面白い作品でした。
タイトルの「ヒーロー&ヴィラン」からもっと単純な勧善懲悪のストーリーを想像していましたがいい意味で裏切られました。この物語にはもっと深いものが流れていました。
ストーリーは高校教師の「コウ」とその生徒の「ユメ」が異世界に飛ばされ、それぞれ敵の陣営で戦っていくというのがアウトラインです。ですがここから始まるドラマは、そんなに単純ではありません。お互い相容れぬ陣営同士、そこには内紛があり、戦争があり、戦いはみるみる混迷を深めていきます。
そんな世界の中で二人はそれぞれに活躍していき、戦禍の中心となっていくのですが、やはり一筋縄ではいかない展開が待ち受けていきます。
と、ここまで書くと難しそうですが、語り口の良さ、展開の良さ、毎度気になる引きの良さなどで、あっという間に読み進めてしまうと思います。そして登場するキャラクターの数々がまた魅力的で、こちらも強力に物語を進めていきます。
物語の楽しさに身をゆだねつつ、その奥に流れるシリアスなテーマに驚き、意外な展開にびっくりし、楽しい読書が出来ると思います。
ぜひ読んでみてください!
面白かったです。一言でいうと、圧倒されました。
概要にもありますように、
主人公竜造寺コウは高校教師。女生徒、羽白ユメの担任という設定。
しかし、ひょんなことから、異世界へ。
コウがヒーローになるのかな。わくわく。この辺りは、実際に読んでみてください(*^^*)
この物語の主軸には「戦争」があり、幾たびの戦いに巻き込まれる主人公たち。ただ、戦うだけではない。
ただ、魔法を魅せるだけではない。
2人の想いもさることながら、異種間の戦争に巻き込まれ、仲間を失い、ヒーロー&ヴィランのテーゼを据えたまま、物語はLASTへ。
……もやもやとします。
でも、これが戦争の在り方であり、正義の定義なのかも知れません。
余談ですが、男性はどこか「ヒーロー」でありたい願望が強く、そういう風に遺伝子も出来ているそうです。なので、コウのヒーローとしての姿はユメにはどんな風に映ったか……などと考えてみました。
きっと、ユメにとって、好きな相手にとってのヒーローになれたのではと。
さて、この物語の戦いや戦略ですが、史実を元にされているそうです。ですので、戦略家としてのコウは智略に長けていて、戦法もぶれません。こんな部分が多々見えるために、通常の「異世界物語」とは一画を博している「ヒーロー&ヴィラン」
その意味は、貴方自身で確かめてみてください。
忙しい現代人がネット小説に求めるものとはなにか?
それは読者によって異なるのだとは思うが、やはり“読みやすさ”ではないだろうか? 通勤通学の合間に、ちょっとした休憩時間に、スマホ片手に読むことができるネット小説は、読み手の目に優しく作るべきである。
などとわかっちゃいるのだが、書いているうちにムダに、冗長に、ダラダラと駄文を垂れ流す私のようなタイプもいる。“書きたいこと”と“書かにゃならんこと”は違うんだよと理解はしていても手が止まらないんです。猛省!
さて、本作『ヒーロー&ヴィラン』は、あくまでも読みやすさの見地に立って書かれている。段落は短く区切ってあり、展開が早い。状況の描写は簡素かつストレートにまとめられており、無駄を削ぎ落としている。話を理解するのに必要な情報の提供量を最低限にすることで読者に対して優しい作品となっている。「読ませる工夫」は、ここにある。作者、前田薫氏が他に手がけている歴史小説を見てみるとハードで重厚な雰囲気が強いが、本作の文章はライトだ。氏本来の芸風は重厚のほうだと思うのだが、こちらでは使い分けている。作品に合わせたのだろう。
展開の早さは戦記物らしいスピード感を生んでいる(そう、タイトルだけ見るとアクション物っぽいが、これは戦記物なのだ!)。政治背景となる対立構造は魔族VS機械族というシンプルなもので(厳密に言うと、のちのち違ってくるのだが、概ねそんな感じ)わかりやすい。
とっつきやすい外殻を持つ一方で、作品のテーマは深いものとなっている。前田氏自身、“人によって受け取り方が違うように書いた”と語るが「考えさせる苦労」というものがあったのではないか? 結論づけるのは作者ではなく読者、というスタイルは、書くこと自体は出来ても、そう促すのは難しい。最終局面にいたるまでの展開が陳腐であったなら誰も考えやしないが、ただ劇的であるだけというのなら、議論の対象にもならないからだ。
ヒーローとは? そしてヴィランとは?
