第四十七話「地下での出来事」

「地下へと向かいますよ」


 ドロシーの話によると、地下に格納庫とドロシーの研究室。

 そして、この城の更に地下には、動力源(燃料)となる巨大な魔力結晶があると言う。


 俺達は地下へと向かう為、ふわりと浮く床に再度乗る。

 床はゆっくりと下降し、円形の大広間を抜け、更に地下へと潜っていった。


「王子、格納庫よりも先に動力炉に、ご案内しますね」

「……あ、うん。よろしく頼むよ」


 床は一つの空間をまたぎ更に地下へと降りていく。

 そして動力炉となる空間は青いパネルで照らされていた。


「ルーシェ様……あれは……」

「ああ、僕も驚いた」


 メアリーの驚きの呟きに、俺も驚きで返した。

 アメジストのような輝きを放つ、巨大な宝石が空中に浮いていた。


「王子、この魔力結晶が、この城の動力源のようなのです」


 ドロシーが杖の先で指し示しそう言った。

 まるで、いつか見たアニメの飛行石のようだ。

 ダイヤ型で角と角の直径は1メートル以上はあるだろう。

 それでも、昔に比べると随分と小さくなってしまったとドロシーは、ため息交じりに呟いた。


 どうやら、この浮遊城に格納されてる全ての兵器は、魔力結晶を動力源として起動するらしい。

 そしてドロシーは青い髪をいじりながら、俺を見る。


「この城を空に浮かせるためには、もっと大きな魔力結晶が必要だと竜王様がおっしゃってました」

「もっと大きな?」

「はい、もっともっと大きな魔力結晶が必要なのです」

「これよりも大きいものなんてあるの?」

「もちろん、ありますよ」

「どこにあるの?」

「各地にあるダンジョンの最下層です!」


 ドロシーは瞳を輝かせながら、そう言った。

 その様子をメアリーは黙って、見守るように眺めていた。

 ドロシーはこの浮遊城を、再び空へと浮かせるのを夢見てるようだ。

 それとは別に、ドロシーが研究してる時空魔法の研究にも、膨大な量の魔力結晶が必要だと言う。


 そういや……時空魔法。

 俺もドロシーと一緒に研究したら時空魔法が使えるようになるのかな?

 時空魔法を極めれば、俺も過去に戻ることが出来るのでは?

 その可能性は未来から来たドロシーとマリーが、既に証明している。


 それに……過去に戻れば未来から来たドロシーやマリーにも再会できる。

 ――――いや、それどころか、ここが未来の地球だと仮定すると、どれほどの過去に戻ればいいのか想像もつかないが、俺が生まれ育った日本にも戻れると言う事じゃないのだろうか?


 とは言え、時空魔法には何かしらの制限時間がありそうではある。

 あの日、未来から来たドロシーとマリーの二人は、強制的に元の時代に戻された感じがしたからだ。


 ――――それでも……日本に戻れるなら戻ってみたい。

 今は亡き……父さんと母さんにも会える。


 その両親とは、アイザックとエミリーではない。

 日本で俺を育ててくれた最初の両親だ。

 可能性を感じると、目頭が熱くなってきた。

 両親に会いたい……。

 情けなかった俺に無償の愛情を注いでくれた両親に……。

 もし、それが叶うなら――――。

 俺は両親に伝えたい言葉がある。


 ポロっと涙が零れた。

 

「あらあら……ルーシェ様。どうしたんです?」


 メアリーがしゃがみ込み俺の肩に手をかけて、心配そうな眼差しを送ってくれた。

 涙がとめどなく溢れ出てしまった。

 その涙をメアリーがハンカチでそっと拭ってくれる。

 俺の背中に手を回し、優しく撫でてくれた。


「突然、どうしちゃったんですか? ルーシェ様……? 何か思い出しちゃったんですか?」

「ううん……なんでもないよ……」

「なんでもなくは、ないのですよ。ルーシェ様にはいつだって、メアリーが傍にいるんです。辛いこと悲しいことがあったら、何でも遠慮くなく話してほしいのです」


 こんな俺の姿を見たドロシーは、どう感じたのだろうか?

 もしかしたら……俺に愛想を尽かし、未来の嫁になってくれない。

 そんな想いが脳裏を過ぎり心配になって、ドロシーを見た。

 未来に打ち勝ち過去を克服する為には、未来の家族の応援が必須な気もするのだ。

 

 ドロシーは何も言わず、俺達から視線を外し魔力結晶を眺め見ていた。

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