第15話 Tレックス

【概要:ティラノサウルスについて】


パレナ大学大学院 新領域創成科学研究所

主席研究員 フィナ ガルシーア マーティン(15才)(女)は語る。


「え~。研究者の間ではたびたび議論になる次の話題。

 ティラノサウルスとマンモスはどちらが強いのか?ですが…」


「私はティラノサウルスの方が強かったと思っています。

 凶悪な歯、強靭な顎、鋭い爪、これらに加え、後述する筋肉。

 それらの要素から考えて出した結論です」


「ではデータを見てみましょう」


「ティラノサウルスの体重6トン、体高13メートル。

 マンモスは体重20トン。体高9メートル。


「体重はマンモスの方が3倍弱と

 正直、これだけでみるとティラノサウルスに

 勝ち目がないように思われます」


「さらに言うなら皆さん知っていますか?」


「Tレックス。つまりティラノザウルスは自力では歩行できなかったとされる

 学説があることを」


「ほぼ完全な形で発見されたティラノザウルスの骨を正確に計測して

 その筋肉量を推測した結果」


「何と彼らに搭載されていたであろう筋肉量では彼らはその自重を

 支えることができないことがわかったんです」


「でもおかしいですよね?そんな生物が何百万年も地球の大地に君臨できるわけがない」


「そこで、私はティラノサウルスの筋肉は我々のモノとは質が違うのでは

 ないかと考えました。


「知らない方も多いので補足させて頂くと我々人間の筋肉と

 馬、牛など動物の筋肉の質はすべて同じものです」


「我々人間が、ゴリラやチンパンジーに比べて力が劣っているのは

 白筋、赤筋の比率と筋肉量の多寡に他なりません」


「つまりより多くの筋肉を搭載できる骨格の大きさが

 生物の力の強さに大きく関わってくるのです」


「そこで話を戻しますと、ティラノサウルス程度の骨格では彼らは彼らの

 体重を支えることはできないことは先ほど申し上げました。

 つまり、現在Tレックスだけですが、彼らに限定するならば

 筋肉の質そのものが違うのでは?、との推測が成り立つのです」


「今の所、確たる証拠を発見するには至っていません。

 まあ、巷で話題の魔獣なるものを捕獲できれば研究も進むとは

 思うのですが…、それよりも現実的なものをお見せ致します」


「この何の変哲もないグラフ。これは半年前に駅前で見つけた男の

 身体測定グラフです。後ろで見えにくい方もおられると思うので

 説明させて頂くと、この男の測定値は部分的に人間の限界を

 大きく上回っています」


「100Mも走らせてみましたが、その記録、何と、6.14秒。

 世界記録保持者のタイムが9.58秒ですから、とてつもない数字です」


「握力計などの機器の不備で測定不能な数値があるのが残念ですが」


「この男の身体能力が尋常で無いのがわかるでしょう?

 しかも渋りながら走ってこの記録ですからね」


「私はこの男こそ、太古の昔に失われた原始の筋肉ミッシングブラウンの持ち主である気がしてならないのです」


「そこで皆さんにお願いしたいのは、この男を見かけたら是非私宛に連絡を

 頂きたいのです。助手たちと逃がさないように囲んでいたんですが

 ちょっと目を離したスキに逃げられてしまって」


「でも皆さん。見つけても、けして近寄ってはダメですよ。

 とても危険な男です。粗暴というわけでもないし、

 話も通じる男ですが、いかんせんその力が規格外すぎる」


「半ば強引に研究所に引っぱって計測したんですが

 我々が女でなかったら、跳ね飛ばされていたかもしれません。

 ふふ、女に弱いのはどこの男も一緒のようですね」


「これが彼の写真です。まあ、デカイ男ですから、顔を覚える必要も

 ないでしょうが…。ああ、そうそう」


「彼の名はアモン」


「とてもキュートな男でしたよ♪」

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