18.Sな彼女とNな彼

走り出そうとすると


今度はバッグの肩紐を掴まれた。




「ちょい待てって」




「何なんですか」




「雨やで?」




「見たらわかります」




目前の国道を行き交う車のライトに


細かい雨粒が照らされている。




「傘ないんやろ?」




新しい社屋には置き傘もない。




「ありませんけど、この程度なら傘なくても平気です」




「嘘つけ(笑)。めっちゃ行こうかどうしようか迷ってたやん(笑)」




バレてる……。




「ちょ、ちょっと出る前に信号のタイミングを見てたんです」




国道を横断する信号の待ち時間は長い。




「あはは。まあええわ。信号渡った先の駐車場に車あるから送るわ」




「えっ。いっ、いいですいいです。いらないです!」




首も手もブンブンと横に振って断った。




「別に何かしようと思ってへんから(笑)。タクシー代わりやと思えばええやん」




それは助かる……けど。




「やっぱり無理です。遠慮します」




「そのハンカチ掛けてるカバンも濡らしたくないんやろ? さっきチョコ貰ったお礼。な?」




な? と言われても。




断る理由を探して黙った。




「悪いけど駐車場までは走ってな?」




彼が上着を脱いで私に被せた。




ほんのりとした香水と彼の匂いがして


胸がドキンと痛くなる。





「ほら、青やで」





彼に背中を押されながら


駆け出した。




上着が落ちないように


ドキドキが聞こえてしまわないように


祈りながら。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます