番外編



今回は本編に全く関係の無い番外編をお送りします。原形を留めていない話になりますので、軽い気持ちで読んでください。



 ――――――もしもアラタが女だったら――――――


(この話中ではアラタをアニタに名義変更しています)



 ―――アンナの場合―――



「さあ、さあ!お姉さま!!このお召し物をお使い下さい!!お姉さまの為にご用意した特別な服です!!」


 鬼気迫る勢いで細部にまで刺繍が施された凝った装飾のドレスを突き出し、アニタに迫るアンナ。それをア二タはどうにか宥めようとするが、当のアンナは聞いていない。


「いや、私にそのドレスは似合わない。いつも通り男物で十分だ。頭一つ背の高い女が居たら色々と目立つでしょう?」


「何を仰います!!お姉さまほどの美貌を隠すなどドナウ、いえ西方の損失です!もっとご自分をさらけ出して下さいませ!あっ、ですが殿方にお姉さまのしなやかで均整の取れた素晴らしい身体を見せては、ケダモノになって襲い掛かってしまう。それは困ります!

 ああ、でもこのままお姉さまが磨かれないのは世界の破滅――――そうだ!私だけがお姉さまの肢体を独占出来れば……」


 何やら勝手に自分の世界にトリップして、両手をしきりに動かしている。その手つきが非常に卑猥だとア二タは感じた。そして可愛い妹分が涎を垂らして、下卑た笑みを浮かべるのを見て、また良からぬ事を企んでいるのかと頭を痛める。


「ああ、乱れるお姉さまも素敵(うっとり)。いつもは凛として殿方のような振る舞いをしているのに寝所では弱々しく私におねだりする。それを私が受け入れ、女としての喜びを教える……うふふふふふ」


 また悪い病気が始まったと、出会った頃の純粋無垢なアンナと今のどうしようもないアンナを比較して、どうしてこうなったとア二タは天を仰いだ。



 ケース1 アンナ、ガチクソレズ化END





 ―――マリア&オレーシャの場合―――



「あらア二タ、随分疲れた顔ね。またアンナに迫られたの?」


「ご想像にお任せします。ああ、もう!アンナはどうして女の私に迫るんでしょう?女同士なんて非合理でしょうに」


「それはア二タさんが並の殿方より男としての魅力があるからです。私も時々貴女にドキリとしますから、元々素養のあるアンナには理想の人に思えたのですよ」


 身分は違えども友人であるマリアとオレーシャに碌に擁護してもらえないア二タはふて腐れながらお茶を啜る。ドナウに来てから最初に出来た友人のマリアとエーリッヒに嫁いで来たオレーシャとこうしてお茶会を開くのがア二タの日常だった。

 元からお転婆のマリア、親から性別を間違えたと嘆かれるオレーシャ、女にして騎兵大隊を率いたア二タの三人は魂のレベルで意気投合し絆を育んでいた。


「また気晴らしに竜に乗って狼狩りでもしようかしら。遠出するならアンナは追って来れないでしょうし」


「あら、良いわね。私も最近竜の上で槍を扱えるようになったから、貴女達に遅れは取らないわよ」


「そうですね、私も暫く弓を引いていませんから、鍛錬の為にご一緒します。夫には良い顔をされませんが、私も少しぐらい肩こりを取りたいですから」


 まるで買い物かピクニックの予定を組むかのように三人は狩りに出かけようとして、後日狼どころか護衛や使用人の胃を殺してしまった。

 後年、稀代の女竜騎士として三人の名はドナウに末永く残る事となる。



 ケース2 伝説の暴竜三姉妹END





 ―――エーリッヒ&ルーカスの場合―――



「畜生、またあの三人か!どうして大人しくしてくれないんだ!――ううっ、腹が痛い」


「殿下、この薬をお使い下さい。私も愛用していますから、効き目は保証致します」


 自分の妻と妹、あと異性の友人が城を抜け出し、近隣で家畜を襲った狼の一団を狩り殺したと報告を受けたエーリッヒは腹部を抑えて、痛みに耐える。そこに宰相のルーカスが気を利かせて愛用の胃薬を差し出すが余計なお世話だと言いたかったが、痛みに耐えかねてありがたく使わせてもらった。


「くそっ!きっとア二タが二人を誘ったな。彼女が来てから妹が前以上に活動的になったし、オレーシャも普段はおとなしいが、決まってア二タが一緒に居ると自重しない。もし万が一何かあったらどうするんだ!

