第39話シャルルの悩み

シャルルとハルドゥーンの一行は、港町ターラントに到着した。

ここでも、ナポリ、サレルノと同じような、それ以上の歓待を受ける。


「どうやら、テオドシウス様が、ここの街に指令を出したようなのですよ」

「シャルル様の完全な保護と健康状態の向上」

「少なくとも、ローマの対応とは違う」

ハルドゥーンは、街の有力者から情報を聞き出していた。

ハルドゥーンも、この街では知りあいが多いらしい。

ひっきりなしに、ハルドゥーンを求めての来客が多い。

それは港町ターラント在住の人間もあるし、ビザンティンやギリシャやエジプト、その他のクレタ島などから来た人間もいる。

総数で言えば、シャルルよりも、多いくらいである。


そのようなハルドゥーンへの来客であっても、ハルドゥーンからシャルルは同席を求められる。

ハルドゥーンにとっては、シャルルの紹介という意義もあるし、来客としても既に高名となっているシャルルへとの関係づくりは、後々メリットはあってもデメリットにはなり得ない。

また、シャルルにとっても、未だ見知らぬ地であるビザンティンやギリシャの諸地方の話を聞くことができることから、同席は本当に有益なことであった。


「そうか・・・テオドシウス様はお変わりなくですか」

案外、ハルドゥーンの来客に対する態度は丁寧である。

さすがに、権謀術数の都ビザンティンが近づいていることもあるし、傲慢な態度は敵を招きやすい。

それを熟知しているハルドゥーンの対応も、相手に不快感を覚えさせないよう、丁寧かつ慎重となる。


また、来客のほうも慎重である。

何しろ、テオドシウス帝の寵臣にして猛将ハルドゥーンである。

余計なことを言えば、どんな酷い目にあうか、わからない。

結果として深い「その人なりの分析」よりは、発生した事実の正確な情報交換となる。


「まあ、ローマ、ナポリ、サレルノでは、このような・・・」

ハルドゥーンも冷静に事実だけを語る。

決して、「阿呆のヴァレンティウス」などとは言わない。

余計なことを口に出し、新たな戦争でも始まれば、面倒であるし、シャルルを無事にビザンティンに送り届けるという目的に、支障を生じかねない。


来客からも主に情勢報告である。

ほぼ、同じ内容であり、集約すれば

「特にビザンティンに、バルバロイの襲撃が増えている」という事である。


それには、シャルルも興味があるようだ。

「それは、アッティラ様とは、また別の?」

シャルルも慎重に来客から情報を聞き出そうとする。

シャルルとしても、現在のアッティラがビザンティンを襲撃出来る状況にはないと理解しているが、万が一の確認である。


来客の反応も、誰に聞いても同じだった。

「はい、大まかにいえばアッティラ大王の系統ですが、中には新興勢力もあります」

「貧しい部族が、生き残りをかけて、他の裕福な部族を襲う」

「そんなことの繰り返しです」

「ビザンティンとて、郊外に出れば、収奪の対象です」

「所詮は、勝つか負けるか・・・」

「どうにも、急襲した部族が強くなる」

「村は焼かれ、男たちは全員、首を切られ」

「女でも若い女は、奴隷、年寄りは首を切られます」

「子供たちも、奴隷ですね・・・それも殺されなかった場合だけです」

来客からは、襲撃された村々の悲惨な状況が語りだされる。


シャルルは、唇を噛みながら、懸命に話を聞き続けている。


「まあ、そう言うことは、今のバルバロイだけではない」

「ローマだって、ギリシャだって・・・」

「あるいはガリアにしろ、フランクにしろ・・・」

「どんな民族でも、あったことさ」

「ある意味、襲撃をして、生き残った部族の末裔、血を引き継いでいるのが、今生きている者たちだ」

「それじゃあ・・・どうするかって・・・」

ハルドゥーンは、来客が帰ると、時折そんな話をする。

ハルドゥーンとしても、結論が出ない話である。


シャルルは、そこで、いつも考え込む。

考え込んで、出て来る言葉も、いつも同じである。

「そうかといって・・・」

「こんなことで、いいわけではない」

「主なる神が、こんなことを望んでいるとは思えません」

「全てが全て、解決できるとは思えませんが・・・」

「何か、緩和出来る方法はあるはず」

「一人でも多くの、哀しい涙を拭いてあげたい」


メリエムが、そんなシャルルの背中に、そっと手を添える。

「大丈夫、シャルルがそこまで考えるんだから」

「きっと・・・何かがある」

「その応えが、何かは、わからないけれど・・・」

「とにかく、ビザンティンに」

「きっと・・・そこで・・・」

メリエムの言葉で、いつもシャルルは、少し落ち着きを見せるのだった。

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