さよなら、海鳴りの島、父のいた学び舎

作者 氷月あや

95

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★★★ Excellent!!!

隠れキリシタンなどで有名な、長崎県に属する五島列島。当作品は、その地で青春を送られた作者さまの思い出を綴ったものです。

短い文章ながら、緻密な風景描写のあとに主人公の所感を添え、これを反復させることにより、遠大さと共にアルバムを見るときのような懐古をもたせているように思いました。

作者さまは音楽を嗜まれる方のようですが、このあたりの趣向はそういった影響もあるのかもしれません。

学校で過ごした時間というものは、家族と過ごした時間とはまた違う思い出を与えてくれるものですが、作者さまの場合はお父さまが教頭先生をなさっていたとのことで、また趣の違うものだったのかもしれません。

作中で語られる間伏小の校歌。一度聴いてみたいものですね。


★★ Very Good!!

私は九州の一画が出身地ですが、五島列島には行った事がありません。でも、本作品で描写された内容は能く理解できるつもりです。
まぁ、何と言うか、お父様は立派な足跡を残したと思います。私自身は跳ねっ返りのキャラですから、恩のある教師を敬ってなんてアクションを取らないのですが、本来ならば、本作品の様に集い、親交を温めるべきだと言う事も理解できます。年老いてから悟っても出遅れ感が有りますが...。でも、その気持ちを大切にする心構えは、時宜を逸したとしても大切だと言う気もします。
何だか、何を言いたいのか?ーー能く分からなくなりましたが、作者の伝えたい事は何と無く私に伝わった様な気がします。
星の数は、短編にはMAX2つが信条だからです。

★★★ Excellent!!!

 作品で描かれている情景は、昔島で生活した者にとって懐かしいの一言に尽きる。今は都会で暮らす島出身の多くの人が、この作品を読んで同じ気持ちになるのではないか。
 私が知る昭和の五島は、人口も多くまだ賑やかだったが、島を取り巻く厳しい現実があった。島を去るフェリー乗り場には、永遠の別れのような悲壮感があった。仲間とも、もう会うことも話すこともないかもしれないという覚悟があった。
 今はSNSがあり、いつでもつながっているという安心感からかそういう悲壮感は少なくなったと思う。SNSは、いつまでも仲間が仲間として続くという楽しさを提供してくれるからだ。漫画、バラカモンも明るいタッチで描かれている。
 昭和と平成の情感を比較しながら、楽しめる作品だ。
 

★★★ Excellent!!!

 手元に辞典を持っているわけではないので誤りがあったら申し訳ないけれど、インターネットで調べたところ、「ふるさと」という言葉は広辞苑で以下のように説明されているそうだ。

 ①古く物事のあった土地。古跡。旧都。
 ②自分が生まれた土地。郷里。こきょう。
 ③かつて住んだことのある土地。また、なじみ深い土地。

 間違いではない。だけど完全に説明しきれているとも思えない。この定義は「ふるさと」という言葉が言外に持つ、のどかで牧歌的な雰囲気に触れていないからだ。

 高層ビルが立ち並ぶアスファルトで固められた街に生まれ育った人間は、自分の生まれた土地をあまり「ふるさと」と呼ばない。風光明媚な景色、人と人との温かい繋がり、そしてその土地に対する深い愛。それらがあって初めて「古巣」は「ふるさと」になり得る。世間にはそういう暗黙の了解があり、ゆえに都市開発と人口集中の進む現代日本において、胸を張って「ふるさと」と呼べる土地を持っている人間は意外と少ない。

 そんな中、本作の作者様が幼い時を過ごした長崎の五島列島は、文句のつけようがなく「ふるさと」だ。

 端正な文章で綴られる島の景色は温かく、美しく、行ったこともないのになぜか懐かしい。それはきっと語り手が島の情景描写を語る際、「嬉しかった」「楽しかった」「綺麗だった」といった感情表現をほとんど使っていないからだと思う。だから読み手は語り手の思い出を追体験し、まるで自分のことのように感じ入ることが出来る。勿論それは、感情を表す言葉を使わずともどう感じたかが存分に伝わる、圧倒的な情景描写力があってこそのものだけれど。