 知恵を貸してくれるのは素直に感謝しているが、代価がこれでは私の身が持たない!宰相、どうにかしてくれ!」


「諦めが肝心ですよ殿下。私はとっくに仕事以外の彼女の手綱から手を放しています。でないとやってられません」


 とっくに匙を投げていたルーカスの生気の無い瞳にエーリッヒはがっくりと項垂れ、悲痛な叫びが執務室に木霊する。女三人がヒャッハーした後始末をする王子と宰相に幸あれ。


(この時空では諜報部は設立していない。女のア二タに重要な役職の長を任せられる訳がないから。ア二タはあくまでもカリウスの相談役である)



 ケース3 犠牲者の嘆きEND





 ―――ウォラフの場合―――



「ア二タは結婚とか考えないの?」


 騎士団と直轄軍への指導を終えたア二タにウォラフが何気なく質問する。何を藪から棒にと首を傾げるが、考えた事が無いとだけ返答する。


「自分が子供を産んで母になる未来が想像出来ないし、男女の仲と言うのも理解出来ない。だから今のままで結構です」


「なら理解出来たら結婚も考えるって事かい?いやさ、エヴァが君の事をかなり心配してるんだ。君ってもう23だろう、ドナウじゃあとっくに行き遅れだから、このままずっと独り身で良いのかって、気を揉んでいるのさ」


 確かにドナウでは20を過ぎた女は行き遅れ扱いになる。地球では30ぐらいまで余裕だと言っても、ここはドナウだと言われたら返す言葉に詰まる。最近、陰で『行き遅れ女』と罵倒さているのは知っているが、そもそも興味が湧かないのだ。かと言って同性に興味があるかと言われたら、アンナの姿で微塵も関心を抱けない。


「私やエーリッヒ殿下と良い関係を築けるから、男嫌いではないと思うけど。まあ、興味が持てたら相談してほしい。出来る限り力になるよ」


 嫌味なくらい爽やかに去って行ったウォラフをよそに、ア二タは自分の未来と隣に座るであろう顔の無い伴侶を想像するが、まったくピンと来なかった。ア二タの春は遥か遠い。



 ケース4 行き遅れる友人を心配するEND





 ―――ドナウ各人の場合―――



閣僚達「仕事が出来るし気遣いもなかなかだが、女が出しゃばるのが気に喰わない。今後も助言ぐらいは聞いてやるから、さっさとどこかに嫁いで幸せになれ。うちの息子以外な」



ミハエル「新しく出来た孫娘のように思っておるぞ。アンナと仲が良すぎるのは少し困るが、これからもドナウに力を貸してくれ」



ヴィルヘルム「妹が本当に申し訳ない。昔はあんなに可愛かったのに、どうしてあんなに拗らせてしまったのか」



ゲルト「この国に来てからすぐは女に負けたと騎士達が引退を考えて、引き止めるのに四苦八苦したぞ。ただ、仮にウォラフが未婚だったら迷わず嫁に貰っていた。二人の子供がどれだけ強いか考えて世の中ままならないと嘆いたがな」



ロート「磨けば光る宝石のようなおなごです。元が良いのに一切磨かない惜しい素材。だが、それ故に自然なままの美しさが際立つ、あれは愛で甲斐がある乙女だ」



リト「方向性が違うだけでガートと同類の化け物です。食指が動く訳がありません。ですが今後も良いお付き合いをしたいと思うぐらいには信頼していますよ」



セシル「尊敬すべき師です。性別の違いなど問題になりません。女性としては魅力を感じませんが、結婚していたら迷わず求婚します」



 ケース5 なんだかんだで嫌われていないEND





  ―――カリウスの場合―――



「なあア二タよ、そなた余の妻にならぬか?」


「は?何の冗談です?まだ呆けるには早すぎますよ。何が悲しくて自分の父と同じぐらいの中年に嫁がねばならないのです?」


 ミハエルに代わる新しい相談役に抜擢されたア二タは毎日のようにカリウスと顔を付き合わせている。お陰で王であっても遠慮なく暴言を吐いてもここでは咎められる事が一切ない。寧ろカリウスは、この罵倒を楽しんでいるぐらいだった。

 突然目の前の男がとち狂ったと疑ったが、カリウスは至って正気だ。


「そなたの言う通り余もまだ若いのでな。良い女が傍におれば口説かずにはいられない。それに、20歳程度の差などドナウでは大した物では無い。貴族なら一人二人囲っている程度よ。

 それで話は戻すが、余の妻は嫌か?ドナウの女子なら誰もが憧れる地位だぞ。それとも同年代の男だったら了承したのか?」


「王妃などどうでも良いです。それにマリア殿下やオレーシャ殿下が義理の娘になるなど御免被ります。そもそも私は結婚に憧れを抱いていませんので、歳は関係ありません。20も離れていたら尚の事興味を失います」


 どうしてここ最近縁談ばかり耳に入ってくるのかと、ア二タは内心では憤慨する。興味の無い話をベラベラと何度も聞かされていい加減うんざりしていた。この国の人間は自分をどうしたいのだ?


