12.Sな彼女とNな彼
何も言えなくて
込み上げてくる涙を堪えるのが
精一杯だった。
彼がすぐに私の異変に気付いた。
「ご、ごめん。そんなに嫌やった?」
慌ててスーツのポケットから
ハンカチを出して
知らぬ間に溢れていた涙を
そっと拭う。
爽やかな香りがした。
「まさか泣くほど嫌がられるとは思わんかったから……」
落ち着いた声。
でも
動揺を含んでるのが分かる。
彼が私の手にハンカチを握らせて
「ほんまにごめん」と呟いた。
捨て犬みたいに
しょげているのが
あまりにも可愛くて
何だか可笑しい。
ふふっ。
笑いを噛み殺した。
「……大丈夫です。ちょっと埃が目に入っただけです」
「嘘つけ」と彼が小さく笑う。
「本当に何でもないですから」
涙を拭って笑顔で答えた。
「ほな、嫌ちゃうってこと?」
「えっ……?! それは……」
迷惑。
その一言が言えなくて。
「それは……?」
「私、彼氏がいるので困ります」
ササヤカな嘘をついた。
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