 最後、本エッセイの視点は過去から現代に移る。語り手は一緒に島を巡っていた読み手を切り離し、胸に抱く「ふるさと」への愛をめいっぱい溢れさせる。僕は「ズルい」と思ってしまった。だってズルいじゃないか。誰だって「ふるさと… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

離島で生活していた人の息吹を感じられるような素敵な作品と思いました。
海風と砂、何気ない生活の記憶が今はなくなった学校へのノスタルジーに繋がって、過ぎたものへの暖かさを感じます。

思い入れが感じられる作品は、やはり読んでいて気持ちがいいです。
とくに、最後に方言を用いて気持ちを書く!凄く良いなと思いました。

★★★ Excellent!!!

わたしは、地図が好きだ。TVを見ていても、どこだっけと思ったら、すぐ調べる。

五島列島、なぜかその形が気に入った。日本でも有数の漁場だと資料にあった。魚も新鮮だろう、仕事を終えたら、住みたいと思っていた。
島の小学校を通して、行ったことがないのに、なぜか、懐かしさを感じた。爽やかな文章だ!

★★★ Excellent!!!

島国・日本。

私は離島に住んだことはありませんが、
いくつかに訪れたことがあります。
(本作の舞台である長崎は未経験ですが)

地続きでないことによる不便もあれば
独特の文化があったりして、
「旅の魅力」を十分に感じられる場所です。

でも、住む人にとっての「島」は?
その一部が切り取られたのが本作。

読み終えてすぐ、地図で若松島を調べました。
五島列島、地図では右から2番目の島。

――いつか行ってみたい。

そう感じさせられる作品でした。
それにしても、作者の氷月あやさんは
心の機微を書くのがうまいなあ……。


★★★ Excellent!!!

抑えに抑えた文体の中に、それでも溢れてくる思い出が散りばめられ、砂の中の宝石のように美しい。

無粋を承知で一例を挙げれば、『父が運転する潮で錆さびたワゴン車』にある、“潮で錆びた”の一言が、単なる描写や説明を越えた「思い出」として一文を輝かせている。

そして幕切れ。それまでの抑えていた文体からの切り返しの鮮やかさ、心地よさ、解放感。そして郷愁。

なんともうらやましい。このような“故郷”があることを、心底うらやましいと思わされる。そんな秀作エッセイ。

★★★ Excellent!!!

島の最後の小学生であった筆者。
いまは学んだ小学校はおろか、町の名すら合併で消えてしまった。
けれど断崖絶壁の孤島に唯一あった船着場や、そこでの釣りの思い出。漁船のエンジン音。
また秋には蛍が山を飛び回り、冬には父親の運転するワゴン車で教会までクリスマスツリーを見に行った。
思い出は、そこに間違いなく存在する。
あの日の景色、匂い、人々の声までも記憶の襞にそっと仕舞われている。
それら記憶が確かなものだと証明したラストシーン。スマホに写された一枚の写真に、何も知らないはずの僕まで、じわりと感動しました。

★★★ Excellent!!!

〝邪気〟にみちた一人称が氾濫する中で、これはすがすがしい一編。一人称だから書ける、その人にしかない記憶と失われた場所を持つ人の強みだ。海鳴りの音が、読みながらずっと聞こえている気がする。優しいばかりではなく、それは逃れられない、運命の諧調のようなものだろう。まだまだ語り足りないと訴えてくるような、いっしょう懸命に抑制された肉声に近い語り口もいいですね。

★★★ Excellent!!!

「あなたの街の物語」コンテストのコンセプトとして、その地域の魅力を取り入れる、とある中、敢えて人口が減り過疎化に伴う閉校と、郷愁をテーマにしたショートストーリー。

コンテストの趣旨に合致しているかは別として、社会に投げかけるメッセージ性のある作品として、私は好きです。

私は離島の暮らしぶりについてはよくは知りません。作品中に舞台となる五島列島の「魅力」は多くは語られてはいないものの、その地に足を運んでみたくなる不思議なパワーのある物語です。
一人、知人に五島出身の人がいるので、いろいろ話を聞いてみたいと思いました。