「そう怒るな。余もそなたの幸せを考えて助言しているだけだ。実は家臣の何人かにそなたに婿をと考えてそれとなく打診したのだが、悉く断られてしまってな。これではそなたは一生独り身だと不憫で仕方が無くてな、ならばいっそ余がそなたを娶ってはどうかと聞いてみたのだ。まあ断れてしまったが」


 ア二タはカリウスに、なにを余計な事しやがったとキレそうになったが、頑張って我慢した。一応上司だし、むかつくがこの国の王を殴り倒すのは外聞が凄まじく悪かったので自重した。

 わはは、と声を上げて笑う上司を見て、何だ唯の冗談かと多少怒りを収めたア二タだったが、カリウスはさらなる爆薬を投げつけて来る。


「ならば年下はどうだ?妻の方が5~6歳上の夫婦もドナウに居ないわけでもない。そなたは年下の扱いが上手い、案外良い夫婦になれると思うのだが」


「だから、なぜ私を結婚させたいのです?あれですか?どこかの大領主が私を手籠めにしようとしてるから、先に結婚させて、封じておきたいとか思っていません?」


「無い訳では無いとだけ言っておこう。だが、興味が無いというなら簡単な想像だけでもしてみろ。

 例えば、相手がカールだったらどうだ?そなたを慕っているし、そなた自身もそれを悪い気はしていないだろう?一緒に食事をする所、一緒に湯浴みをする所、同じ寝台で肩を寄せ合って眠りに就くのを想像してみろ」


 なぜそこで10歳も年下のカールなのだと、激しく疑問に感じたが取り敢えず義理で言われた通り、カールとの夫婦生活を想像してみた。



 ケース6 おっせかい親父





 ―――カールの場合―――



「ア二タ、また料理を作ってください。貴女の料理がこの世で一番美味しいんです」


「またですか殿下。自分の料理を褒められるのは悪くないですが、こう何度もお城の料理人の仕事を奪うのは心苦しいのですが」


「アニタの料理が食べれない私の方が心苦しいんです。だから早く作って下さい」


「もう、しょうがない人ですね。では何が食べたいですか?お肉ですか、魚ですか?」


「いいえ、アニタと言う素晴らしい女性を素材のまま食べたい気分です」


 カールに押し倒されたアニタは美味しく頂かれた。



「今日は汗をかいたので、アニタ、一緒に湯浴みをしましょう」


「その汗をかいたのは私を組敷いたからですよね」


「そうですよ。だから色々と汚れて気持ちが悪いですから、一緒に綺麗になりましょう」


「綺麗にする端から汚したらいつまで経っても浴室から出れませんよ」


「汚れるような行為がお望みでしたら、満足するまでしてあげますよ」


 アニタはカールの手によって隅々まで汚された後、綺麗にされてしまった。



「今日も一緒に朝まで寝ましょう。アニタ、私を離さないでください」


「もう、カールは寂しがり屋ですね。でもそれは私も同じですか」


「アニタは凄く良い匂いがします。貴女の匂いをこのまま一生嗅ぎ続けていたいです」


「変態みたいな事言わないでください、こっちが恥ずかしくなります。でもカールも温かくて私も一生こうしていたいです」


「じゃあずっと一緒に居てくれますね?」


 二人はそのまま固く抱き合い、眠りに就いた。しかし途中で起きたカールに身体をまさぐられてすっかり火照ってしまい、弄ばれてしまった。




「ほう、やはり余の思った通りだったか。アニタよ、そのだらしない顔をいい加減止めぬか、女を通り越してメスの顔になっているぞ。それに涎が机に溜まって敷物を汚しておる」


「―――はっ!い、いえこれはその、何と言いますか……」


 咄嗟の言い訳が全く思いつかないアニタは言葉に窮する。年下の少年を手取足取り教え導くのなら分らなくも無いが、なぜ想像の中の自分はカールにずっと弄ばれて悦んでいるのか。そしてなぜ涎を垂らして原型の無い程に顔が崩れているのか、それが分からない。

 そんな苦悩するアニタにカリウスは布巾を投げて、涎を拭えと催促する。あまりの恥ずかしさに顔が赤焼けた鉄のようになっていたが、自分でもどうにもならない。


「涎を垂らすほどカールとの結婚生活が良かったとは正直余もドン引きだ。興味が無いなどと嘯いても、結局はそなたも女だったというわけだ。自覚が有るのか無いのか分からんが、カールを見る目が他の男と違っていたからな。軽くカマをかけたが、見事に引っ掛かりおったわ。

