25.Sな彼女とNな彼

屈んだまま


手のひらをそっと開く。




ムーンストーン……?




何だろ? 何で??




ザワザワしている部屋の中で


自分だけが静寂にいるような感覚。




石をポケットに入れて立ち上がった。





「それでは、研修二日目を始めます」





講師の人たちは


自分の講義の時以外は


控え室で待機している。




彼だけは一番後ろの席で


課長や上司と並んで


ずっと座っていた。




目が合う度に


嬉しそうに微笑むから


何だか照れてしまう。




休憩の時に後ろに呼び出され


スキルチェックと性格診断の


順番を決める。




彼が蛍光ペンで


次々と名前に色を付ける手にも


走り書きしているのに


綺麗な字だったことにも


ドキドキさせられた。




駄目。




認めたくない気持ちに反して


惹かれる気持ちが止められない。




「西川さん、データのまとめは本当に私一人で出来るから大丈夫です」




これ以上は一緒にいたら駄目だ。




「そない嫌がらんでも……。別に取って食ったりはせぇへんし(笑)」




「わざわざ残ってもらうのも悪いので」




頼むから早く帰って。




「一、二時間くらい気にせんでええから」




「でも」




「そんな拒絶されると傷付くんやけどなあ」




「拒絶してるわけじゃ……」




「ならええやん。ほら、休憩終わるで」




強引に踏み込まれて


なぜもっと強く拒否できないんだろう。




どうして彼のことが


こんなにも気になるんだろう。





研修がすべて終わると


新入社員の子たちが


私の周りに集まってきた。




「あのテストは配属と関係しますか?」




「希望と面談の方が優先だから心配しなくていいよ」




「配属っていつですか?」




「ハッキリはわからないけど、五月中には各部署での研修が始まる予定になってるよ」




私もこの時期は不安だったっけ、と


思い出すと遠い昔のように感じる。




部屋の片付けがすっかり終わるまで


質問タイムは続いた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る