17.Sな彼女とNな彼

全部の資料を差し替えて


研修の準備が終わる頃には


午後九時になっていた。




「課長、終わりました」




髪をほどいて


シュシュをしまった。




「遅くまでありがとう。今度間宮さんの好きなもの奢るよ」




「ありがとうございます」




笑顔で言うと


課長もニッコリと笑った。




「何がいい?」




「焼肉がいいです」




「あはは。意外だね(笑)。うん、わかった。お疲れ」




買い換えたばかりのバッグを


肩に掛ける。




「では、お先に失礼します」





帰ったら十時過ぎかあ……。




エレベーターに乗り込み


一階を押した。




一人きりのエントランスを進み


自動ドアの前に立つと


微かに雨が降り始めていた。




うそ……。


予報は晴れだったのに。



うーん……。


霧雨だから走れば大丈夫かな。



新しいバッグが……。


本革だから濡れたらシミになるよね。




あれこれ考えて躊躇していた。




とりあえずバッグにハンカチを被せて


覚悟を決めた。




「リンちゃん、今帰り?」




出た。




無視して進み出そうとすると


「ちょっと」と腕を掴まれた。




「何ですか?」




「何ですか、ちゃうやん。何で無視するん?」




彼がわざと膨れた顔をする。




同じ顔を返す。




「私は間宮です。他の名前で呼ばれても知りませんっ」




ぷはっ、と彼が吹き出して笑う。




「やっぱりマミヤちゃんはおもろいなあ!」




「面白くないです。じゃあ、お先に失礼します」




まだ霧雨。




行くしかない。











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