第三章

第十六話「晩餐」

 雪を降らした当日の夜。

 魔術師ギルドから自邸に戻った俺は、幾度となく鏡を見てはニヤニヤしている。

 超イケメンだからだ。


「ルーシェ様、いつまで鏡の前でニヤニヤしてるのですか、そろそろ準備しないと遅れますよ? さあさあ、早く着替えましょう」


 これから召喚勇者達を歓迎する意図で、主催される晩餐会。

 午前中に見た、かつてのクラスメート達。

 もう会うのは億劫だとも思っていた。

 だが、俺はもう逃げない。

 そう覚悟を決めている。

 俺は誰もが羨む天才魔術師。


 黎明のルーシェリア・シュトラウスだ。

 自信を持っていいのだ。


 帰り道、多くの人々が季節外れの大雪に驚嘆していた。


 夜になっても雪は積もったままだ。

 ブリジット・アーリマンこと師匠が言っていた。

 四大元素の魔術を操る技量に関しては、もはや右にでるものはいないだろうと。

 その上、王都を丸のみするほどの魔力総量。

 詠唱も無詠唱である。

 無敵だ。


 これほどの力を何故に俺は発揮できるのか。

 帰り道、俺なりに考えていた。

 まだ仮説の段階ではある。.

 だが、ぼんやりと見えてることはある。

 まだハッキリと断定はできないが、想像力の差ではないだろうか?

 もしくは前世の世界での、科学的な知識なども作用しているのかもしれない。

 しかもこの肉体は4年間。

 魔法学校で修行してるのだ。

 魔術に関してはプロフェショナルなのだ。

 もう前世のような哀れな人生を、送る気はさらさらない。

 誰にも負けない。

 これから魔術に関する勉強も本気でする。

 そう心に誓う。


「準備OKだよ」

「では参りましょうか、ルーシェ様」




 ◆◆◆




 王城の大広間に着いた。

 幾つもの長テーブルには豪華な食事が並べられいる。

 34名の生徒達もいるようだ。

 

 父と母は既に到着していた。

 両親は明日、ユーグリット王国へと旅立つ。

 その件で王様と何やら話を詰めているようだ。


「えーっと、僕の席はどこかな?」

「どこでしょうか……」


 メアリーにもわからないようだ。


「おーい! ルーシェリアこっちだよっ!」


 午前中に会った少年だ。

 たしか名はフィリップ。

 ミッドガル王国の第一王子で王様の息子だ。

 彼が隣に座れと言わんばかりに手を上げ俺を呼んだ。


「ルーシェリア、遅かったじゃないか!」


 フィルが微笑む。

 俺も微笑み返した。

 フィルの隣の席に座ると、メアリーも俺の隣に座る。

 席に着いた俺のテーブルの向い側には、女の子が座っていた。


 うへぇ……清家雫だ。

 さすがクラスのマドンナ的存在の清家雫だ。

 相変わらず可愛らしい顔立ちはしている。 

 あの日の悪夢が蘇りそうになる。

 だが、今の俺には優しいメアリーがいる。

 もはや、お前などお呼びではないのだ。


 その清家の隣には郷田。

 更にその隣には骨山が座ってる。

 因縁深いとも思った。

 しかし、今はこいつらに、かまけてる場合ではない。


 俺はドロシーを探した。


 竜王が招かれているなら、ドロシーもいる可能性が高い。

 どこに座ってるのだろう。

 周囲をキョロキョロと窺ってると、王様の挨拶が始まった。


「召喚勇者達よ。今宵は無礼講である故、大いに愉しんでくれたまえ。この時期に雪が積もるなど奇跡である。天も祝福してくれたのであろう」


 王様の挨拶が終わると各自が食事に手をつけていく。

 俺の将来の嫁はどこにいるんだ?

 そもそも竜王って竜なのか?

 どう見渡してもドラゴンなどいない。

 隣のフィルに尋ねてみる。


「竜王様ってどこにいるの?」

「欠席だよ」

「えっ!?」


 骨付き肉を旨そうに頬張りながらフィルが答えた。


「ルーシェリアが来る前に報告を受けたよ」


 ガッカリだ。

 会えると思ってた。

 楽しみにしていたのだ。


「ルーシェ様、どうかされましたか?」


 食が進まない俺を心配したのか、メアリーが優しく声をかけてくれた。

 

「竜王様に会えると思って楽しみにしてたんだ」

「そうでございましたか。それは残念でございましたね」

 

 実際は竜王ではなく、ドロシーなんだが。

 来てないものはしょうがない。

 諦めきれない気分だが、しょうがない。

 そう思い食事に手をつけようとした時、話しかけられた。

 

「お前達、王子なんだろ?」

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