第21話 スナイパー

【概要:アモンvs狙撃手カーロス】


その建物の最上階に男はいた。


カーロス・ウィック。

ロリューの元軍人である。

狩人を生業とする男で幾度も勲章を授与されたことのある歴戦の兵。


ある時は、敵陣深く潜入し、一人で大将首をあげ、

ある時は、ボールカッターに、片方の睾丸を食われながらも

困難な水中からの狙撃を成功させた不屈の男。


そんな男が、この建物の屋上にて狙撃の準備をしているのだ。


標的はパレナの誇る荒神アモン。

新兵には荷が重いと自ら志願しての出陣であった。


手馴れた動きで銃を構えるカーロス。

しばらくして、400M先に標的の姿を捉えた。


カーロスは、数秒でアモンの頭部に照準を合わせ

引き金を絞る…


刹那、カーロスの放った弾丸は地面に着弾する。


外したのではないかわされたのだ。

いや、それも正確な表現ではないだろう。


カーロスの殺気に当てられたアモンが即座に反応し疾駆。

意図せず弾丸をかわす結果となったのだ。


とにかく獣は走り出した。すさまじい速度で。すさまじい荒さで。


だがスナイパーの真価が問われるのは二発目以降。


つまり初撃を外し、リアクションを取り始めた標的をいかに

素早く正確に仕留められるかにある。


しかしそのスナイパー界の最高峰であるカーロスが反応すらできなかったのだ。

それほどまでにアモンの速度は異常であり人間離れしすぎていた。


カーロスは狙撃を断念し、アモンが屋上に上がってくる時間を即座に計算。

トラップ設置と近接戦に備えるべく拳銃とナイフを抜いた。


直後、アモンはカーロスの予測を大きく裏切る行動を取る。


何と、猛烈な速度そのままの勢いで

打拳をカーロスのいる建物に叩き込んだのだ。


敵陣に孤立し30名の敵に追われたこともある。

魚に睾丸を食われながら、ひたすら敵を打ち抜いたこともある。


そんな修羅場を数限りなく経験した男が初めて味わう衝撃と戦慄。


数瞬の間を置いて建物は崩れ落ちた。


今や廃墟となっている建物とはいえ

何という暴挙。何という無法。そして何という破壊劇。


崩れた建物の上で大の字に寝そべるカーロス。

建物崩落の衝撃で負傷し動けないのだ。


その目がアモンを捕らえた。

アモンもカーロスを視認する。


次の瞬間、カーロスは手榴弾のピンを

すばやく引き抜きアモンに投げつけた。


自分も殺傷圏内に入れた自爆覚悟の攻撃である。


しかしアモンは逃げずに

何とその手榴弾を片手で握った。


手榴弾とは、炸薬の化学変化によって生じる膨大なエネルギーの拡散。力の移動。

ならばそれと同じだけ、もしくはそれ以上の力で握り込んだなら?


それはもう手榴弾という殺傷兵器ではなく、ただの爆竹。

音を鳴らし人を楽しませるだけの趣向品。


アモンの手の中で目的を果たさず散華する手榴弾を見ながら

カーロスは思った。


この男の武力は"もはや災害"であると。


そして意識を失うカーロス。アモンは彼のその姿を確認すると、

止めを刺すことなく、その場を後にした。


売られた喧嘩はいつでも買うが、それはあくまでも力比べ。

戦闘能力がなくなった相手へのそれ以上の攻撃は無い。


それがアモンの流儀である。


壊し屋アモン。なんとも堪らぬ男である。

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