32.Sな彼女とNな彼

王子には興味ないです。




この一言のお陰で


私は敵を作らずに済んだけれど


女の争いの醜さを知る。




北山さんと二人で作業をしてると


愚痴が始まった。




「会社の引っ越し前に前のビルでお別れ会をしたの。王子も同じ会社の後輩と二人で参加してたんだけど」




「お別れ会なんてあったんですね」




「そうそう。社内で飲んでたのに、気付いたら王子がいなくなってて」




「先に帰ったんですかね」




「それが蘭ちゃんが気持ち悪いって嘘ついて王子に自宅まで送らせたらしいのよ~」




蘭ちゃんって受付の谷本さんだっけ。




「西川さんなら車で送ってくれるからじゃないですか?」




雨や怪我を理由にして


私を送ろうとしたくらいだし。




「ううん。二人でタクシーに乗ってったらしいの」




「あ、そっか。お酒飲んでるのに運転できないですよね」




「いや、あの日は王子は飲んでなかった……」




北山さんが思い出したように続ける。




「そういえば王子が車で誰かを送ったって話は聞いたことないわねえ……」




え? 当たり前のように私を乗せたのに??




「そうなんですか……」




私だけが特別だった? なんて


自惚れた気持ちがわいてくる。




「どうせ蘭ちゃんがタクシーの中でもベタベタくっついて家まで誘い込んだんでしょ」




誘う方も誘う方だけど


誘われて上がり込む奴も最低だ。




うん、やっぱり無理。




「どうして北山さんは西川さんが谷本さんの家に泊まったって知ってるんですか?」




同期の嶋村さんもそうだけど


皆がなぜ詳しい事情を知ってるのか


とても不思議だった。




「蘭ちゃん本人が喋ってんの。多分だけど経理の三鷹さんに対する宣戦布告みたいな感じ」




「宣戦布告?」




「三鷹さんも王子とお泊まりした時にアチコチで自慢してたからね」




「あー、あなただけじゃないってことですか」




「そそ。実際には他もいるんだけど、普通の神経の人はペラペラ喋んないでしょ」




谷本さんと三鷹さんは


普通の神経じゃないということ??




「アチコチに手を出してる西川さんが罪作りなんだと思いますけど……」




「そうだね(笑)。だけど、王子は自分からは絶対にベッドに誘わないから遊び人って感じがしないのよねえ」




その台詞に作業中の手を止めた。




「本当に自分からは誘わないんですか?」




キスまでは積極的で


その先は女の子任せ……??




「もし王子に誘われたって子がいたら、それは嘘だよ。こっちから誘惑しないとキスもしない人だよ」





車の中で私は寝ぼけながら


彼を誘惑していたんだろうか。




それとも


本当の本当に私を……??




疑問は浮かんでくる。




だけど


北山さんの口振りから


二人も関係を持ったことがあるのは


容易く想像できた。




もし彼が本気だったとしても


もし私が彼を思うことがあっても


身近にこれだけ関係があっては


付き合うなんてあり得ない。




好きにならない理由を見つけて


迷いが晴れてスッキリした。





「北山さん、早く入力終わらせて抽選しましょう。私ハガキ引きたいです」




「オッケー」と北山さんもお喋りをやめた。










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