第五十二話「封印」

 所用を済まし戻ると、広場の片隅でラルフとミルフィーが暇そうに待っていた。

 久しぶりにする〝あれ〟とはなんだろう?


 こっそりとドロシーに尋ねてみた。


「私にも分かりませんよ?」と、軽く返された。


 とりあえず流れに任せてみようと思う。

 ベンチに腰掛けてたラルフとミルフィーが、俺達に気が付き腰をあげる。

 そしてすぐさまラルフが声をかけてきた。


「用事はもう済んだのか?」

「うん」

「じゃあ、行くとしようか」


 向った先はエンディミオンアカデミー内にある、図書館だった。

 

「わくわくするにゃ」


 猫族のミルフィーが、スカートから垂れ下がる尻尾をふりふりさせている。

 図書館を見渡すと随分と広い感じだ。

 所々にある椅子に学生達が座り、読書を嗜んでいるが、ここでラルフは何をしようと言うのだろうか。


「ところで、ルーシェ……?」


 先頭を歩くラルフが唐突に振り返ると、俺に真剣な眼差しを向けてきた。

 ……な、なんだろう?

 普段の俺と何か違ったのだろうか?

 

「その子は、お前の彼女なのか?」


 少々ドキッとしたが、ドロシーのことが気になってたようだ。

 ドロシーも軽く自己紹介はしたのだが、ラルフが気になってるのは、俺とドロシーとの関係のようだ。

 ラルフの言葉に反応して、ドロシーとミルフィーが俺の方へと首を向けた。

 ドロシーが真っ直ぐな瞳で、俺を見つめてくる。

 俺は少々照れながら、頬を掻き、ど真ん中ストレートな返答をした。

 

「み、未来の嫁かな……?」

 

 途端、ドロシーがもじもじと頬を染めた。

 

「そうか……前から、ませたガキだとは思っていたが、彼女だったのか」


 ラルフの言葉には身分の垣根を感じさせない。

 俺を王子と言うよりも親友と捉えているのだろう。

  

「ドロシーさんか、ルーシェをよろしくな」


 どうやらラルフの性格は兄貴肌のようだ。

 ラルフは14歳、俺は8歳。

 今までの俺は彼に対して、どんな接し方をしてきてたのだろうか。


「ドロシーたん、仲良くしてにゃん」

「あ、はい、なのです!」


 ドロシーとミルフィーは仲良く手を取り合った。

 その様子を俺は満足げに眺めた。


「よし、着いたぞ!」


 俺達の目前に見事な彫刻レリーフが掘られた巨大な扉があった。

 この場所は螺旋階段を下った地下の最奥であった。

 普通の学生はこない。

 学生どころか滅多に人も近寄らない場所らしい。


 地下と言うこともあって、薄暗く空気もしっとりと冷ややかだ。

 ここに来たことが、いつものあれなんだろうか?

 さっぱり事情の飲み込めない俺は、ついつい口を滑らした。


「この先に何かあるんだっけ?」

「おいおい、ルーシェ? 何言ってるんだ? 記憶喪失じゃあるまいし……」


 ラルフが不機嫌そうな表情を見せた。


「これが噂に聞く、開かずの扉なのですね。扉の彫刻レリーフに沿って魔力を抽入すると開かれるらしいのです」


 ドロシーが説明口調で言うとラルフが相槌を打った。


「そうだ、その通りだ! この彫刻レリーフの模様に正しい道筋で魔力を流せば、扉は開かれる。いつものように、俺が魔力の案内役を受け持つ、ルーシェは魔力の抽入の方をよろしく頼む」

 

 扉には竜と牡牛の彫刻レリーフが描かれていた。

 

「ラルフたんは、ルーシェたんが卒業した後も、ずっと鍵となる道標を研究していたにゃん」


 どうやら、この扉に描かれている彫刻レリーフに魔力を流せばいいようだ。

 ラルフが扉の中央に手を当てる。

 俺もそれを見習って、ラルフの隣で扉に手を当てた。


 扉を通じて、ラルフの魔力を感じた。

 その魔力の感じる方角に俺は魔力を流せばいいようだ。


「ルーシェ、準備はいいか?」

「うん」

「お前の魔力総量なら、今度こそ上手くいくはずだ。俺達の力で、竜に力を与え、牡牛を焼き焦がすのだ」


 ラルフの魔力の位置が移動する。

 俺はそのラルフの魔力の起点を追尾するかのように、魔力を注ぐ。


 扉に描かれてる彫刻レリーフが魔力の流れを感知し、模様が光り出す。

 ラルフの魔力が実に複雑なルートを辿っているのを感じる。

 しかも、流す魔力量が半端ない。

 

 すでに巨大な火球10発分以上の魔力を注いでいる実感がある。

 それでも、まだまだ足りない。

 足りないが、俺の魔力は無限だ。

 気にしすることはない。

 正確にラルフの魔力の行き先を追尾するだけでいいのだ。


「ルーシェまだ、余裕あるか?」

「うん」

「なら、このまま一気にいくぞ!」


 竜と牡牛の彫刻が争うかのように目に映る。

 そう思った途端、竜の彫刻が火を吹き、牡牛を焼いた。

 実際に火を吹いた訳ではないが、彫刻をなぞった魔力が、そう見せたのだ。


「や、やったぞ! ついにやったぞ! ルーシェ! 成功だ!」


 扉が眩く発光すると、中心に隙間が開く。

 扉が開かれるようだ。


 ドロシーもミルフィーも目を輝かせている。

 この扉の向こう側に何があると言うのだ。


 ラルフを先頭に、俺達は扉の先へと進んだ。

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