第7話 誰がために

【いかレスラー】

 世界七大コメディ映画監督の一人、奇才・河崎実監督の撮ったコメディ映画。

 作中、上映された渋谷の映画館前で、いかレスラーが奇襲を受けるシーンがある。

 定価の料金を払って映画館でこの映画を鑑賞した作者の感想は、「金を返せ」である(笑)



七話 誰がために



「シマパン教団の神官が、三年間祈祷した霊験ウハウハなシマパン〜?? ったく、バカな力が罷り通る業界…うっわっ、本当に変形した??!! バカみたい!」


 国際特殊警備会社ブルーストライプの技術開発顧問・秋葉原スミレ博士(全身白衣&メガネ)は、入谷恐子が持ち込んだシマパンブレードを検査しながら、騒ぐ騒ぐ。


「よし、試そう。まずは変形の条件から」


 秋葉原スミレ博士は、メガネの上に保護ゴーグルを着け、手袋を二重にハメてから、聖なるシマパンを握って大太刀を掴む。

 変化なし。


「シマパンダーじゃないと、ダメか。じゃあ、シマパンダー。次は他のシマパンでシマパンブレードが作れないか試してみよう。レッツ・シマパン!」

「レッ、レッツ・シマパン…」


 言われるままに脱ごうとして、入谷恐子はノーパンのままだったと思い出す。

 動きの止まった入谷恐子のスカートを捲って事態を理解した秋葉原スミレ博士は、社内に緊急放送を入れる。


「技術開発顧問・秋葉原スミレです。シマパンダーがシマパンに飢えているので、すぐに戦闘服研究室に持ってきてくれ。使用済みと未使用、両方頼む。種類は多い方がいい」


「…この言い草だと、シマパンダーがシマパンを食べて生きていると誤解されるかな?」

 ミントスクリーマー・数寄都下樹美のコメントに、医療室のベッドで寝ていた飛芽が爆笑してのたうち回り、傷口が開いて再度大量出血して死にかけた。



 一時間後。

 ありとあらゆるシマパンを使ってシマパンダーとしての力を計測した結果。

 秋葉原スミレ博士は結論した。

 

「シマパンダーが力を引き出せるシマパンは、女性の穿いている標準的な横シマのシマパンである事が判明しました」

「なるほど」

 

