第百二話「未来へ帰還」

 動力部屋の前まで辿り着き、扉を開けた俺は目を丸くした。


 そこには生物ではない存在がたむろしていた。アールフォーに良く似たロボットの群れだ。その中の一体のロボットが他のロボットから集中砲火を浴びていた。またそのロボットは背後にいる何かを必死になって守っているようなのだ。


「竜族の子じゃ!」


 フィズバン先生は杖を赤ん坊に向けた。念動力なのだろうか? 赤ん坊はふわふわと宙に浮くとフィズバン先生の元まで吸い寄せられた。


 ロボットの群れが俺達の方へと向いた。

 表情のないロボットの群れなのだが、向けられているカメラのような目から殺気を感じる。そしてハリエットが、奥にいる1体のロボットを指差して叫ぶ。


「アールフォーよ!」

「ああ、わかってる。あのロボットは紛れもなくアールフォーだ」


 ロボットの数は全部で12体。そのうち3体のロボットが俺達目がけて突き進んで来た。その先頭の1体のロボットの胴体から細長い部位が伸びる。あれはアールフォーが竜王城を修理している時に胴体から伸ばす腕のようなものだ。その腕の先端がスタンガンのようにビリビリと電流を走らせている。


 俺達の先頭に立つ結城教授がビームセイバーでその腕を軽々と斬り落とす。


「凄まじい切れ味だ」


 結城教授がビームセイバーを振りまわし、感嘆の声をあげた。

 その切れ味に魅了されたかのように、結城教授が振り向いて言う。


「これ、全部壊してもいいんだよな?」


 あの斬れ味だ。ドラム缶のような胴体すら容易く両断するだろう。

 だが、アールフォーまで破壊されたのでは困るので、俺は注意を促した。


「あの一番奥の緑のラインが入ってるロボットは攻撃しないでください!」

「ああ、分かっている。あのロボットはそこの坊やを守っていたからな」


 そう言って結城教授は爽やかな笑みを零すと、目の前まで迫っていた3体のロボットを軽々と屠る。その後もライトセーバーは独自の風切り音を鳴らし、次々とロボットどもを平らげてゆく。圧倒している。金属がバターのように斬れゆくのだ。俺もほしい……。


 数分後、動くロボットはアールフォーだけになった。

 最後のロボットがビームを撃ってきた時は、ヒヤリとしたものだったが、ビームセイバーで跳ね返し、その跳ね返されたビームが最後のロボットを機能停止させたのだ。

 凄まじい反応速度だと思った。神懸かっている。


「いや~、最後は危なかったよ。調子に乗るもんじゃないね。あははは!」

 

 考古学者の教授であるのだが、元々はとある特殊部隊に所属していた軍人でもある。

 剣術の訓練も受けていたのだろう。


「剣でビームを跳ね返すなんて芸当、僕にも出来ませんよ」


 超魔術師の俺でも剣で同じ芸当が出来るとかと言われたら絶対無理だ。


「ああ、あれは偶然だよ。運良く剣に当たった。少しずれてたら脳天に風穴が空いてたかもな……」

 

 謙遜ではなく、マジの話だったようだ。即死されたんじゃハリエットでも治療は不可能だ。こんなところで英雄王に死なれていたら、この世界の未来はお先真っ暗になるところだったよ……。ふうと俺は安堵の溜息を吐いた。


 アールフォーが結城教授に擦り寄っていた。

 

 赤ん坊の方はハリエットがフィズバン先生より受け取り胸に抱いていた。


「とっても可愛いわ。この子、本当にあのお爺ちゃんなの?」


 ハリエットがそう言いつつ、赤ん坊の頬をツンツンし柔らかいと、感動の声をあげた。

 俺も赤ん坊を覗き見た。確かに可愛い。しかし竜族ってどんだけ寿命が長いんだろう?


「竜族の寿命は2万年から3万年とも言われおるしのう」

「長っ!」


 フィズバン先生の話によると、竜族は強く寿命が長い分、子を授かることは稀だという。


「でもフィズバン先生。どうしてこんな場所に赤ん坊がいたのでしょうか?」

「その竜族の子の魔力がこの浮遊物を浮かせていたのじゃ」


 つまり竜王様の魔力でこのUFOは浮いているという話だ。未来で老いてしまっている竜王様にさほど強い魔力は感じなかったが、この赤ん坊の秘めたる魔力は凄まじいものがあると、俺も感じていた。


 しかしどんな経緯で、竜王様の魔力が燃料にされたのか分からないのだが、フィズバン先生の推測によると、竜族はそもそも幻想界の住人だという。その竜族に対抗しているのが牡牛族でもあり、魔族。

 恐らくその牡牛族の何者かが幻想界の住人でありながらも、裏切り、科学文明が生み出した魔神こと邪神に、その命を捧げたのかもしれぬと語った。

 

 そもそも俺達の敵とは何なのだ?


