う。
確かその前にもオムライス専門店から
出てきたのを見たんだけどな。
無類のオムライス好き?
見間違いだったのかな。
「西川さん、午前中にもこの店に来てましたよね?」
私が投げ掛けた質問に
向かいに座って水を口にした彼が
茶色い目を大きく見開いた。
「何で知ってんの?」
「その前にもオムライスの店に行ってますよね?」
「それもバレてるんや(笑)。恥ずいな、俺」
ゴクゴクと水を飲み干す。
二軒もランチでオムライスを食べて
夜も同じ物を食べるなんて。
「西川さんってオムライスマニアなんですか?」
「なんでやねん(笑)」
彼は笑いながらサマージャケットを脱いで
椅子の背もたれに掛けた。
「一日何回もオムライス食べてるじゃないですか」
「そうやな。オムライスが好きで好きでたまらんから……って、なんでやねん(笑)」
「違うんですか?」
真顔で聞いた私のおでこを
「ちゃうわ」と笑いながら軽く指で弾いた。
「痛っ」
「マミヤちゃんに一番美味しいもんを食べさせたいって思っただけやん」
「そのためにわざわざ……」
朝からお店を調べて先に食べたってことですか?
「言わせんな(笑)」と恥ずかしそうに
彼は照れ笑いを浮かべる。
その表情はずるいよ。
誰にでもやってるんでしょ?
なんて、言えなくなる。
「ほら、マミヤちゃん来たで♪」
子供みたいな無邪気さで見せる笑顔も
とげとげした私の心を溶かしてしまう。
店員さんがオムレツに
すーっとナイフを入れると
とろりと流れた半熟たまごが
チキンライスを優しく包み込んだ。
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