第12話 犠牲
わずかに戻った体力で自分は地面を横に転がった。その直後、激しい風が体に届き、同時に背を預けてた木がメキメキと言って倒れた。あれを一度食らったんだよな……と思うと背筋がぞっとする。
おかしくなった左腕を見る。そこには半分ほど消えた盾がある。これもただの盾。この改造ゴブリンの一撃を受け止めるには役不足だったようだ。左腕は明らかにプランプランしてるけど、痛みはない。きっとメルルの魔法のおかげだろう。
獲物を確認するように改造ゴブリンがこちらを向く。理性を失った瞳には、けど心なしか悲しみと怒りが見て取れる。こいつもこんなことは本意ではないんだろう。でも人は許せない。自分たちをこんなにした人を……
「でも……ここで殺されるわけにはいかないんだよ。お前もそれじゃあいつらの思惑通りで嫌だろ? だから死んでやらない」
そうここで自分を殺すのはあの騎士たちのひいては国の思惑通り……そこまでしてやる必要なんてない。木の陰に隠れてるメルルと視線を合わせる。徐々に回復する魔法をかけて他のやつを準備してるようだ。そのレンズの奥の瞳は強く光ってる。自分はそれに頷くよ。逃げるなんて選択肢はない。
てか、自分ではこの改造ゴブリンから逃げることはできない。足ガクガクしてるしね。それでも心で奮い立たせて、剣に力を込める。片腕ではどうやっても改造ゴブリンの肌に傷をつけることはできないかもしれない。
でも……向かうことしかできないんだ。大丈夫、メルルがなんとかしてくれる。自分は弱いからできることなんて限られてる。だから一つ心に誓ってることは『仲間がなんとかしてくれる』ってことだ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
声を出して心をたぎらせて動き出す。それに応えるように改造ゴブリンも大きく吠えて全身の肉を膨らせる。向かってくる自分の体さえも超えそうな腕。それでも自分は止まらない。
その時地面から出てきた鎖が改造ゴブリンの腕を止める。でも止まらない。すぐに逆側を向けてくるけどそれもメルルの魔法によって絡め取られた。そして攻撃手段がなくなったと思ったら野生の本能か、大きく口を開けてかぶりつこうとしてきた。
(なるほど、そういうことか!!)
その瞬間、メルルの狙いがわかった。確かに自分ではこの改造ゴブリンの肌を傷つけることはできない。けど内側なら……そういうことだろう。汚く鋭利な牙が凶悪に見える。けれど自分は腕を目一杯伸ばす。
その瞬間、体が光の粒子に包まれる。そして吹いた風が勢いを後押ししてくれる。
「いっけええええええええ!!」
確かな肉の感触と同時に勢い良く閉じられた口が自分の腕を食いちぎる。引き分け……くらいには持っていけたかな?
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