第60話 地下道

「一体どこに向かへば……」


 前方ではドラゴが死者たちを相手に無双してる。あの数をどうにか出来るかってのは杞憂だった。全然出来てる。けど、それもいつまで持つかは分からない。だって体力は有限だ。なのに死者どもはまだまだ居るし、メルル曰く、アンデッドは浄化しないと、しばらくするとまた復活するらしい。本当ならメルルにドラゴが倒した死者達を浄化してもらった方が良いんだろうけど、流石のメルルも結界の維持で精一杯でそんな余裕は……

 

 どうにかして少しでも協会の近くに……と思ったけど、そちらは向かえば向かうほどに敵は多くなるような……

 

(私が誘導します! その言葉を伝えて下さい)

「うおっ! またこの声か」


 頭に響く可愛い声。背中のブリンを見るとその頭の所に半透明なピンクのプルプルした物体があった。

 

「スライム……この声は君なのか?」

(はい……魔物の言葉なんて信じられないかもしれませんが……この方は私を助けてくれました。だから私も助けたいのです」

「そっか……よし、信じる。案内頼む!」


 普通ならそんな事絶対に言えないだろう。だって相手は魔物だよ。そもそも魔物なんて餌を貪る本能しか無いと思われてる生物だ。こんな知性を感じる魔物は大抵強大な力を有してたりする。けどこいつはスライムだからな。物理攻撃が効きにくいってだけで、塩で倒せる相手だ。流石に強くはなさそう。そもそもこのスライム普通のスライムよりもなんか小さいし。

 魔物の中でも変わった奴なのかも。それに、自分たちを殺すつもりなら、あの時川に引きずり込むことだってできたんだ。けど、それをしなかった。つまりは殺すつもりは無いんだろう。そう判断した。てか今はこのちっこいスライムよりも目の前の死者の軍団のほうが死を感じる。当然っちゃ当然だ。

 

(協会へ通じる地下道があります。そこまで頑張ってください)

「それはドラゴの奴に言ってくれ」


 あいつが力尽きたら、僕達もれなく終わりだからね。とりあえず地下道があるらしい。確かに正面から向かうのは無理っぽい。いくらなんでもドラゴの体力が尽きる。自分はスライムの声伝えつつ、寂れた小屋みたいな建物へと誘導した。どうやらこの町にはこういう小屋が幾つかあって、それが地下道へと通じてるらしい。中に飛び込んで扉を木の板でひっかけた。ドンドンと扉の向こうで死者達が扉を叩いてる。

 

 中は窓もなく真っ暗だ。周囲を照らす魔法をメルルが唱える。このくらいは同時に出来るらしい。とても狭い小屋だ。僕達三人なら余裕はまだあるけど、あと二人暗い追加されると、もう一杯一杯になりそうなくらい。そんな小屋には開け放たれた箱がいくつかある。そして自分たちの足元にあるゴザをめくると扉が出てきた。

 

「これか……」

「よくこんなのわかったな?」

「ん? ああ、それはこいつが教えてくれたんだ」


 ドラゴの言葉に僕はそう言ってブリンの頭のスライムを指差す。するとブリンの奴は顔を抑えてこういった。

 

「またかよお前……なんか魔物に好かれる体質なのか?」

「それは……分からないな。けどこいつがなついてるのはブリンっぽいぞ。とりあえずブリンの仲間の僕達に敵意は無いっぽい」


 こうやってちゃんと道も有ったしな。一瞬魔物に懐かれるのが自分の勇者としての特性なのかも……と思った。過去にはそういう勇者もいたらしい。けどまあ……過去の勇者が従えてた魔物はそれこそドラゴンとかだったらしいけどね。それに比べて自分はゴブリンにスライム……格が違いすぎる。ないね。そもそも自分が言った通りにこのスライムはブリンになついてるんであって僕にじゃない。

 

 とりあえず自分たちは地下へと降りる。それはとても細い道だった。二人が横に並んだらそれで一杯一杯になるような道。でも地下の道は所々にある松明が道を照らしてた。お陰で足元がおぼつかないって事はない。自分たちはこの地下道を通って協会を目指す。

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