 そなたが望めばカールと結婚させても良いぞ」


「で、ですが、私は10歳も年上ですよ!もっとカール殿下には歳の釣り合う人がドナウには幾らでもいるでしょう!それに私は女の魅力など欠片も持っていません!」


「だから先程歳の差など大した事ではないと言っただろう、強情な女め。ならカール自身がそなたを娶りたいと言ったら了承するのだな」


 カリウスの言葉に即答しようとしたが慌てて止める。一抹の望みを掛けて聞いてみたかったが、この話をカールに知られる事自体がアニタにとって死ぬほど恥ずかしい。

 凄まじい苦悩を見せるアニタだったが、カリウスの方は『面倒くさい拗らせ女め』とかなり呆れており、もういいかと種明かしをするつもりだった。


「言い忘れたが面倒だからもうカールを呼んであるぞ。そこの衣装棚に隠れていたから、そなたとのやり取りは筒抜けだ」


 その言葉を合図に、部屋の棚の一つが勝手に動き出して、内側から扉が開け放たれると、中から顔を紅くしたカールが出て来た。アニタはあまりの衝撃に口をパクパクと動かすだけで、身じろぎ一つ出来なかった。お互いが恥ずかしさで顔を背けていたが、カールの方から意を決してアニタを見据えて口を開く。


「今は私は頼りないかもしれませんが、いつかきっと貴女に相応しい男になって見せます!だから、どうか私の妻になってください!!」


 弟のように可愛がっていた少年の男らしい強さに満ちた言葉は、普段の子犬のような愛おしさとのギャップが凄まじかったのか、アニタは腰砕けになり下腹部の疼きが止まらない。横でカリウスがニヤニヤしながら二人を見守っていたが、そろそろ邪魔しちゃ悪いかと気を利かせて、『寝台好きに使って良いぞ』と言い残して私室を出て行った。

 残された二人はその言葉の意味をきっちり理解しており、お互いが恥ずかしがっていたものの、先に我慢出来なくなったカールがアニタの唇を強引に奪う。相手を気遣うような優しさも技術も無い、子供同士が興味本位で行うような拙い口づけだったが、それが却って何の知識も経験も無いアニタの脳を蕩けさせてしまった。

 始めた会った時はカールの方が頭一つ以上小さかったが、いつの間にかその差はかなり縮まっている。今もまだアニタの方が大きいが、カールが爪先立ちすればちょうど同じ目線になるぐらいだった。

 夢中で二人はお互いの唇を貪り合っていると、先に参ってしまったアニタはへたり込む。腰に力が入らず、頭は火照り、下腹部が若く荒々しい雄の身体を求めて疼きを止めない。それをカールは敏感に感じ取って、雌を寝台へと運ぼうとするが、それをメスの方から押し留める。


「あんなおっさんの臭いの付いた場所は厭。でん――ううん、カールの匂いのする寝台が良いの」


 自分の父親、それも一国の王をおっさん呼ばわりは酷いと思うが、そんな事より普段は凛々しいという言葉が服を着て歩いているような女性が上目づかいで濡れた瞳を自分に向け、こんなにも甘えた声を囁いている現状に、カールは脳髄まで溶かされてしまい、言われるがままにアニタを抱えてカリウスの私室から出て行った。並の男より長身かつ筋肉質のアニタはかなり重かったが、その重みこそが自身が一端の男になる為に必要な重みだと、反対に喜ばしかった。



 翌日、ドナウ全土に第二王子カールの結婚が発表された。相手が9歳年上の外国人、アニタ=レオーネ相談役だと知られると、どういう縁談だと、こぞって首を傾げたが、本人達が是非にと言い出した事だと伝わると、色々とやっかみがあったもののどうにか受け入れられた。

 結婚してからも二人は喧嘩らしい喧嘩もせず、子沢山な家庭を築き、最後まで幸せに暮らしたと歴史書に書かれていた。


「こんな結末認めません!!お姉さまは私の物です!!ああ、でも幸せそうなお姉さまの笑顔を曇らせたくない!でも、でも!!うわーん悔しいーーー!!!」


「ああ、人妻のアニタ先生…良い、最高だ」




 ケース7 幸せな家庭END






 ―――エリィ(かわいい)の場合―――



「えっ?アニタ様?あたしにとってはお母さんであり、お姉ちゃんであり、ご主人様かな。あとは、目指すべき理想の女性だよ」




 ―――――おしまい。



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