第九十八話「レムリアの大賢者」
上空に浮遊している円盤が、この福都市に出現したのは世界中で巻き起こった電子データー消失事件のおよそ二週間ほど後の話であったと言う。
遙か未来で伝説の英雄王になる、レビィ・アレクサンダー・ベアトリックスこと結城教授の推論によると、世界中を混乱に貶めたコンピュータウィルスは、かの上空の円盤がもたらした人工知能だと言う。
未来を知らない俺だったら受け入れがたい嘘みたいな話なのだが、信じる他ない。
なぜなら俺の目の前にいる魔術師の装いをしたお爺ちゃんこそが『レムリアの大賢者』であったからだ。名はフィズバンと言うらしい。なんでもこの世界に封印されていたらしいのだ。
その封印を解いたのが結城教授。
世界中に散らばるペトログリフ(石板)を解読しながら世界の謎を追い求めてるうちに行き着いた結果だったそうだ。
そしてフィズバンは古代の歴史の全てを結城教授に語ったそうだ。
結城教授はとある国の特殊部隊に所属している頃、軍事転用されていく様々なアーティファクトの存在を知ったらしい。アーティファクトとはその時代の技術力では、けして作り得ないアイテムであり別名オーパーツとも呼ばれている。
それらのアーティファクトは世界各地にある古代遺跡などで発見されていたらしいが、世界の支配者層のトップシークレットで、一般層にはオカルティックで怪しげな情報しか流されていなかったらしい。
それはロズウェル事件であったり、エリア51であったり、フィラデルフィア計画であったりしたそうだ。まぁ……ロズウェル事件ぐらいなら俺でもテレビを見て知っている。
合衆国のニューメキシコ州ロズウェル付近で墜落した未確認飛行物体が、合衆国軍部によって回収されたとして有名になった事件だ。またその墜落した未確認飛行物体の内部で宇宙人の死体が発見され、エリア51で解剖実験されたとかでテレビでも特番とかで一時期盛り上がったものだった。
フィラデルフィア計画とは合衆国海軍が行ったとされる軍事実験で、駆逐護衛艦が2500キロも離れた場所に瞬間移動した事件のことだ。
どちらもオカルトマニアが好みそうな話であるのだが……。
結論から言えば、全てはオカルトでく真実であると結城教授は言う。
宇宙人の死体についてはイメージ画像とはまったく異なるもので、そもそも生命でも機械でもない存在だったようだが。……まさかね。
――――話は佳境へと入っていく。
かつてこの星に二つの勢力が舞い降り、栄華を極めた時代があったそうだ。
一つの勢力の者達は魔法に優れ、もう一つの勢力の者達は科学に優れていた。
その二つの勢力はそれぞれに国を起こした。
魔法に優れた者達は、かつて太平洋の中心にあった古代大陸に国を起こしたらしい。
その国は魔法大陸レムリアと呼ばれたようだ。
また科学に優れた者達は大西洋あった大陸で国を起こした。
この国は科学大陸メガラニカと呼ばれたようである。
だが、その二つの勢力は次第に険悪となり、ついにはこの星の覇権を巡って争いを始めたそうだ。
鮮烈で激しい戦い、血で血を洗う戦いだったようだ。
そんな戦いを気が遠くなるほど悠久の時を重ね戦い続けてきたそうなのだ。
進化論や創造論などよりも、ずっと太古の時代から、二つの勢力は争い続け現在でも水面下ではバトっていたようだ。
遙か古代、まずはメガラニカが核反応を利用した爆弾でレムリアを攻撃したそうだ。
それに対しレムリアは、
この長きにわたる戦いに終止符を打ったのが、世界を水没させた大洪水。
二つの国に壊滅的な打撃を与え、両大陸ともに海底へと沈んだと言う。
結城教授はそこまで話して一旦、俺に問いかけてきた。
「ルーシェリアくんは、ノアの箱舟伝説を知っているかね?」
「はい、なんとなくは……」
「つまり、今話したことはその大洪水よりも、ずっとずっと太古の時代の話ってことなんだよ。人類の歴史は君が想像しているよりも遙かに古いってことなんだ」
俺が知ってる歴史などたかがしれていた。
学校で習った四大文明が関の山だからだ。
大人になったマサヤや白鳥渚、如月澪は既に結城教授より話を聞いて知っていたようだった。
またノアの箱舟とは宇宙船のことであった。
生き残ったメガラニカの一部の士族は宇宙に逃れ、大多数の者達が地上に残った。
そのまま世界は科学文明の世界となっていった。
一方、魔法文明の者達は、この地上から忽然と消えた。
幻想世界への扉を開いたのだ。
魔法文明の者達はその扉の先にある世界へと旅立っていった。
それで全てが解決したと俺は思ったのだが、やはりこの戦いは根深いものだったようだ。
科学文明の者達も幻想世界のことを知ってしまったのだ。
世界は表裏一体だった。
俺が今、目の当たりにしている廃墟と化した光景の裏には、もうひとつの世界があるらしい。
これからその幻想世界と、この現実世界を融合させる特大級の魔術をフィズバン先生が行使するらしい。
「結城殿、まだ話は続くのかのう? あまりおたおたとしてる余裕はないんじゃがのう……」
険しい表情で、そう言ったのは『レムリアの大賢者』ことフィズバン先生。
フィズバン先生は
それからなんでそんな神級の魔術を行使するのか俺はフィズバン先生に尋ねる。
すると『星を救うため』だと言う。
意味がさっぱりわからないで、更に詳しく尋ねた。
「フィズバン先生がこれから行う神級の魔術は星を救うために現実世界と幻想世界を融合させること言う事はわかりましたが、それがどうして星を救う事に繋がるのですか?」
