第24話 日の当たらぬ途
「先生…頼みますよ」
高校を卒業した僕は、すぐに家を出た。
『先生』とは僕のことだ…。
先生と呼ばれる職業は沢山ある。
教師・講師、政治家、弁護士、執筆業……じつに多い。
僕は何の先生か?
ヤクザの客分も『先生』と呼ばれることがあるのだ。
彼らに利をもたらす人が、利を運んでくるうちは。
僕が産まれた街を出て、数か月が経っていた。
就職するわけでも、進学するわけでもなく、僕は遠く離れた都市で暮らしていた。
アテがあったわけではない。
ただ…大きな都市のほうが、僕のような人間は生息しやすいと思っただけだ。
あのとき、『治す』のではなく、『戻す』ということに気づいてから、僕は能力を多用していた。
『欲』というものを満たすために、ただただ能力の使い方を試していた。
まだ、小学校の頃のほうが、考え方は大人だったと思う。
そんなわけで、お金に困ることは無かった。
『記憶』を奪うというのは、まぁ便利な能力だと思う。
困るのは、金があっても住むところがない。
『住所不定無職』それが、当時の僕だ。
身分証明の必要の無い宿泊施設を利用しながらの日々。
いつしか、そんな連中繋がりで、その関係の人達と付き合うようになっていた。
闇カジノに出入りするようになった頃だと思う、カジノで大勝したオッサンの記憶をトイレで消した。
財布の金を奪ってから、時を戻してやるだけでいい。
それだけで、すべて無かったことになるのだから。
しくじったのは、トイレに仕掛けられたカメラに僕が映っていたこと…。
そのオッサンをカモろうとしたヤクザに怪しまれたのだ。
勝ったことを覚えてないオッサンと、勝ってもいないのに大金を持っていた僕。
僕は、事務所に監禁されて結局、事情を話してしまった。
当然、最初は信じなかった。
しかし、自分のキズを戻してみせると、話を聞く様になっていた。
それから、ヤクザは僕の能力を使い、都合の悪い事実をもみ消すために僕を利用するようになった。
ある程度の金を貰って、僕は頼まれるがままに対象者の記憶を消した。
頼まれれば、風俗嬢を若返らせたりもした。
中毒だろうと、自称傷だろうと、記憶と引き換えに戻せるのだ。
医者なんかより、はるかに便利な能力だ。
いつしか、僕は『先生』と呼ばれ、組の客分として裏の世界で生きていた。
宿泊先も、組が用意した豪華なホテルに変わり。
常に、僕の側には組の人間が数人付き添っていた。
今思えば、監視役なのだろうが、当時の僕は子分のように扱っていた。
食事も、女も、すべて用意されている。
僕は思うんだ。
普通から逸脱してしまえば、正義の味方か悪党になるしかないって。
だから普通でいることが一番難しいんだ…僕にとって…。
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