050 炎の矢
「……父上が?」
上ずった声で、スィグルは薄笑いを消せないまま問い返した。
「そう。フラカッツァーで、私に。スィノニムが、森エルフから奪った土地を返すと約束したので、森エルフ族族長のシャンタル・メイヨウが、正式に黒エルフ族の助命嘆願を申し入れたんだ」
無表情を崩しもしないシュレーが、しれっと答える。
「……嘘だ」
考えるより早く、言葉が口を衝いて出た。
思わず立ちあがるスィグルの顔を、シュレーがのんびりと見上げてきた。
「返すってなんだよ。もともと僕らの領地だ。それを取り返しただけだ! 父上はいつも、命より誇りを惜しめと……」
「君の父上は、君に嘘を教えたんだ」
スィグルの言葉を押しのけて、シュレーが口をはさんだ。
スィグルは自分が何を言おうとしていたのか、すっかり忘れてしまった。
「君の父上はシャンタル・メイヨウに頭をさげた。正直でいいじゃないか。全滅して大陸史から抹消されるより、いくらかの土地を返すほうが、ずっとマシだ。それとも君なら、森エルフに命乞いなんかできないか。誇りを守って餓死するっていうのかい」
スィグルは眩暈を感じて、うなだれた。
「……ひどい」
「何が、ひどいんだ」
シュレーの言葉はとても穏やかで、無慈悲だった。
「僕らの土地なのに……」
「この大陸の土地は神殿のものだ。君らの持ち物じゃない。新しい別の部族に、いつでも投げ与えることができる。君たちは滅亡してしまって居ないから、文句を言えない。それでみんな、しあわせだ……」
「そんな。そんなのって……僕らの土地だ!」
「君たちがいたことなんて、みんなすぐ忘れるさ。今までもそうだったんだから」
言葉もなく、スィグルはシュレーの目を見つめた。
本気で言っている。
シュレーが作り話をしているのだったらいいのにと、スィグルは思った。その考えに逃げようとして、スィグルは失敗した。
シュレーは幾らか悲しそうではあったが、ほんの少しだけだ。
何度も同じような滅亡の間際に立ち会ったような、場慣れが感じられる。
神殿は本当に、黒エルフ族を滅ぼそうとしていたのだ。
そう思うと急に、スィグルは怖くなった。
怖くてたまらない。
ひとが誰かにひどいことをするのに、理由なんかいらないのだ。
母上がどんなに泣いてあやまっても……鋏(はさみ)が指を……
「やめて」
悲鳴のような声が、のどの奥からあふれ出た。
跪いて、スィグルは目の前にあったシュレーの膝を掴んだ。
ぎょっとしたシュレーが身をひこうとしたが、骨ばった膝に、しっかりとスィグルの指が食込んでいる。
「滅ぼすなんて、そんなのひどいよ……助けて、滅ぼさないで。お願いだよ!」
立ち上がりかけていたシュレーが、身動きがとれないと諦めたのか、落ち着かない表情で椅子に戻った。
「レイラス、落ち着け。助命嘆願は聞き入れられたんだ。だから君が今ここにいるんだ。黒エルフ族の絶滅の代わりに、四部族(フォルト・フィア)同盟を提案して、天使たちを説得したんだ」
「じゃあ……この同盟はあんたの差し金なのか……」
呆然と、スィグルは唸った。
父を跪かせた神殿の連中が憎いと思ってきた。同盟を恨みにも思った。
だがその同盟に部族の命を救われていたなんて。
それが今目の前にいる者の仕業だったなんて。
……眩暈がする。
「他になにか、いい案があったら教えてくれ」
シュレーはどこか、苛立ったふうに答えてきた。
息が苦しい。
混乱した頭を落ち着けようと、スィグルは目を閉じて、深く息を吸い込んだ。
しかしぼんやりした意識はますます不透明になって、自分がなにを考えているのか、スィグルにはもうよく分からなくなってしまった。
「痛いんだが、そろそろ離してくれないか。君の椅子はあっちだ」
軽い苛立ちを感じさせる声で言い、シュレーが向かい側の椅子を指差した。