「そうじゃったな……まだそこまで話をしておらんじゃったな。目的から話そうかのう……この世界をワシは地上世界と呼んでおるのじゃが、もうすぐこの地上にかつて我が魔法大陸が受けた攻撃の遙か上をいく攻撃が降り注ぐのじゃ。それを防ぐためには、この地上にある科学文明の産物だけでも消滅させねばならぬ」
「まさかと思いますが、核兵器とか言わないですよね……」
そう言いつつ俺はにへらと笑う。
あり得そうだけど、さすがにそれは無いだろうと……。
ところが……。
「察しが良いのう……まさにその通りじゃ、魔逢星よりの使徒、闇賢者は全ての地上生物を根絶やしにするどころか、この星そのものを滅ぼすつもりじゃ……無論、星そのものを破壊するほどの威力はないじゃろうが、だがその余波は幻想界にまで壊滅的なダメージを与えることになるのじゃ」
フィズバン先生の話によると、幻想世界まで深刻なダメージを受けると星そのものの自浄作用が永遠に失われ死の星となると言う。星の生命力の源は幻想世界にあるようなのだ。
また俺はこの世界での未来の闇賢者は倒したことを、フィズバン先生に話した。
だが、闇賢者はそう易々と消滅させることはできないらしい。
そもそも闇賢者とはコンピュターウィルスであり人工知能であったのだから……。
つまり俺が倒した闇賢者は、人工知能が生み出した一部にしか過ぎなかったようなのだ。
本体を倒さなければ、いくらでも再生どころか製造されるだけのようだった……。
どうりで……しょぼかったわけだ。
「フィズバン先生、いくら闇賢者と言っても、その本体のようなモノを倒せばいいんじゃないでしょうか?」
……そう、何事もその原因を潰してしまえば問題解決なのだ。
ところが名案だと思ったのも束の間で、フィズバン先生は空を見上げ呟いた。
「奴の本体は、宇宙の遙か先じゃ……」
「……はい?」
「先ほどそこのお嬢さんが結城殿に話しておったじゃろ? 魔神戦争がうんぬんかんぬんと」
ハリエットが結城教授に魔神戦争の話をしていたことを言っているのだろう。
「つまりじゃ……その魔神戦争の時期に来訪した魔逢星こそが奴の本体なのかもしれんのう」
フィズバン先生はハリエットの話でそう感じとったようだった。
つまり、これから一万年以上先の未来でしか奴を倒すチャンスがない。
また、その魔神戦争で奴の本体を完全消滅させることができなかったんじゃないかと俺は思った。
なぜなら俺達の未来でも再度、魔逢星の再来が囁かれているからだ。
俺は結城教授に視線を飛ばし、シャーロットに尋ねた。
彼女なら知っているはずだからだ。
するとシャーロットは思い出すかのように瞼を閉じた。
「今までの話を聞いて私なりにも考えてみたんだけど……もしかしたら……追い返しただけだったのかもしれないわね……あまりにも大きな犠牲があったから……そうは思いたくなかったんけど……」
そう言ってシャーロットは悲しそうな顔をした。
魔神戦争時、六英雄の一人であった天族の聖女セリーヌが命を落としていることを知っている。ひょっとすると、大きな犠牲とは彼女のことかもしれないな。
俺は天族を見たことがない。話に聞くと回復魔法に優れ、背には翼があったそうだけど……。
シャーロットにちょっと悲しいこと思い出させちゃったなぁ……。
そんな想いに駆られてると、フィズバン先生が俺の肩に手を置いた。
「ふーむ、お主の魔力は底が見えぬが、魔力が常にだだ漏れじゃのう……。魔力は無駄に魔物を引き寄せるゆえ、制御できるようになったほうがええぞよ」
フィズバン先生の話によると、無駄な魔力の放出は避けた方がいいようだ。
魔術を使ってないにも関わらず、MPを消費してるようなものだからだ。
無限の魔力の俺だからこそ、意識したことが無かったともいえる。
「ところで、お主に手伝って貰ってよいかのう?」
「……えっ? 僕、ですか?」
「心配いたすな、世界融合の魔術を手伝えとは言っておらん。融合魔術を発動させるには、あの宙に浮いてる円盤を先になんとかせねばならぬのじゃ。ワシが魔術を行使しようとしたら必ず邪魔立てしてくる。あれはこの地上世界で造られたモノじゃない。よって、あの物質を消滅させることは叶わぬのだ」
レムリアの大賢者ことフィズバン先生が放った混合魔術ですら、宙に浮くアレを傾かせたのが精々だったらしい。
無限の魔力を持つ俺ならどこまでやれるのだろうか。
世界は廃墟と化し、あの巨大未確認物体から逃れようと付近には人がいない。
一度やってみたかった。
全力全開で超魔術を――――。
「わかりました。まずは僕一人でやらせてみてください」
俺の言葉にフィズバン先生は頷くと「うむ、お主の魔術を見せてみるがよい」と、言った。
「ルーシェリアの魔術は凄いのよ! きっとおじい様もびっくりして腰を抜かすと思うわ!」
ドヤ顔でそう言うハリエットに、俺は頬を掻きつつ口元を歪ませた。
マサヤが俺に「オレ、頑張れ!」と、言ってビッと親指を立てると、白鳥優奈が俺とマサヤを交互に見た。
結城さんは愉しげに笑みを零し、その隣のシャーロットも薄く微笑んでいた。
俺は皆からの期待を一身に受け、前へと一歩踏み出す。
「ナユタくん、頑張って!」
「ルーシェリアくん、頑張って!」
如月澪と白鳥渚の二人も満面の笑みで、エールを送ってくれるのだった。
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