 男物のシマパン(縦シマ)を提供した岸モリー司令は、ズボンを上げながら頷く。


「普通のシマパンで得られるパワーアップ効果は、未使用で二割増。使用済みで三割増。穿いていた者のシマパン力との相乗効果が確認されています」

「…そんなもの、どうやって確認するでありますか?」


 マジでシマパンから力を引き出せると科学的に保証されても、戦闘が終わって客観的になると疑ってしまう入谷恐子だった。


「科学で測れない数値は、ナイアガラ」


 極めて低レベルな洒落を言いながら、秋葉原スミレ博士はスクリーマーズの携帯端末に、新しいアプリを追加付与させる。


「これで対象女性のシマパン力が分かるわ。私は…95。90から100が平均だと思って」


 入谷恐子は、恐る恐る、自分のシマパン力を計測する。

 5000を超えていた。


「ノーパンでそれなら、穿くと二万は上がりそうね」

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ????!!!???!!」


 体内から除去できないかと聞きそうになって、入谷恐子は思い留まる。

 破廉恥な力だが、有用な戦闘力には違いない。


「イリヤちゃんの自前のシマパンなら、その神官シマパンと同等に力が引き出せるから。アホな教団とは縁切ったままで問題ないわ」

「何があろうと、断交であります」



 その頃、シマパン教団シマシマドリルは入谷恐子のスカウトを諦め、信仰の対象として入谷宅を百メートル先から礼拝するスタイルを確立した。

 イリヤ父は目敏く玄関先に賽銭箱を置いてみたが、シマパンしか投入されないので二時間で撤去した。



「あの〜、岸司令」


 新型武器の性能チェックとシマパン力の解明が終わると、入谷恐子は恐る恐る、上司の顔色を伺う。


「自分が停職中に変身して戦った件についてでありますが…」


 岸モリー司令は、茶目っ気ありげな笑顔で軽く返す。


「戦ったのは、シマパンダーだよ、ブルースクリーマーは、停職中さ。間違いない」


 何か詐欺行為を働いている気がして、入谷恐子は重ねて伺う。


「それで世間様に通用するでありますか?」

「マスコミは、君の事をシマパンダーとしか呼んでいない。つまり、ブルースクリーマーではない」

「…え?」


 言われて回想するに、入谷恐子の覚えている限り、更紗はワイドショーで一度もシマパンダーをブルースクリーマーと呼んでいない。


「極秘にしていると、こういう手管も使えるのさ」

「でーはー…シマパンダーとしてなら、停職中でも、戦って差し支えないと?」

「んー。それ以前に、停職にならないように気をつけましょう」


 今日の最優先的憂慮を片付けた入谷恐子は、言わなくてはいけない感謝の言葉を責任者に伝える。


「岸司令。ゴールドより、我が家を長年に渡り警護していると聞きました」


 その件を持ち出された岸司令は、何も読み取らせないように顔の表情を固める。


「ありがとうございます」


 深々と頭を垂れる入谷恐子に対して、岸司令は極秘にしなくてはいけない様々な伏線を語る欲求の一切を飲み込み、笑顔を作る。


「気にしなくていい。仕事だから」


 入谷朝顔を守る為に、五年間で十九名の民間戦隊戦士が戦死した事など、岸司令は知らせるつもりはない。

 入谷朝顔が中二病プリンターの出力に悪用された場合、銀河帝国レベルの凶悪軍団が現実世界に出現する可能性を教えるつもりはない。


(知らせたら、笑顔を守れなくなる)


 民間戦隊の司令官として岸モリーが守りたいのは、命だけではない。 



 用を済ませた入谷恐子が、医務室の飛芽を見舞ってから帰ろうとすると、医務室には赤い戦闘服の少女と数寄都下樹美、ゴールドスクリーマーが居た。

 入谷恐子が医務室内を何度見回しても、飛芽の姿が見えない。


「あのう…飛芽は何処でありますか? チルドルーム?」


 三人とも、この程度のボケで転けないくらいに、入谷恐子には慣れている。

 赤い戦闘服の少女は、フェニックスの意匠を施されたマスクを脱いで素顔を晒す。


「凄いよ、この戦闘服! 装着者の怪我を、秒単位で治してくれてさ。マジでフェニックスだよ!」


 飛芽が諸肌脱いで、酷い打撲傷が完治した有様を見せる。

 レッドスクリーマーの戦闘服を見せびらかす飛芽を視界から外し、入谷恐子はゴールドに視線を固定する。

 

「赤いだけが取り柄のシャアさんみたいなトマト娘に、誰がレッドの戦闘服を与えたでありますか?」

「それは、俺も聞きたい」

 

