十一冊目――七年目の記録夏休み――
そういえば、去年までの私はいつも夏休みを図書館で乗り切っていたんですけど、それ以外の記憶があまりにもあいまいでぼやけてます
どういうふうに過ごしてたんだっけって思い出そうとしたら、全然思い出せなくって、びっくりしました
記憶らしい記憶がさっぱりないです
つまらなかった海の記憶、くらいしか思い出せません
友達と遊んだこともあったはずなんですけど、なんで思い出せないのかな?
考えてみても、分かりませんけど、忘れちゃったものはしょうがないですね
しょうがないです
私がわるい子だから、だからしかたないんです
私は考えました
お母さんのおいしくないご飯を食べなくて済む方法を考えました
思いつきました
私がお母さんの代わりにご飯を作ればいいんだと思いつきました
早速実行に移すべく、キッチンに立って腕まくりしてフライパンを洗っていたらお母さんがきて何してるのってふしんそうに聞いてくるんです。いったい私の何を疑ってるんでしょうか?
ご飯作ろうと思ってって答えたら、出来ないでしょって決めつけられてしまいました
でも大丈夫です、私には一生けんめい勉強した良い子の真似ごとが出来ます。良い子ならこういう時絶対にこういうと思ったのでそういいました
お母さんはいつもやってて大変だから、夏休みは私が代わりにやるって言いました
ほんとはお母さんは全然大変じゃないです。おかずは大体冷凍食品と無添加素材で作りましたっていう張り紙のしてあるお惣菜だってこと、私は知ってます。それでそれによく似た材料で私の分だけ適当に真似て味のないごはんを作ってるって、私分かってます。お出汁が薄いのも、塩っけが足りないのも全部全部お母さんがちゃんとした料理を作れないからだって、私知ってます
それをごまかしてるだけだって、私知ってます
まぁそれはそれとして、結局今日のごはんは失敗してしょっぱくしすぎました。反省して次は必ずいい塩加減でご飯を作ります
一回くらいの失敗ではめげません。これ以上私は味のないごはんなんて食べたくないです
一週間くらいずぅっとご飯を作って、なんとなく要領が分かってきました。料理って難しいです。包丁もなれないからうまく使えなくって指を切るし、丸い食材はうまく押さえられなくって形が変になっちゃうしで大変でしたけど、でも少しずついい感じに出来るようになってきました
やっぱり、料理っていうのはちゃんとレシピを調べて作ったほうがいいですね! そうしたほうがおいしくできます。適当に作るのは難しいです
そうそう、指を切って見て思ったんです。なんか血を見てるとちょっと心が安らぐなーって、思ったんです。でも痛いんです、痛いんだけど、なんだか落ち着くんです。やっぱりこれは変な気がしてきました。これはわるい子な気がします
でもあの赤くってちょっぴり茶色くって指につくと赤がさぁって茶色くなるのとか、ちょっと鉄くさいにおいとか味とか、なんかそういうのがくせになるっていうんですか? なんかそんな、そんな、そんなです
あと血が出ると私って生きてるんだってちょっと安心します。痛いって分かるとあぁ、まだ生きてるんだなって思うんです
安心するのといっしょにダメだなって、思っちゃうんですけど、これがまた、なんていうか、変な感じでちょっと気持ちいいんです
こういう、なんかちょっとエッチな感じ? でもそれももう少しの辛抱かもしれないです
お姉さんとお出かけするのはもう来週ですから、それが終わったら私もちゃんと自分がどう終わればいいか選ばないとダメです
そうやって選ぶのが私が最後に出来るちゃんとしたことだから
明日、お姉さんと水着を見に行きます
みんなが雑誌で見てるようなおしゃれな水着を私もやっと着てみたりできるんだって思うと、こうふん します! こうふん!
そういえば、今切り傷いっぱいあるんですけど、お水入ったらやっぱりしみるかな? ばんそうこうしてれば平気かな?
すごい! すごい!
ビキニ! ビキニ! 買ってもらっちゃいました!
大人水着です! 大人水着! ビキニ! 学校のスクール水着とは全然違うおしゃれな奴! パレオ付きのビキニ!
でも、お姉さんの買った水着のほうがすごかった!
なんか黒くて、ほっそい! エッチなやつ! 大事なところ見えちゃいそうな大胆デザイン! 大人すごい! お姉さんすごい!
最近私が夜な夜なお姉さんと電話してるのがお母さんにバレました
いっしょに遊びに行くっていうのはバレなかったけど、お母さんの知らない人と仲良くなったらダメだって、おこられました。違います私が私をしかるんです
わるい子ノートでした。鏡の私に私がしかるんです
お母さんの知らない人と勝手にあっちゃだめだよって、私が私をしかるんです
鏡に映る私はだれですか? 私ですか?