 俺の目的は未来の家族の安寧なのだが、単純に魔逢星と共に復活する邪神を倒せば良いだけの話ではないような気がしてきた。


 一度頭の中を整理してみる。


 ・竜族とは天族である。

 ・牡牛族とは魔族である。

 ・竜族と魔族と人族は宇宙の神様? に造られた存在。

 ・竜族と牡牛族は対立している。

 ・魔逢星とは科学文明が生み出したもの?

 ・魔逢星が襲来する時、邪神が復活する。それってどこから? ユーグリットの大空洞からでも湧きでてくるのだろうか?


 また法王庁の一部は邪神を崇拝している。それは桐野達が教えてくれた通りだった。

 法王庁の教皇である闇賢者ランドルフ・オズボーンの存在そのものがコンピュターウィルスが生み出した存在であるからだ。


 過去の世界に来たことで、複雑に絡み合う状況が理解出来た。それと同時に俺は二つの正体を暴かなければならないと強く感じた。


 一つは法王庁の本殿がある神聖王国ヴァンミリオンに赴き、偽教皇の化けの皮を剥がなくてはならない。もう一つはユーグリットの大空洞のずっと奥底にある何かだ。


 考え事をしていたらハリエットが、俺の魔法衣のポケットからゴゾゴソと懐中時計を取りだし時間を確認した。


「もう10分も時間がないと思うわよ? ルーシェリア? そろそろ皆の所に戻らないと」

「そ、そうだね」


 この場で時間切れになって、強制送還されるのは味気ない。


「よし、すぐさま戻ろう!」


 赤ん坊である竜王様は結城教授が抱いている。アールフォーも俺達の後に着いてきた。

 途中、格納庫があったので、チラっと覗いてみたのだが、そこにはあるある。科学文明の博物館とも呼べるほどに、近代よりも古い兵器から、モビ○スーツみたいなものまで。

 そしてあった。ずっと奥に俺達が使ってるタイムマシーンと同じものが。


 俺達の未来の竜王城の格納庫は結城教授ことレビィが、タイムマシーン以外の科学文明の遺産を破壊したらしいけど、この世界は俺達の世界とは違う別の時間軸の世界だ。


 だから……あれこれ、未来ではこうであったから、こうしてくれなんて野暮なことを言う気はない。この世界には俺の代わりにマサヤがいるんだしな。



 

 ◆◇◆




 UFOから戻ると、葉っぱの服だったマサヤ達がまともな服を着ていた。

 どうなってるの? 


「やあ、おかえりルーシェリア。ああ、なんで着替えてるのか不思議に思ったんだろ?」


 マサヤは、にひひっと何か含んだような笑みを見せ、後方を指差した。

 そのマサヤが指差した先には、白鳥科学研究所のロゴが入った巨大な乗りものがあった。

 地下で待機していたらしいけど、地上に出てきていたようだ。

 スペースシャトルの先端がドリルになったような形状をしている。

 空も飛べ、海中も進めるらしい。


 しかもその先には、俺の家族がいた。


 父さんや母さん、妹のミノリもいた。手を振ってくれている。


 みんな元気そうで良かった。


 マサヤ達はこれからシベリアへ向かうと言う。そこには白鳥研究所の巨大施設が地下にあるらしいからだ。

 マサヤが俺に握手を求めてきたので、握手する。


「そうかマサヤ達は、シベリアに向うのか。寒そうだな。でも頑張れ!」

「ルーシェリア、お前も頑張るんだぞ。未来の家族を絶対守れよ!」

「マサヤこそ魔術が使えるようになったからって調子に乗るなよ? すぐ調子に乗るのが僕の悪い癖だからね」


 俺達は笑い合った。


 結城教授とシャーロットが何か話していたが、それも済んだようだ。

 未来で再会する約束でもしてたのかな? もうここまで来たら俺はシャーロットに手を出せないな……。

 そもそも出すつもりもなかったのだが、少しだけ心が揺れていたところもあった。どのみちこっちの世界は別世界であり、こっちの世界には別のシャーロットがいずれ生まれてくるはずなのだ。


 ひょっとしたら風の精霊にシャーロットは何か伝言したのかもな。

 少し風が揺らいだ気がする。


 


 ハリエットとシャーロットと手をつないだ。そろそろ時間だし、強制送還されることだろう。


 小さい竜王様というお土産話もできたし、何よりも時魔術の才能を与えられたことは大きい。大賢者様マジでありがとうです。


 全身が半透明になってきた。皆が笑顔で見送ってくれた。




 最高の時間旅行だったよ。

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超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~ 暁える @Akatsuki-L

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