 入谷恐子のギラギラする嫉妬を、ゴールドは左に受け流す。

 数寄都下樹美は、リンゴ(見舞い品の余り物)を丸齧りしながら、向いた矛先を人道主義シールドで防ごうとする。


「だって飛芽が死にそうだったんだもん」

「トマトジュースが出ていただけじゃないか」

「あの娘は、トマトジュースが血なの」

「トマトジュースを輸血すれば済む話じゃないか」


 ゴールドが何時もよりも執拗に数寄都下樹美を問い詰める。

 樹美にだけは強く出なかったゴールドの剣幕に、入谷恐子ですらレッドを飛芽に取られた(?)事を忘れて見物に徹する。


「ティルの許可は?」

「あの人には必要ないでしょ、戦闘服」

「嫌がらせ目的でレッドの戦闘服を勝手にやったのか?!」

「すいませんね〜、腹黒い女で〜(棒読み)」


 喧嘩の勃発を感じ、飛芽は変身を解除して、ラノベの形態に収縮された戦闘服を返そうとする。


「怪我は治ったから、いいよ。持ち主に返して」


 神妙に差し出されたレッドの証を、ゴールドは受け取らない。


「ティルは長期出張中だから、使っていていい。戦力を余らせずに済む」

「いやその、我輩も、新入りなのに図々しいかなあ〜と自重したいので」


 真横の至近距離で入谷恐子が凄んでいるので、飛芽はゴールドにとっととレッド服を受け取って欲しかった。


「その戦闘服の修復には、君が持ち込んだ中二病プリンターが使われている。持ち主不在時の一時使用くらいは構わないさ」


 ゴールドの裁定に、入谷恐子の目が死んだ深海魚のようになる。


「ふ〜う〜ん。ゴールドも、嫌がらせでレッド服を押し付けるのねん?」

「適材適所だよ」


 樹美のツッコミに、ゴールドは適当な言い訳をする。


 ならば貰っておこうかなと手を引っ込める飛芽の手に、入谷恐子がガブリと噛み付く。

 マジ噛みである。


「何故に、噛む?」

「あ、美味しいであります(ごくごくごく)」

「きゃあああああああああ」


「おやめなさい! 味方を食い物にするなんて!」


 数寄都下樹美は叱りつけながら、ストローを飛芽の首筋に刺して、試しにちゅうちゅうと体液を吸う。


「ぎゃああああああああああああ」

「本当だ。美味しいわ、このトマトジュース。毎食飲みたい」


 ゴールドスクリーマーは、自分も飲みたいのを堪えて、飛芽にレッドへの変身を促す。

 レッドスクリーマーの特殊機能を使わないと、今後は飛芽の命が保証出来ない。








 富士山の樹海の奥深く。

 自殺者志願者すら入って来られぬ深奥で。

 樹海のカーテンで覆われた天然の極秘開発基地の中で。

 一人の紅髪美女と巨大武者ロボが、同じ動作で槍の演舞を舞っている。

 激しくも美しく合理的なその動きは、周囲に軽い振動しかもたらさない。

 大都会で運用しても、この巨大武者ロボなら周囲への被害を最小限に抑えられる。

 そのように開発するために、極秘戦隊スクリーマーズで最強の戦士が、一年以上も動きを学習させている。


 ティル・ト・ウェイトは槍の演舞を中断し、モーションキャプターのスーツを半脱ぎして汗気を散らす。

 ティルの動きをトレースしていた巨大武者ロボが、自動で全身の装甲を浮かせて篭った熱を逃す。

 夕陽色の長髪に絡みつく汗気を、自身の熱量で蒸発させながら、ティルがクレームを吐く。

 スタッフ一同、拝聴する。


「私の戦闘服『スカーレット・レミア』が勝手に使われている気配を感じた。本部に説明を求めよ」


 そういう並外れた物言いに、彼女を知るスタッフは即座に反応する。


「開発主任。ゴールドスクリーマーから、メールで返信が入りました」

「読め」


 ティルは短く命じると、切れ長の耳をアンテナのようにそばだてる。


「読みます。

『戦闘服は新人に貸した。洗って返すので、お気になさらず』

 以上です」


 スタッフ一同が大事には成りませんようにと祈る中。ティルは槍を長弓に変形させて、メールを読んだスタッフに速射する。

 矢は正確に、メールの入ったパソコンのメール一通だけを貫通・破壊した。

 神業である。

 せこいけど、神業である。


「せっかちな小僧め。目を離すと、事後承諾ばかり罷り通しおる」


 ティルの怒りと共に、基地全体の温度が二度上がる。

 ティルの体内から、紅蓮のオーラが立ち上る。

 それは、不死鳥フェニックスの形を成している。


「それとも、中二病プリンターで模造した戦闘服では、満足できなくなったか?」


 慌てて宥めにかかるスタッフを見て、ティルは癇癪を手控える。

 紅蓮に輝く瞳が鎮められ、周囲に滲み出た不死鳥のオーラが消える。


「済まぬ。祖母伝来の戦闘服を無断拝借されて、気が立った。今日は、此れまでにしようぞ」


 スタッフを安堵させ、金沢利家にどう責任を取らせようかと思案していると、暇を持て余した巨大武者ロボが控えめに声をかける。


『あのう、お師匠様。シマパンの力なんて、本当にあるの?』


 巨大武者ロボ・スクリーマーロボ一号は、顔を可能な限り胡散臭そうに歪めて質問する。


「なんだ知らぬのか。貴様の動力源も、シマパンであるぞ」

『マジで?!?!』

「嘘だ」


 巨大武者ロボ・スクリーマーロボ一号は、藤子不二雄的な動作で転けた。


『へこー』




次回予告

 全世界四億二千跳んで四人の伊藤飛芽ファンの皆様、お待たせしました。

 大根足でもトマト怪人、伊藤飛芽の回です。

 伊藤飛芽のJC生活、始まります。

 次回「アタック・ザ・キラー飛芽 A(アテンション)パート」を、みんなで見よう!

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