第八十三話「伯父上の真意」

 俺達はその足で竜王城までひとっ飛びし、魔力結晶をタイムマシーンにセットしてきた。

 チャージには時間要するようなで暫くは、ほったらかし状態だ。


 そして数日後、王の間で調印式が行われた。


「本当によろしいのですかな? 竜王閣下」

「うむ、その者達を許すことが友好の証じゃ」


 ここに新たな調印がなされた。

 竜王様が直々にミッドガル王城まで出向いてくれて、二人を許してくれたのだ。

 その二人とは清家雫と間宮祐介の二人である。


「ルーシェリアのお手柄であるな」

「いやぁ、それほどでも……」


 お手柄とは二人の命を救ったことでは無い。

 竜王様との友好関係を修復できたことだ。

 俺は照れた笑みを浮かべ、国王エイブラハムは深い安堵のため息をつきつつ、胸を撫で下ろす。


「二人を助けるのに協力してほしい」と、頼み込んだ俺の顔を竜王様は朗らかに引きうけてくれたのだ。


 王様の傍らで、伯父のオースティン公爵も満足な笑みを浮かべているのだが、叔父上の思考回路が俺には未だ理解しがたい。


 相変わらず親父には厳しく当たるし、郷田とフィルとの決闘を焚きつけた張本人でもある。 

 過去にメアリーが「オースティン公爵は、誰よりもミッドガル王国の繁栄と平和を願ってる御仁」だと言っていたけど、どうもしっくりとこない。


 しかしながら、王間の片隅で談笑中のフィルとオースティン公爵を眺めていても仲が悪い様には見えない。むしろ、あの一見以来、仲が良くなったの? と、そんな印象すら受ける。


 それに、最近の伯父上は俺に対し、すこぶる優しくなってもいた。

 王城で俺を見かけては「いつでもフェリエールに遊びに来い」と、口ずさむ。

 あの郷田との決闘の一件、この場で伯父上に問いただしてみようと思う。


 いつまでもグレーな存在では、俺も今後どう対処していいのか悩むからだ。

 二人を眺めてると、ハリエットがフィルに駆け寄った。

 ハリエットがキョロキョロしている。

 俺を探しているようだ。


 調印式が無事終わり、このまま王間は晩餐会の会場となる。

 豪勢な食事が運ばれ、王侯貴族達で溢れ返ってきていた。


 フィルがオースティン公爵から離れたのを見て取った俺は、ハリエットとフィルに見つからないように、こっそりと伯父上の前まで来た。


「おう、ルーシェリアかいかがいたした?」

「実は……伯父上に尋ねたいことがあります」


「ふむ……」と、頷くと伯父上は目を細めた。

「まぁ、何なりと申してみよ」

「では……」


 聞きにくい質問をすると伯父上は察してくれたのか、静かに聞く耳を持ってくれた。


「あの決闘のことなんですが……伯父上はフィルを諌めるどころか、焚きつけましたよね? もし、決闘でフィルが不覚を取り、命を落とすような事態になったら、どうするおつもりだったのです?」

「わはは、そんな事か」

「へ……そんなこと?」

「お主も知っておろう、あやつの性格を。あの負けん気の強い気勢を若いうちに削いでおかねば、いつか不覚を取ることになる。あやつは時期国王になるのだ。あの件は、戒めの良い薬になったことであろうな」


 そうは言うものの、勝敗は戦う前から明らかだった。

 フィルに勝ち目はない。誰もがそう思ったはずだ。

 シャーロットが割り込まなかったら大惨事になってたと思う。


「今の説明では、納得がいかぬようだな」


 そう言うと伯父上はキョロキョロと周囲を見渡した。

 そして、しゃがみ込み俺に耳打ちするように話す。


「我が子息、ヴィンセントの暗殺剣のことは、お主も知っているであろう?」


 未だ全ての記憶が鮮明に蘇ってる訳ではない。

 暗殺剣を知ったのは最近のことだが、元々俺は知ってる話だったようだ。


 そして――

 つまりこう言うことだった。


 正々堂々の決闘に見せかけ、郷田の首を暗殺剣で落とす事が目的だったらしい。

 

 郷田達は法王庁の命で動いたとはいえ、ミッドガル王国と竜王は長年のよしみを結んでいる間柄だ。

 しかも、竜王様を会食に招いたのはミッドガル王国。

 その竜王様を襲うとは、王国の顔に泥が塗られた様なもの。

 断じて、ミッドガル王国としては許しがたい行為である。


 だからと言って、郷田達に手出しすることは、憚られた。

 彼らの身柄は王国ではなく法王庁に属しているからだ。

 

