死んでも治らないこと

俺の遺体は3日後に発見された。

宅配便の兄ちゃんが、半開きだったドアを開いて発覚した。


ああ、ドア半開きのまま自殺してたんだなーとか、3日間誰も気にしなかったのかよとか、警察のおじさんたちが宅配便の中身を見て苦笑いしてるのとか(友達に送るようお願いしてたエロ同人だった)。


それはともかく、会社の管理はどうなっていたんだとか、パワハラがあったんじゃないかとか、そんな真面目なやりとりもあったらしい。入って1年くらいの社員にこんなことされて、可哀想にという気持ちも少し湧いた。なんせ必死に仕事を教えてくれていたから。


説教をたれた先輩の顔は、そりゃあ悲惨だったそうな。最低だが、「ざまぁみやがれ」という気分だった。

そして墓前で頭をつっぷして「ごめんなさい、ごめんなさい」と叫ぶ彼女を見て、俺も「ごめんなさい、こんな最低な奴でごめんなさい」と謝った。


夢を見ているようだった。幽霊になると、こんなにも言葉が届かないものか。

目の前にいる人間にどれだけ声をかけても、さっぱり気付かれないのだ。このもどかしさ、いっそ化けて出ようかという気持ちもわからんでもない。


「ごめんなさい、あなたの気も知らずに、私の勝手で責めてしまった。悩まず楽をしてずるいと思って、とんでもないことをした。私が殺した。私が殺した。」


「すみません違います、言ってくれたことには感謝しているんです。ただ受け止めるってことが俺には難しくて、えっと、昔から楽に逃げてしまうところがあるんです。先輩のせいとかじゃないんです、これは俺が決めたことなんです。」


「私が殺した。とんでもないことをした。どうやって償えばいいの、どうして楽をしているなんて思ったの、ひどい、ひどい、ごめんなさい。」


「殺されてないし、あやまんなくていいし、どうしようかな、どうしたらいいんだろう」


ふらふらと彷徨うことしかできない。

死んでも生きてても、トラブルに対する姿勢はそんなに変わらない。どちらかというとハードルがあがったようにみえる。問題解決をせずに「なんとかなれ」で生きてきた代償だ。こういう時、なにもできない。


もういやだこんなの、めんどくさい。

生きてるときが一番の地獄じゃないのかよ。俺すげぇ悪者じゃん。


「なあ、化けて出るってどうやんだよ!」


きっと生きてるときに出会っていたら卒倒していたであろう。

写真くらいならなんとか写りそうなくらい怨念を放っているおばあちゃんに叫んだ。

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とてつもなく白い タナ @chix

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