スィグルは我にかえって、シュレーの膝から手を離した。指が痺れている。かなりの力で掴んでいたらしい。
そのままシュレーが座っている肱掛椅子の足にもたれて、スィグルは床に座り込んだ。
「ここで聞いてもいい?」
「君たち黒エルフでは床に座り込むのが正しい作法なのか」
「いいから続きを話してよ」
スィグルは指図をうけるつもりはなかった。
じっと見上げて黙っていると、シュレーは観念したのか、ふかぶかとため息をついて、肘掛に肘をつき、赤い聖刻のある額に手をやった。
「……呪いの執行には、天使会議での合意と、大神官台下の許可が必要なんだ。天使会議での決定は多数決だから、なんともいえない。……いや、もっと正確にいうと、絶滅の立案は、たいてい可決されるものなんだ」
「でも、あんたが止めてくれるんだろう。あんたはそのための天使なんだからさ」
話す自分の口調が、責め立てるような早口だったのに、スィグルは驚いた。
「誰も私の話なんて聞いてない。天使たちは次にどれを滅ぼすか決めて、それを実行しているだけだ。大神官も、天使会議の決定はたいてい呑んでしまう」
うつむくシュレーの顔は、ひどく深刻だった。
「……じゃあなんで、僕ら黒エルフは助かったの」
しばらくたってやっと、自分の考えていることが言葉になった。スィグルはシュレーの膝の代わりに、彼が座っている肘掛椅子の脚を強く握り締めた。
「実際のところ、君たちの絶滅はいちど決定されたんだ。でも、大神官が許可しなかった」
ちらりとスィグルを横目に眺めて、シュレーは説明した。彼自身、なっとくしていないような話し振りだ。
「僕らだけなにか特別だったのかな」
なにげなく思っていることを口にすると、シュレーが皮肉っぽく笑った。
「それは君らしい、夢のある理由だな。でもまあ、そうかもしれない。考えられる理由は一つだけだ。なんだか分かるかい?」
冗談めかせて尋ねてきたシュレーに、苛立って首を振った。
「いいから言えよ」
答えをせがむスィグルの顔を、シュレーはやれやれという表情で見下ろしてくる。
「……私と血が繋がっていることだ」
「繋がってないよ」
びっくりして、スィグルは言い返した。
「エルフはもともと、ひとつの種族だった。それを神殿が四種族に分けたんだ。だが今でも、君たちは交配が可能で、混血児を産むことができる。私には山エルフ族の血が流れているから、君たち黒エルフ族とも、交配できるかもしれない」
「……交配?」
スィグルが鸚鵡(おうむ)返しに聞き返すと、シュレーは気まずそうに目をそらした。
「わからないならいい。とにかく、呪いは血の近い者すべてに及ぶんだ。黒エルフ族にかけた呪いは、四部族全体に効果を顕わす恐れがあるし、私の身にも害があるかもしれない。森エルフ族の族長シャンタル・メイヨウは、自分の部族民の身を心配したし、大神官は孫である私の命を惜しんだ。だから君たち黒エルフの助命に協力したんだ」
スィグルは納得して、頷いた。
「じゃあ、もしかして僕らは、永遠に滅ぼされることがないんだ」
「私が……いや、現職の大神官が生きている限りはな」
きっぱりと言うシュレーの顔を見て、スィグルは雷に打たれたような戦慄を感じた。
「大神官て、いつ死ぬんだろう」
「在位の年数からして、もう長くない」
「……じゃあ」
「時間が無い」
甘えのない口ぶりで、シュレーは断定した。
スィグルは大きく息を吸って、目を見開いた。
「どうすればいいの」
「それまでに神殿を倒すしかない」
「そんなの無理だよ」
スィグルは即答した。
絶望的だ。
スィグルはシュレーにもたれかかったまま、割れそうに痛み始めた頭を抱えた。
「神殿は、大陸の全種族に君臨している。だから、大きな力を持っているように見えるが、実際のところ、おそらく、数千人ていどだ」
説明されて、スィグルはやっと顔をあげた。
