第102話 超人
――《セスロの鎌》の遊撃隊。
それは、
そして、本来であれば世界中に散らばっているはずの遊撃隊、その五つの二人組に総隊長であるブレイバスを加えた11名――これが、マルバハル共和国軍の本陣を襲撃したカルテルの別働隊の正体だった。
現在、〝戦魔〟とコンビを組んでいる〝剣鬼〟が、単独で〝肉弾戦車〟と〝全身暗器〟のコンビを討ち取った
「何なの、アレ?」
そう
血を
「アタシ、キーキーうるさい女って大っ嫌いなのよねぇ~。ホント――」
その場から
「――
振り抜かれた大振りの剃刀によってニーナの首が横一文字に切り裂かれ、鮮血が噴き出す――そんな光景を、その場に居合わせた誰もが幻視した。
しかし、現実はそれと大きく異なり、ほぼ同時に予備動作なく繰り出された二本のメイスが
男は、
「だ、だから言ったじゃないですかッ! 手加減できない、ってッ!!」
男のそんな
『…………』
その場に居合わせた誰もが予想しなかった光景に言葉を失い、別働隊と保安官達、その双方の間で何とも言い難い奇妙な空気が流れた。
――そんな中、
「
そんな事を口にしながら動きを見せたのは、耳と言わず顔と言わず全身のいたる所に
見せしめに血の海を作る〝血祭り〟とは別の方法――全身に
「え? 今、何て……って言うか、こっちに来ないでって言って――」
――ギャリィイィンッ!! と
「…………?」
それは、今の
自分の攻撃を、驚嘆に
体勢を
振るスピードが異常に速いため、受けたのが生身の手だったなら骨が砕けて使いものにならなくなっていただろうが、腕で振り回しているだけで腰が入っていないため、武器破壊が目的とも思えない。
考えられる可能性として最も高いのは、
(あの武器……おそらくは宝具の発動準備)
黄金の
(打撃によって目印を付け、
ならば、真名を
(何なんだ、こいつは……?)
気持ち悪そうに顔を
動体視力、認識速度、反応速度…………どれを取っても、明らかに常人のそれではない。
だが、動きは
そして、困惑を
「――――づァ!?」
バチッ、と全身を電撃が駆け抜けた。
実は、三手目の時も電気的なショックを受けたような気はしたのだが、微弱だったため、打撃による衝撃だと思い無視した。しかし、今回は間違いない。
〝掻き毟る〟は、
「――――ッ!」
小娘が片方のメイスを振り上げたのを――投擲するための動作を見た瞬間、即断して一転、最高速度でいっきに距離を詰め、この一撃で仕留めんと鉤手甲の爪を繰り出し、
――ガキィイィンッ!
難なく叩き落された瞬間、凄まじい衝撃が全身を駆け抜け…………〝掻き毟る〟の意識は、そこで
ドサッ、と倒れ、ピーンッ、と両手足を伸ばしたまま地に伏し、全身からプスプス
そんなニーナに、今度は、〝粉砕〟と〝割断〟の異名を
身に着けているのが、戦闘服ではなく私服だったなら、どこにでもいそうな中肉中背で特徴のない顔立ちの男達。
だが、彼らは、感覚的に霊力による身体強化を使いこなす
「ちょっ、ちょっとッ!? 来ないで、って言ってるのに何で来るんですかッ!?」
ニーナは、気弱な事を
だが、その
その様子を見て、
「何なの、あの
《トレイター保安官事務所》所長のレヴェッカは、服用した〔
ニーナは、別働隊の二人を相手に立ち回っている。
その戦いぶりは、戦闘訓練を受けた者の目から見ると、メチャクチャだった。
手と足の動きを合わせろ、とか、手だけで振り回すな、腰を入れろ、とか、
現に今も、広い間合いを持つ長柄武器は
それなのに、
目が良いのだろう。常人の目には止まらない速さで繰り出されるウォーハンマーやウォーアックスの攻撃がはっきりと見えているらしく、時に、間合いの外まで
バランス感覚と重心の安定感も非常に良く、どんな体勢からでも縦横無尽にメイスを繰り出し、攻撃を避けた際など、体勢が崩れたように見えてもスムーズに立て直す。
つまり、そんな
「……ニーナって、確か、五ヶ月くらい前まではただの学生だったんですよね? たぶん、殴り合いの
ニーナが戦闘のための訓練を受けていないのは明白。だが、その超人的な運動を可能とする高度な戦闘技術――捷勁法、その身体能力を強化する〝捷勁〟を一流の武人レベルで
それらを、たった五ヶ月で……
「ランスに育てられると、
唖然呆然と
「――ゆだんしすぎ」
そう指摘したのは、フィーリアの肩の上にいるキースで、
「
それに同意する声を発したのは、いったい
反射的に立ち上がり、
ティファニアは、左腕に装備している
そして、エルネストは、意識を失っている味方だけでなく、宝具人の双子も背に庇い、
「オイ、お前ら、――そいつと契約しろ」
顔や首、腕まくりして
「はぁ? ふざけんな。彼女達は俺が保護してるんだ。戦わせる訳――」
「――いいから使えよ。何の問題もねぇ。どうせ殺して回収するんだ」
そう言って、〝戦魔〟は、見る者の
「
それに対して、エルネストは、一緒にするな、と不快そうに吐き捨ててから、
「保安官の仕事は、犯人を殺す事じゃない。逮捕する事だ。武器を使うと、殺すより殺さずに無力化するほうが難しい。だから――」
「――さっさとやれ」
「あいつの命令は――」
『――
少女達は、両脇からそれぞれ、片手はエルネストの拳に触れ、もう一方はお互いの手をつなぎ、誓約の言葉を
「……聞くな、って言おうとしたんだよ、俺はっ!
