第23話 社会人③ー2(出世)
それからの私は、人が変わったように仕事に没頭した。覚える事も多く、特に東芝製の半導体の名前を覚えるのが苦労した。LFPやPGMといった専門的用語が並び、何の事かさっぱり分からない物が多かった。それと同時に、新設する課の事務所の立ち上げを私は相澤さんから任されていた。机や事務機器の発注からレイアウト、コンピューターの設置からシステムエンジニアとの打ち合わせ・・・自分の時間など持つことが出来なかった。しかし、私にとってはどれもこれも新鮮で、やりがいのあるものばかりだった。時には、朝から晩までずっと仕事をしていて、ふと時計を眺めると夜中の12時を回っている事もあった。気が付くと会社には誰もおらず、私一人だけって事も多々あった。それでも、帰るのを忘れて仕事に打ち込めるのは、この仕事を成功させたいという思いからだったと思う。それに私はこの時21才・・・、体力だけは自信があった。
そんな毎日を過ごしていくうちに、事務所の様相も完成形に近づいてきた。しかし、一つ問題が起きた。それは、私はコンピューターを全く使えなかったのである。今でこそWindowsがあって誰でもコンピューターを気軽に使うことが出来るのであるが、その当時は、そんな気の効いたモノなど全くなく、コンピューターを立ち上げるのでさえ、フロッピーディスクから行わなければならない時代・・・ディレクトリーの呼び出しやコンピューターへの命令も全てC:より英語で命令しなければならない時代だった。私はSEの人に説明されたが全くと言っていいほど理解が出来ず、1週間だけ時間をもらうことにした。それから、私は会社に言ってコンピューター関連の書籍を経費で購入してもらい、それを四六時中読んで頭に叩き込んだ。そして1週間後無事にSEの人が説明していることが理解でき、無事にコンピューターの導入も行うことが出来た。
そしてそれと並行して相澤さんが担当していた、東芝さんからのリークテスト機やBIテスト機、プレス機など工場に続々と搬入され、何もなかった倉庫みたいな空間が工場としての体を成した。第三工場と名付けられたその工場は実に約束した3ヶ月丁度で完成したのである。
そしてそのあと、会社から正式に辞令が降りた。新しく立ち上げた、東芝さんの全工程を担当する課を三課とし、その課の課長を相澤さんが、そしてその課の主任が石原、つまり私がなることになったのである。
異例のスピード出世・・・ 高卒の中途採用に加え配送要員として入社・・・ そんな私だったから周りからの目がかなり気になっていた。それに弱冠21才の若さでそんな大役は務まらないとも思っていた。しかし、そんな私を相澤課長始め色々な人から「石原君なら大丈夫だよ。」と熱い激励の言葉を頂き、私は、三課生産係主任としてまた新たな一歩を踏み出す決意をしたのだった。
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