第32話 矜持
「な、なんだお前ら!!」
「なんだと言われても……しいていうなら正義の味方かな?」
「ちっガキが! 後悔させてやる!!」
盗賊の頭みたいな奴が激高して欠損してない部下を刺し抜けてくる。けど、そいつらは自分達のところまでもたどり着けなかった。なぜならメルルの出した光る玉にズタボロにされたからだ。血を吹き出し地面に倒れて変なうめき声を出してる。これは死ぬな間違いない。でも意外だ。メルルは人殺しは躊躇するだろうとおもってたんだけど……それだけ盗賊には恨みがあると?
まあそこまで聞こうとはおもわないけどね。誰にだって秘密はある。無理に暴く必要があるとは思わない。
「さて、残りはあんただけだがどうする?」
そう言ってドラゴの奴が剣を構える。ドラゴの奴に一瞬気圧されそうになった盗賊の親玉だが、誇りか意地か……そんな物があるんだろう。自分よりも断然若い僕らに舐められたままではいられない……盗賊なら尚更かもしれない。
「てめぇら全員ぶっ殺して、金目の物を奪って逃げてやるよ。なんとしてもな!!」
「はっ、やれるものならやってみろ!!」
二人の武器がぶつかりあう。流石にメルルも邪魔する気は無いようだ。大半はメルルが殺したから少しは気分も晴れたのかもしれない。お頭はドラゴに譲る事にしたようだ。けどこの状況で逃げる選択をしないのは予想外ではあった。流石にもう形勢は完全に逆転された。普通なら逃げそうなものだ。ここでとどまって戦っても死ぬ可能性の方が圧倒的に高い。
けど、盗賊の頭の戦いをみて、どっちも同じなのかもとおもった。奴は仲間を失った。それはもう盗賊業はできない事を示す。盗賊なんてやってる奴だ。諦めて普通に暮らす……なんて出来ないんだろう。だからこそ、盗賊に身を落としてるわけだろうしな。自分自身がそれを一番良くわかってるから、自分の盗賊の矜持を賭けてるのかもしれない。
この窮地を抜け出せたら自分にはまだやってくだけの力があることになる。けどそうじゃなかったら……諦めもつくのかも。けど決着は早かった。明らかに盗賊の頭はドラゴよりも劣ってた。そもそも武器や防具の質でも負けてる。それに元々才能あるドラゴの方が動きでも圧倒してた。盗賊の頭の攻撃はかすりもしない。かすったとしても傷一つつかない。
それなのにドラゴの一撃は盗賊の装備程度じゃ防げない。だって鎧じゃないしな。ただの薄汚い服に防御力なんて求めちゃいけないってものだ。それがわかっててなんとかかわしてたが、直ぐに満身創痍。それでもそいつは最後まで盗賊だった。
「死ねええええええええ!!」
そんな風に叫んで迫る。それをドラゴは渾身の力で一刀両断した。身体が上と下で別れた盗賊の頭は絶命した。そんな亡骸を見てドラゴが呟く。
「見事だった」
確かにそうだと思う。盗賊の認識を改めないといけないかもしれない。ただのクズとかカスとか思ってたが、この男には確かに盗賊の誇りや矜持があった。それを感じた。死ぬその直前まで、盗賊だった。盗賊になるような奴に気概とかがあるとは思わなかった。もっと芯の弱い奴等だと思ってた。けど、この男は違った。やってることは最低だ。死んで当然。だから罪悪感なんてない。
けどその生き様? 死に様には感心せざるえない。一体どれほどの人たちが最後まで自身の矜持を貫けれるだろうか? 死ぬかもしれない相手に向かっていける? こいつの行動はただの無謀だったかもしれない。真似したいとは一切思わない。けど、自分は自身を見つめ直す。勇者として自分は最後まで勇者であれるか。最後のその瞬間まで勇者でいれるか。それはまだわからないけど、そうありたいと自分は思う。
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