第37話シャルルの解決策

薬売りの親子は、ワナワナと震えている。

暗殺者であることを、シャルルに明かされ、周囲には東ローマの猛将ハルドゥーンを始めその軍団、そしてサレルノの街の有力者たちも、その面子を汚され怒りをあらわにしている。

暗殺者にとっては、秘密裡に殺すから暗殺が成功するのであって、今は全く暗殺どころではない、自らが捕らえられ拷問のうえ、死罪すら考えられるのである。


そんな、憔悴した薬売りの親子にシャルルが声をかけた。

「あなた方にも、ご事情があるでしょう」

「お金が必要なのですか?」

「面識が無い相手を殺す場合、恨みも無いのだから、お金か・・・」

「あるいは、雇い主に弱みを握られ、強要されたか・・・」

「そもそも薬売りの家系のシャルルに、そんな子供だましの毒果を持ってくるなんて、通用しないことはわかっていたでしょう」

「それでも、ガリアから、はるばるこの旅に出なくてはならなかった」

「疫病も流行り、野犬も多い」

「そんな危険を冒してまで、縁もゆかりもない私を殺すなど」

シャルルは、薬売りの親子の前に座り込んだ。

その姿に、周囲はあっけにとられている。


シャルルは、薬売りの親の目を覗き込んだ。

「お金ですか・・・」

「・・・それとも・・・人質ですか?」

シャルルのその問いに、薬売りの子供のほうが泣き出した。


「シャルル様・・・お願いです」

「マルセイユで・・・母と妹が・・・」

そこまで言って子供は声を詰まらせている。

シャルルは、その子供の頭を優しくなでた。


「わかりました」

「お任せください」

「実家を通じて、お金で解放させます」

「ヴァレンティウス様への工作は、アッティラ様が行います」

「シャルルは、死んだとも思っていただきましょう」

シャルルは、ここでウィンクをした。


そして思いもよらないことを言い出した。

「ほとぼりが冷めるまでは、私に同行をお願いします」

「その後、実家の車にて、ご家族様は私たちの旅に加わっていただきましょう」

「私一人では、薬の知識も中途半端」

「施薬がこなしきれない時も多かったので・・・」

シャルルの口から、驚くべき言葉が聞こえてきた。

ハルドゥーン、メリエムをはじめとして、周囲は、ますますあっけに取られることになった。



「・・・そのまま手紙を書いて持たせているし・・・」

「しかも、薬屋ルートと、アッティラルートで用心深い」

メリエムは、薬売り親子と歩きながら、すでに「談笑」しているシャルルに呆れている。


「・・・全く・・・シャルル様らしい」

「確かにほとぼりが冷めるまでは・・・か・・・」

「計略もあるなあ」

「それが一番穏便かもしれない」

「母と妹じゃあ・・・仕方がないなあ」

ハルドゥーンも呆れているが、ひとまずの危険は去った。

思いもよらない解決策ではあったが、シャルルらしいと思った。



その後、薬売りの家族は、無事再会を果たし、シャルルの一行に加わることになった。

そのため、シャルルの病人への施薬の時間が減り、幾分かはシャルルの旅も楽になっている。

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