「君達が恐れている呪いも、神殿内の特定の一派が取り仕切って、他には秘密にしているから、実際にそれと関わっているのは、ごく一部、せいぜい数百人。君達が心底恐れてるのは、そのたった数百人の神殿種なんだよ」
シュレーの声は小さかったが、まるで、耳元で叫ばれているように思える。
「だから、呪いに携わる数百人が一時に死ねば、呪いの技術は失われる」
あっさりと説明するシュレーの口元に、薄笑いが浮かぶのを見つけて、スィグルは小さく息を呑んだ。
「でも……そんなこと、ありえないよ。たくさんの神殿種が一時に死ぬなんてさ」
「自然には無理だが人為なら、ありうる」
「ちょっと待てよ、そんな……」
目元を手で覆って、スィグルは気を落ち着けようとした。
「聖楼城に軍をいれるなんて、絶対にむりだ。先に気づかれて、部族ごと滅ぼされるよ」
何度も首を振って、スィグルはシュレーの言葉を必死で振り払った。
「君が生まれる前の話だが……聖楼城に大火が起こって、中にとりのこされた神殿種を救い出すために、入城を許された部族がいるんだ」
話しながら、シュレーは何故か、うっすらと歯を見せて微笑んでいる。歯列にいやに犬歯が目立つ。
「私の父、ヨアヒム・ティルマンが率いてきた、山エルフ族だよ。父は城のなかに入って、女(ファム)たちを助け出したんだ。……そして破滅した」
にっこりと微笑んで、シュレーが静かに立ち上がった。
傍近くから引き離されて、スィグルはひどく心細くなり、厳かな身のこなしで暖炉に歩み寄るシュレーを、頭を巡らして見送った。
大人びた長身が炎のそばにかがみこみ、指先に火が燃えうつるのではないかと怖くなるほど手をのばす。
「もう一度、聖楼城に火を。中から火を放てば、簡単だ」
つぶやくシュレーの声を、スィグルは抱きよせた自分の膝に寄りすがって聞いた。
「君がやってくれないか」
「……そんなの、僕にできるわけない」
気力のなえた声で吐き捨て、スィグルは膝に顔をうずめた。
「君の名前はレイラスだろう。詩篇は君の運命も予言してるよ」
「彗星レイラス?」
ふん、と鼻を鳴らしてスィグルは毒づいた。
「そう。天をうがつ炎の矢、だ」
笑う気配のする声で、シュレーが詩篇の一節を続けた。
「言いがかりだ。名前が同じってだけで、そんなのないよ」
「そうかな」
皮肉めかせた声で言い、シュレーは立ち上がってこちらを見た。
「私なんて、伝説上の人物と同じ名前だというだけで、初対面の教師に吊し上げられたり、君に怨まれたりしているが、それは言いがかりじゃないのか」
指先にのこる火の熱さを確かめるように、シュレーは手を握り締め自分の唇に触れさせている。
「レイラス、私は思うんだが、人にはそれぞれ運命がある。逃げれば逃げるだけ、それは追いかけてくる。逃れたいものとは、対決するしかない。そしてそれを、乗り越えていくほかない。私は黙って殺される気はない。君はどうなんだ。ただここで、殺されるために生きるので、ほんとうに満足なのか。生き残って、やりたいことは何かないのか。ごみのように捨てられた屑のまま死んで、それで構わないのか」
淡々と問い掛けられて、スィグルは息を呑んだ。
「……僕が屑だって?」
「他のなんだ」
あっさりと問い返された言葉に、答えを返せない。
スィグルは黙ったまま、ずっと椅子の足元にうずくまっていた。
しばらくして、暖炉の薪が燃え崩れ、ぱちぱちと賑やかな音を立てた。スィグルははっとして、顔をあげた。
どれくらい時間がたったのか、よくわからなかった。
しかしシュレーは相変わらず答えを待つように、暖炉のそばから、こちらを見つめていた。
「やる気になったかい?」
そこはかとない期待を感じさせる口調で、シュレーが尋ねてきた。
「できるわけないだろ。馬鹿じゃないのか」
早口に、スィグルは吐き捨てた。
「……そうか」
落胆した気配が、シュレーの相槌からにじみ出ていた。