激動の異世界史は、最終的にそれに尽きることとなる。誰がヒーローで誰が悪役なのか? そもそもヒーローとはなんなのか? 読者は考えさせられるはずだ。その結論自体、永遠に出ないのかもしれないが……
嗚呼、また無意味に長くなってしまった!
とにかく、この『ヒーロー&ヴィラン』は、ホントに、確実に、最高に、超、面白いです! あなたもタイトルの意味を、いっしょに考えてみませんか? で、いいのにね。
ラストまで読了。キャッチコピーにある通り、『よくある異世界もの』とは一線を画しています。ご都合主義の対極にあると言っていいでしょう。多彩な登場人物のひとりひとりに魅力があり、ストーリーは読者の想定を軽々と越えていくものになっていると思います。一切、妥協がありません。主人公が終盤でとる行動とその結末は、ぜひ多くの方に読んでほしいと思います。ラストまで読み終わったとき、この作品を読み終わってしまったことを寂しく感じると思います。大河ドラマとか歴史モノの長編小説を読んだ時のような充実感と寂寥感と喪失感を覚える、不思議な魅力のある作品です。
魔族と機械族、相対する陣営に分かたれた先生と生徒。
正義と悪。子供心に抱えた単純な二元論は歳を重ねるにつれ幼稚なものとして薄れゆくも、いつの間にか気付かないうちにどこかで新たな「正しさ」に縋ってしまう自分がいて・・・
そんな矛盾を克明に映し出すのは、巧妙かつ無駄のない、非常によく練られたストーリー構成。
虚飾を排したシンプルな言葉は、童話的空気を醸し出すとともに、難しいテーマを読み疲れることなく読み切ることを可能にしています。
完璧な解決を求め、自分を犠牲にしても全てがうまくいく方向に突き進む・・・それは確かに尊い行為でありつつも、やはりどこか独り善がりな「正義」に囚われてしまっていた部分は無かったか。
しかし一方で、それぞれの正義に殉じて矜持を貫いた者たちの末路を無意味なものと断じることも、自分の「正しさ」を振りかざして他者を否定しているだけではないのか・・・
果てしない思考のせめぎ合いが読後に後を引く、心に残る作品です。
繊細な描写を省くことで読みやすさ重視にテンポを上げ、しかし淡々と語られるのは濃密な人間ドラマ。これだけの詰め込まれたような展開で読み手を魅了する作者様の技量は必見です。
また、主人公が転移した世界で繰り広げられる国家間戦争にも注目です。主人公が関わってくるのは言うまでもありませんが、実は彼の身近な人物もその世界に転移しており、その戦争に関わっていたのです。となると……何かに気づいて面白くなってきませんか??
ヒーローという結構ありがちなテーマではあるわけですが、他作品と比べた時の決定的な魅力がこの作品にはあります。それはずばり、『ヒーローとして相反する二人のヒーロー』です。これを国家間戦争に絡めていたのが大変秀逸でした! 物語のラストも切なすぎて感無量です。私的にはああなって欲しくなかったんですがっ!
山あり谷ありでストーリーの流れとテンポは非常に良いです。
キャラクター同士のぶつかり合いも、熱さや戸惑い、時に無常さなどがあって私は好きです。面白いです。
冷静ながらしっかり熱を持つコウの人柄も、それと対比する、年相応のユメの単純さや苦悩・成長なども物語に華を添えています。
ラストも良い。
ただ前半と中盤、テンポが速すぎる部分が散見しました。物語が一巻の中に無理にぎゅっと圧縮された感じがしていて、一巻の文章量が服だとするならば、物語という体に服のサイズが合っていない気がします。あくまで個人的な感想ですが、これはもったいないです。
サイドストーリーで補う形ではなく、この一巻本編を上下巻くらいに分けるつもりで、ゆったりと描かれたキャラクターや、彼らの戦うシーンなどを見たかったなぁと思いました。