04 嫌悪と林檎

 目覚めのいい朝だった。

 昨日の夜に汲んできていた水で顔を洗う。心地良い冷たさで、ぼんやりとした頭がすっきりした。

 それから、慎重に服を選んだ。

 今日の朝食はあまり喉を通らないだろう。

 私は上司と食事をするのが嫌いだ。


✽✽✽✽✽


 私は余所行きのワンピースを着て、丁寧に髪を結った姿で目の前の扉をノックした。

 扉の両端には背の高くがっしりとした用心棒が立っていて、鋭く見つめてくる。

 ノックから数秒後、入室を許可する声が聞こえた。

 私は姿勢を正すと、ゆっくりと部屋の中に入る。

 「おはようございます。カルロス様」

 恭しく、綺麗にお辞儀してみせる。いくら嫌いでも苦手でも、上司は敬わなければならない。本当に面倒だ。

 「おはよう、アメリア。清々しい朝だねぇ」

 歌を口ずさみながらカルロスは私を食事の席に座らせた。

 嗚呼、なんて耳障りな歌声_____。

 カルロスは私の向かい側に座る。

 侍女たちが次々と豪華な料理を運んできた。

 「アメリア、君は随分と表情が柔らかくなったね」

 唐突に話しかけられた私は、一瞬豆鉄砲を食らったようになる。

 「…………それは、私の顔が今まで怖かったと…そう言いたいのでしょうか」

 突然の食事の誘いに、相変わらずの減らず口。

 この男は、何を考えているのだろう。

 「君も、そこいらの少女と変わらない16歳の可憐な蕾だ。____昨日は休暇1日目だっただろう。多少はリフレッシュ出来たんじゃないかと思ってね。表情が柔らかくなったように感じたんだよ」

 私をそこいらの少女、から暗殺者アサシンに落としたのを誰だと思っているのか。他でもない、カロイス《自分自身》なのに。

 「……では、休暇中の私を何故呼んだのです?」

 コーンスープを口に運ぶが全く味が感じられない。冷たい鉛を飲んでいるみたいだ。不味い。

 「そうだねぇ、あえて言うと……」

 カルロスはクルクルとステーキナイフを弄びながら悩むふりをする。なんともわざとらしい。

 

 ドスンッ


 「………っ!?」

 肌が粟立つ。

 「純粋にアメリアと朝食を楽しみたかっただけさ」

 テーブルに深々と突き刺さるステーキナイフ。

 笑っているのに、笑っていない。

 カルロスの蒼い目は、黒く濁っていた。

 そうだ。この目だ。

 私を組織から逃さまいと、巧みに糸を使って絡めさせる。


 「さぁ、料理が冷めてしまうね。早く食べなさい」


 緊迫した空気に不釣り合いな明るく優しい声でカルロスが言った。

 _______やっぱり私は、この人が嫌いだ。反吐が出そうなぐらいに。

 私はフォークを手にすると真っ赤に熟れた林檎を突き刺した。

 

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