スィグルは立ちあがって、シュレーと向き合った。
「あんたが天使なんだろ。あんたが1人でなんとかしろよ」
力なく、スィグルは悪態をついた。
「君はずるいな、スィグル・レイラス。私のことを天使として信仰してるわけでもないくせに、都合のいい時だけ祭り上げる。君たちはみんなそうだ。都合のいい救いだけ受け取ろうとする」
「いや……そうでもないよ」
シュレーのそばに歩み寄りながら、スィグルは答えた。
「僕はさ、あんたのこと信じてたよ。……昔はね。天使のなかでも一番好きだったし」
「それは意外な告白だ」
信じていないふうに、眉をあげ、シュレーは笑っている。
でも本当だ。
子供のころは何度も、慈悲の天使に祈った。ある時は、日常のささやかな罪の許しを求めて。別の時には、戦いに赴く父や部族の兵の無事を願って。あるいはただ何と無く、漠然と正体の定まらない幸福を望んで。自分よりはるかに大きな力を持った、神聖な者に頼りたい気持ちで。
実際に、自分が祈っていた相手の姿を見てみるまでは、それが滑稽なこととは知らなかった。
シュレーは自分と変わらない、ただの少年だ。他よりいくらか優れたところがあったとしても、一人で成し遂げられることには限界がある。それどころか、シュレーには、自分の力ではどうにもできないことに向き合った時に、祈ってすがりつく相手さえいないのだ。
スィグルはシュレーの顔を上目遣いに見上げた。
「あの教師だけどさ、あんたのこと恨んでないと思うよ。あれは、なんていうか……あんたに祈ってるんだ。助けてほしいって。救って欲しいんだよ、あんたに。別になにかして欲しいって期待してるわけじゃなくてさ……」
シュレーはただじっと緑の目をこちらに向けて、スィグルの話を聞いている。
「僕にもわかるよ、そういう気分。僕は死にたくない。もう一度、母上や弟と、幸せに暮らしたい。部族の民を幸せにしたい。僕は部族の勇者として誇り高く生きたい。けど僕は……あんたが言うように、ただの屑だ。どうにもできないじゃないか。祈るしかないんだよ。他にはなにも、できることがないからさ。それぐらいいいだろ……それぐらい…………」
言葉が途切れてしまい、スィグルは空白の息だけを吐いた。
さまざまな思いが絡み合って、頭のなかが真っ白になった。
強い力に押し出されるように、スィグルはがくりと、絨毯のうえに膝をついた。
「ブラン・アムリネス猊下、私の懺悔をお聞きください」
むかし躾けられた通りの、神殿の作法どおりだ。しかしスィグルは、心からの声で話していた。
「罪を告白しにまいりました」
右手で心臓を覆う仕種は、神聖な種族への恭順のしるしだ。
たっぷりと迷う気配を漂わせたのち、動揺した力無い声で、シュレーが沈黙を破った。
「……偽り無き言葉で話せ」
懺悔を聞く神官たちが決ってそう答える、お定まりの言葉だ。
「教えに背き、人を殺めて食いました。厭がる弟にも無理矢理に。一人で科人になるのが恐ろしく、弟を付き合わせました。罰は全て私にお与えください。贖罪(しょくざい)の方法をお示しください。私の一生を、猊下の救いのための道具と思し召しください。どんな苦役も望んで受けます」
前もって考えていたわけでもない言葉を淀み無く言い終え、首を垂れて、神殿の天使像にそうするように、スィグルはシュレーのつま先に、自分の額を押し当てた。灼けたものを押し当てられたようにシュレーが緊張した。
おそらく自分はいつも、頭のすみで祈り続けていたのだろう。同じ言葉を繰り返し、相手のいない繰り言として、陳腐な呪いでもかけるように祈り続けてきた。
顔をあげると、シュレーは怒ったような、途方にくれたような顔をしていた。
「レイラス、私が言いたかったのは……君にも幸せになる権利はあるということなんだ」
「そんな下らない慰めは聞きたくない。僕が聞きたいのは、天使の言葉だよ、猊下!」