私が、私に言うんです。ダメだって、わるい子だって。私が言うんです
私が聞くんです
なんで、私はここにいるんですか?
だれも教えてくれません
ただ、私が私に言った私は、私が、私で私のことが私でしかって、
いったい、どこにいる私が私なのか分からなくなってきます
前は大丈夫だったのに、こんなにつらいです
私は、私ですか?
私だよ、何時間も、何時間も、何時間も、ずっとずっとずっと、ずっと。私は私に言ったもんね。だから私が私で、私をしかるのも私の、私です
大丈夫、私は大丈夫
大丈夫、遅くならないうちに死ななくちゃね。大丈夫、覚えてるから、大丈夫
大丈夫です
私は私。大丈夫
でもおかしいです、自分でお昼ご飯を作って食べたのに、あんまり味がしませんでした。お母さんのごはんみたいです、おいしくなかった
大丈夫、私は、大丈夫。大丈夫です
頭ぼーっとします。この間久しぶりにわるい子ノートしたからかな
なんでだろ、前は大丈夫だったのに、今はなんだかダメです
小学校の時は、平気だったのに、なんでだろ?
お姉さんにあったからかな? お姉さんとお話すると楽しいです
小学校の時はそんなこと、楽しいことなんてなかったから、だからかな?
楽しいことをするのをだらくっていうんだそうです
だらくっていうのはわるいことなんだそうです
お姉さんといっしょで楽しいのはだらくだから悪いことなのかな?
でもそしたらきっと、私以外のみんなも、お母さんだってガチャで楽しんでだらくしてると思うんです
それともみんな、みんな、この世界にはわるい子しかいないのかな? みんなだらくしてるのかな? それならみんなみんな、死んじゃわないといけないね
明日はお姉さんと遊びに行きます! 朝早くに駅で待ち合わせをして、それからお姉さんに連れてってもらう約束です! どこに行くんだろう? 当日まで教えてくれないって、お姉さん全然話してくれないんです。でも楽しみ!
でも最近お顔にあんまり力が入らなくって、ちょっと心配です
私大丈夫かな? ちゃんと笑えるかな?
いってきます!
一日お姉さんと遊び通して楽しかった!
ちょっと遠くの大きいプールに行ってきたの!
ウォータースライダーとか、流れるプールとか、波のプールとか、でっかいプールとか! 大きいプールたくさんあってはしゃいじゃった!
たこ焼きとか焼きそばとか、お祭りとかじゃないのに合ってびっくりした! 屋台の焼きそば初めて食べたけど、おいしかった! お家の焼きそばと全然違う!
かき氷も初めて食べた! 甘くておいしい!
なんでお母さんはおいしいものを私に全然食べさせてくれないんだろう? 自分はいっつも食べてるくせに! ズルイ!
あと、お姉さんすごく泳ぐのうまかった。私は運動はあんまり得意じゃないから、うらやましいなって思ってみてたら、お姉さんが泳ぐ練習手伝ってくれた!
いっつも10メートルくらいしか泳げなかったけど、今日初めて25メートル泳げた! お姉さんすごい! 私泳げるようになった!
泳ぐの楽しい! 初めて!
流れるプールで浮き輪に乗ってプカプカ流れるのも楽しかった!
なんか中学生になったのに、遊びに行った感想が小さい子供みたいだね
でも仕方ないです、知らなかったんだもん
こんなふうに遊ぶのがこんなに楽しいって、私知らなかったんだもん! 初めて知ったんだもん!
でも、これをだらくっていうのかな? そしたらみんなはどうやって生きてるんだろう? 楽しいことしたらわるい子で、だから楽しいことはしちゃいけなくって、だったら、みんなどうして生きてるの?
楽しいこと、しちゃいけないって、つらくないのかな? 私は、私は、つらいって思う
楽しいこと今までは知らなかったから、分かんなかったけど、楽しくないとやっぱりつらいと思う
なんで楽しいって悪いことなんだろう?
そういえば、新聞部で夏休みが終わってすぐに夏休み号外を出すって話があったっけ。でも、体育祭の練習もあるし、特に変わったことも起きてないよ。先輩たちどうするのかな?
中々料理がうまくなったと思う少なくとも、失敗はあんまりしなくなった。毎日練習したかいがありました
もう一人でカレーが作れますよ!
そういえば、お家ではカレーってあんまり食べてないです
やっぱりお母さんが作れないからかな?
そろそろ夏が終わります
今年は楽しいことがありました
楽しいってすてきです
料理も出来るようになりました
包丁が使えるってすてきです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます