第30話ローマの落胆とアッティラ

一方、シャルルをローマに滞在させることのできなかったローマの宗教者や経済人たちは、本当に落胆の極みであった。


「あのシャルルの人気と実家の実力からすれば、将来は教皇の地位とてあり得る話だ、それをみすみす逃してしまった」

「今の段階で、シャルルと良好な関係を築いておけば、やがては莫大な見返りもあろうというのに・・・」

「こともあろうに、東ローマのテオドシウス様に召されてしまうとは・・・」

「まあ、武力や政治力で敵に回すことは危険極まりないが・・・何もこちらの皇帝ヴァレンティウスの面前で去られてしまうとはなあ・・・」

「あのアウグストゥス廟の前の演説、声は小さいけれど、真摯で本当に心に響いて来た」

「・・・しかし、元老院議員といい、何ら説得の力もない」

「そのうえ、シャルル様を呼びつける際に、例の暗殺剣を忍ばせるとはなあ・・・」

「アエティウス様も、本当に御苦労なお方だ・・・振り回され、報いが何もない」

様々、落胆の声が聞こえて来るが、当地ローマの皇帝ヴァレンティウスの無能ぶりが原因とみる声が大方である。

しかし、そうかと言って、クーデターを起こし、現在の皇帝に代わりうる人材も無く、表立って東ローマの皇帝に反抗などは危険極まりない。

そのような状態で、ローマの宗教者、経済人、一般のローマ市民を含めて、西ローマ全体は、益々の閉塞状況に進むことになる。



「さて、シャルルの言葉でもあるし、政治とやらに挑んでみることにする」

アッティラは、シャルルの依頼を引き受けることにした。

依頼といっても、「アッティラの範疇にはなかった政治に挑戦しろ」という、シャルル特有の「計略」も感じさせる。


「ふふん、これはシャルル様とアッティラの戦いでもあるな」

「それはそれで、面白そうだ」

少し前まで、腕を組み考え込んでいたハルドゥーンは、ようやくアッティラの顔を見た。

アッティラも意を決したのか、ハルドゥーンの顔を見て頷いた。


「確かに、この方法が騒動は少ない」

「その代わり、相当な別の力を必要とする」

「しかしな・・・」

アッティラは、もう一度シャルルの顔を見た。

シャルルも、再び疲れが襲って来たのか、少々物憂げな顔で、アッティラを見る。


「とにかく、無事でいて欲しい」

「それから、再会の地は、ビザンティンとしよう」

「阿呆のヴァレンティウスつまり、西ローマの軍勢の力が及ぼさない地域に、シャルルとハルドゥーンが入ったならば、即座にこの闘いは終わりだ」

アッティラの言葉に、シャルルとハルドゥーンが頷いた。


「つまり、お前もヴァレンティウスから、少しでも離れたいとな・・・」

ハルドゥーンがアッティラに言うと、アッティラも素直に頷く。


「後は・・・軍勢が来ないとして・・・」

ハルドゥーンは少し考えた。

アッティラはすぐに思い付いたようだ。


「暗殺者だ、それだけは・・・」

アッティラはハルドゥーンの目を強く見た。


「・・・任せてくれ・・・」

ハルドゥーンの顔が引き締まっている。

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