スィグルが突っぱねると、重い沈黙が返った。
少しして、シュレーは手をのばし、スィグルの頭に触れた。
「……神殿を滅ぼし、大陸の民にあまねく、等しき自由と解放を。それをもって、汝の罪を許す」
威厳に満ちた神聖な声だ。スィグルは軽い驚きを感じて、シュレーの無表情な顔を見上げ、目を瞬かせた。
「お言葉に従います」
スィグルは微笑んだ。
「どんなに強がって見せても、君は結局、神殿の被支配民にすぎないのか」
シュレーの言葉からは、侮蔑の気配ではなく、ただひたすら落胆だけが感じとれた。スィグルは今までにない落ち着いた気分で微笑みかえした。
「あんたは知らないのかもしれないけど、支配するより、支配されることのほうが、ずっと楽なんだよ。侵略者の横暴に屈伏した僕が言うんだから間違いない。誰も彼もが神殿の支配を嫌ってると思ってるなら、あんたはきっと失敗する。僕が力を貸すのは、あんたが天使だからさ。あんたが、なにかものすごい奇跡を起こして僕らを救ってくれるって、心のどこかで期待をかけてる。僕だけじゃない……みんな同じだ」
「肝に銘じておこう」
「僕があんたを手伝って、この世界を壊したら、ご褒美に母上と弟を元通りにするって約束してよ。そして僕らを苦しめた連中に制裁を」
「……約束しよう」
シュレーがおとなしく嘘をついた。その声を聞き、スィグルは心底ほっとした。
それこそ自分がずっと求めてきた救済だ。
いや、こういうのは堕落っていうのかな。
自分はもともと、そのように出来ているのだとスィグルは思った。そういう恥知らずな造りだから、一人だけ何食わぬ顔で今ものうのうと生きていられるのだ。
「それじゃあ、僕は今から、彗星レイラスだ。あんたの野望のために、天を穿つ炎の矢になろう」
シュレーは物言いたげに沈黙した。
「二度と私に跪くな」
「友情が欲しいってわけ?」
手短に、スィグルはシュレーの期待を言い当てたつもりだった。神殿種の少年がうっすらと顔をしかめるのを、スィグルは気味良く見つめた。
「仰せのままに、猊下」
「腹の立つやつだ」
「あんたが馬鹿なんだよ」
おかしくなって、スィグルは小さく笑い声をもらした。
「君の言うとおりだろうな」
肩から力を抜き、シュレーが石造りの暖炉を掴んで、炎をのぞきこんでいる。そうやっていると、シュレーにはこれといって威厳はなかった。ごくありきたりの少年だ。
さっきのは何だったんだろうと、スィグルは不思議だった。
「先のことはいいけど、とりあえず何からやればいいのさ」
「族長になることだ」
スィグルは瞬きして、首をかしげた。
「あんた、族長になりたいのか。そうだったよね」
「私もそうだが、君も。それからマイオスとフォルデスもだ。そして四部族(フォルト・フィア)をひとつの部族国家に戻す。第四大陸に巨大な連合王国を作るんだ」
「…………は?」
微笑んだまま、スィグルは聞き返した。
「今なんて?」
「族長になって、四部族(フォルト・フィア)の統一に力を貸してくれ」
スィグルは無意識に立ちあがっていた。
「……無理だろ、そんなの」
スィグルは呆然とつぶやいた。シュレーは何事も無かったように、燃える薪を見つめている。
「なにを寝ぼけたことを……今まで何を聞いていたんだ、レイラス。聖楼城に入れるのは部族長か、その継承者だけだ。君は私に、君の部族の継承者になると約束したんだぞ。フォルデスやマイオスにも同じことを納得させなくちゃならない。あんな野心の欠片もないような、ぼやっとした連中にだ」
憮然と早口になるシュレーの話を聞きながら、スィグルは一瞬のうちに猛烈な怒りが自分の奥底からこみあげてくるのを感じた。
「そんなことできっこないだろう! あんたこそ何を寝ぼけたことを言ってるんだ!」
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