 法王庁教圏国は広い。

 下手を打ったらミッドガル王国が、法王庁に反逆したと見做され法王庁教圏国の国々と事を構える事態になりかねないとの話だった。


 その点、決闘は好都合。


 公に郷田達を断罪する口実になる。

 成り行き上、俺が戦い、ウルベルトが斬首したが、それはそれで良かったらしい。

 後はシメオン司祭に全ての罪を被せ、口封じのため毒殺したらしい。

 つまり、シメオン司祭を毒殺したのは、オースティン公爵の手の者だったのだ。

 またシメオン司祭は、ミッドガル王国の内情を逐一、法王庁へと伝えていたそうである。

 ミッドガル王国に深く入り込んだ彼は、もはや邪魔な存在であったと言う。


 そして、多大な寄付金を法王庁に収め、事ななきを得たと言う経緯だった。

 それでもまだ、ヴィンセントの行動が腑に落ちない。

 

「でも、御子息は僕達に闘気を飛ばしてきましたよ?」

「単に邪魔立てするなと言うことで、威嚇したのであろう?」

「でもでも、王様にも威嚇してませんでした?」

「うむ、兄上は心配性ゆえ、飛びださぬように注意を促したまでだ」


 じゃあ……僕って……いや、俺ってなんだったの?


「そのことは父上も御存じだったんでしょうか?」

「アイザックはこの手のことは苦手なことゆえ、やつには何も話しておらぬわ」


 それって全部、信じちゃってもいいの?


「では最後にもう一つだけお伺いしてもよろしいですか?」

「何じゃ……まだあるのか、いうてみぃ」


 伯父上はヤレヤレって言った調子だ。


「僕が魔法学園に留学してたのは、伯父上も御存じですよね?」

「無論、知っておる」

「魔術大会の日、御子息が僕の親友や僕を襲ったのでありますよ?」

「……ルーシェリアよ」

「あ、はい……なんですか?」

「でたらめを申すでない。さすがのワシも堪忍袋の尾が切れるぞ!」

 

 伯父上が少し怒気を孕んだ。

 ……えっ!? 知らない? 

 

「ああ、ごめんなさい。人違いでした!」


 俺は頭に手をやり伯父上を見上げ謝った。

 頭上にゲンコツが落ちそうだったからだ。

 

「うむ、そうであろう……まったく、何を言いだすのだ……」


 謝罪はしたが、人違いの件では無い。

 長い間、疑ってた事に対して詫びたのだ。

 伯父上が嘘を言ってない限り、伯父上は白だ。


 だが、やはり……ヴィンセント王子は俺の中で未だ、グレーゾーンだ。

 伯父上が白なら尚更、ヴィンセントが俺を狙う理由が乏しい。


 あぁ~、でも、かなりスッキリしたぞ。

 伯父上が味方なら、一安心だ。

 国王派とオースティン公爵派で国内の派閥は二分されてる現状だが、伯父上にその気がないなら問題ない。


 親父にも話しておかないとだな。

 どうも、親父は重要な会議には参加してなさそうだ。


 まぁ、これでミッドガル王国は安泰だ。

 ……って、訳でもないけど、内にある憂いは単に俺の杞憂に過ぎなかった。

 

 で、例の恩赦となった二人だが、彼らの身柄はミッドガル王国が持つことになった。

 間宮祐介は伯父上が身元引受人となり、フェリエール城へと向かうようだ。

 一方、清家雫の身柄は国王預かりとなり、暫くの間は監視付きで、王城暮らしとなるそうだ。


 牢獄から城暮らしなるんだ。

 これ以上の待遇はないだろう。

 

 そうなると、法王庁は黙ってはいないんじゃない?

 文句の一つや二つは、言ってきそうだ。

 身柄を引き渡せだとか、異端審問にかけるだとか難癖つけてくるだろう。

 伯父上は、恰幅がいいだけのオッサンだとの認識だっけど、中々の知恵者のようだ。

 うまく計らってくれるに違いない。


「もうっ! ルーシェリア探したのよ! こんな所にいたなんて! お兄様があちらでお待ちよ。さあ、いきましょ!」


 ハリエットに見つかった。

 俺とハリエットは、伯父上にペコリと頭を下げ、フィルの元へと向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る