第17話 後悔

 スッキリとした視界の中、人間の動きが面白いようにわかってた。どういう動きをして、どこを狙ってくるかまでわかる。そうなると簡単だ。幾ら速く、重い攻撃だとしてもそれが事前にどこに来るのかわかってるのならどうとでもなる。捌き、いなし、そして反撃に出る。

 

「こいつ!?」


 そんなことを騎士の一人が言った気がした。驚きの瞳……だがまだまだこんなものじゃない。もっともっと苦しめて、絶望させて殺す。一つ一つその四肢を切り落として、舌を引き抜き、目玉をえぐり出す。そして最後にその心臓を握りつぶす。その瞬間を想像すると、僅かだけど怒りが静まる気がする。なくなるわけじゃないが、目的を見据えると怒りが別の何かに変わるような感じ。

 そしてそれが頭を冴え渡らせて、体の動きをスムーズにする。一人の騎士の足を切る。太ももの所を結構ザックリといった。言葉にならない声が聴こえる。それを聞いて心に歓喜が起こる。

 何かが満たされていく。けど全然足りない。まだまだだ……まだまだ足りない。その血を飲ませろ。その顔を絶望に染めろ。苦しんだ分だけ……いやそれ以上に苦しめ人間!!




 ドラゴもデンドさんも全力を出してない。出してないけど、二対一なのに押せれてるのは流石におかしい。余裕がなくなってきてる。傷はスーメランさんとかメルルとかいるから多少は大丈夫。

 メドさんもあのゴブリンに気づかれない範疇で魔法で支援をしてる。ここで何もしてないのは自分だけ。やれることがないんだからしょうがない。せめてあのゴブリンをよく見てく……くらいしかできない。


「もうちょっと追い詰めれると思ったんだけど……」

「それだけ、あのゴブリンが強い?」


 メルルが自分の呟きにそう反応した。それに首をふって答える。実際の所よくわかんないしな。強いとは思う。現状を見て、そう判断出来る。もっと追い詰めて、そして全部出し切っての勝利というカタルシスを提供したかったんだが、そうはいかないようだ。

 もしかしたら騎士の姿を見た瞬間に理性が飛んだ? とも思ったが、動きは明らかに理性的だ。寧ろ、どんどんと洗練されていってる気さえする。ずっと首の周りにベタッとした何かが張り付いてる感覚。

 自分達は何かを間違ったのかもしれない。魔物に同情だなんて……そんなことを思ってるとゴブリンが信じられないことをしてきた。


「まさかあの光は!?」

「魔法……」


 そうあのゴブリンは魔法を使い出した。確かにゴブリンには魔法を使う個体もいる。けどそれは元からそうというか、そういう役割だから見たいな? 実際魔物が魔法を使う理論はわかってない。

 だから確かなことは言えないけど、あのゴブリンは明らかに前衛タイプだった。それなのに魔法まで使うだなんて……一体この短時間にあのゴブリンに何があったんだ? わからない。わからないけど、それから一気に情勢が変わった。


「づあ!?」

「ぐはっ!」


 ドラゴとデンドさんが吹き飛ばされた。ドラゴの方なんて武器を取り落としてだ。あいつは盾とか持ってない。自分の技術に自信あるやつだったからな。けど、それが今は命取り。当然のごとくゴブリンは武器を落としたドラゴを追う。

 追撃の一撃は回転してかわしたけど、立ち上がる前にゴブリンはドラゴの足に左手の剣を刺した。


「ぐあああああああああ!!」


 響く断末魔の叫び。自分は思わず飛び出した。けど、遠い。間に合わない。ゴブリンの凶刃は今にもドラゴの首に届く。


「やめろおおおお!!」


 勢いしかなかった。その勢いに任せて左手にある短剣を投げる。当たるなんて思ってない。まっすぐにさえ飛ばないかもしれない。けど、ただ……ただ当たれと念じる。自分のせい……自分のわがままで仲間を……友を失う。そんなことは嫌なんだ!!

 何もない勇者だけど、何もなくしたくなんかない。

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