46.Sな彼女とNな彼

朝。




初夏の終わり、梅雨入り前。




土日は晴れの予報。




眩しい太陽の光を浴びながら


バスターミナルを出て


駅に向かう。




野本くんの会社の寮は


さらに電車で一時間ほど掛かる。




駅前でカフェに入り


朝食をとりながら


携帯を開いた。




返事は来ていない。




メール見てないのかな……。




仕事かもしれない。




不安を募らせながら


ゆっくりと文字を打つ。




『バス着いたよ。今から家の近くまで行きます』




店の隣の本屋さんで小説を買って


電車に乗り込んだ。




バス内宿泊で体は疲れていて


電車でもすぐに眠れた。




駅からさらに徒歩二十分。




ようやく辿り着いたのは


お洒落なマンスリーマンション。




一度だけ来たことがあって


垣根から駐輪場を覗いた。




野本くんのバイクはある。




通勤は会社の車で


白いセダンだったはず。




駐車場をフェンス越しに見ても


黒と赤の二台しかなくて


それらしき車は見当たらない。




やっぱり仕事……かな?




どうしよう。




とりあえず夜まで待つしかない。




マンションの入口が見えるファミレスで


長い時間を掛けてランチを食べて


無駄に大きいパフェを食べた。




『マンションの近くの公園で待ってます』




コンビニで雑誌を買って


公園に移動しても


再びファミレスで夕飯を食べても


野本くんは帰って来ない。




『まだ仕事かな? ファミレスにいます』




電話を掛けても、メールしても


何の反応もない。




ギリギリまで粘ったものの


連絡はつかないまま。




女一人で野宿するわけにいかず


駅まで戻ってネットカフェで


一夜を過ごした。





日曜日も同じように


マンションの周りをウロウロするだけで


夕方になった。




『八時の新幹線で帰るから、あと少しだけ待ってる』




祈るような気持ちでメールを入れた。




会えなくてもいいから


せめて返事だけでも欲しい。




携帯を手に持って


マンションの入口の前に立った。




インターホンを鳴らしても


呼び出し音が響くだけ。




中にすら入れない。




これ以上は待てない。




郵便受けにメモを入れて


諦めて帰った。





『連絡ください』





野本くんはメモを読んだのか


読まなかったのか


結局はわからなかった。




持ち主の現れないバイクに


「帰るね」と呟く。




こんな時にでも思い出すのは


初めてバイクの後ろに乗って


大きな背中にドキドキしながら


きゅっと腰に掴まった、あの日。




そんな日は二度と来ないと


知るための二日間だった。




なのに


サヨウナラの一言がないままには


諦めきれなくて


誕生日の約束を抱えたまま


日常へと帰って行った。











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