反射的に目を
それを見てエルネストが
「
愉快そうに笑いながら言う〝戦魔〟。
そして、ヒュンッ、と
『…………ッ!』
そんな何気ない動作一つからでも高い戦闘力が
「――ゆだんしすぎ」
不意に響いたのは、フィーリアが立ち上がる際に横たわっているエリザベートのお腹の上へと移動していたキースの声で、
「全くその通りです、ねッ!!」
それに同意の声を上げたのは、2本の鎚矛を大きく振りかぶった状態で、誰もいなかったはずの空間に
「――ぐぉッ!?」
〝戦魔〟は、横薙ぎに繰り出された2本のメイスを
「ふぅ~っ、
ほっとしたように笑みを見せるニーナ。
「
レヴェッカが、戸惑いも
「キースの能力ですッ! キースは、自分が私の所に空間転位するか、私を自分の所へ空間転位させる事ができるんですっ!」
それが、今の姿へと【転生】した際に獲得した権能の一つ――【合流】。
ニーナが、メイスを振りかぶった状態で空間転位してきたのは、
「だから、常に一緒なんですっ! 例え躰は離れた所にあったとしてもっ!」
ニーナが、得意満面に説明し、エリザベートのお腹の上から自分の肩の上に移動してきた
「ニーナ。その
気を使って、そんな事より、という言葉は飲み込み、代わりに、ごほんっ、と一つ
それに対して、ニーナは、いいえ、と首を横に振ってから、
「〔
『――神器ッ!?』
レヴェッカ、ティファニア、フィーリア、エルネストは、
「ランス先輩が、護身用に、ってくれたんです。
そう言ってから、それに、と続けて、
「〔
それを聞いて、レヴェッカ達は思った。戦闘の素人に護身用として渡すようなもんじゃねぇだろ、と。
――それはさておき。
「あれ? エルネストさん、その
「――そんな事より」
不本意
「さっき、もうすぐ来てくれる、って言ってたけど、ランスは今どこで何してるんだ?」
スピアの飛行速度を考えれば、とうに到着しているはず。それなのに、今、この場にランスはいない――という事は、戻るに戻れない状況に
「――ここにいるのっ!」
それで、えッ!? と驚きの声を
そんなフラメアの頭の上には、レヴェッカ達に向かって
「――ランス先輩っ! どうしてこんなに時間が掛かってたんですかッ!?」
すると、それに反応したのは、
「――なんで私ッ!?」
これがその答えだと言わんばかりに、フラメアが、レヴェッカに向かって、片手で
突然の事に驚きの声を上げつつ、なけなしの霊力で身体強化したレヴェッカが
「え? これって…………まさか、ザルバ・アルスデーテ?」
地面に寝かせながらその顔を見たレヴェッカが、眉根を寄せつつそう
意識はなく、ぐったりとして動かないその様子は、国軍とカルテルの戦闘に巻き込まれた不幸で
だがしかし――
「……はい。間違いないと思います」
フィーリアが言う通り、
「ちょっ、ちょっと待ってッ! どうして、敵の総大将がここにいるのッ!?」
地面に直接寝かされている男性を前にして、ひどく混乱した様子でそう疑問を口にしたのはレヴェッカ。だが、ティファニア、フィーリア、クオレ、エルネスト、ニーナもまた同様の面持ちで、
――いったい何故、
事ここに
もし、それがなかったなら――キースからフラメアを
その場合、ランスは、そのまま
だが、キースから大佐が討ち取られたとの続報を受けたのは、穏便にピルムを奪還して避難所から出た所、つまり、クラジナ市内だったため、ランスは、把握していた状況を
そして、最前線で指揮を
結果、カルテル側は、ほんの数度
依頼人は保安官であり、可能な限り殺さずに逮捕する事を望んでいる。
「――詳細は
今は、それを長々と報告している場合ではない。
碧槍を手にしているランスは、そう告げるなり、集合してこちらの様子を
「――あっ」
レヴェッカは、
「…………」
〔万里眼鏡〕のプレートを下ろしているため、【全方位視野】の能力で見えてはいる。だが、あえて顔をそちらへ向けると、
「グルルルルル……」
別働隊を
紋章を介した【精神感応】でフラメアから聞いている。何でも、キースは、奴らと遭遇してからずっと、その横暴な振る舞いに腹を立てており、護ると約束した手前、後ろで守護に
それを知っているニーナは、おろおろハラハラ落ち着かない様子で先輩と
そして――
「ドラゴンを連れた槍使い……、貴様がランス・ゴッドスピードだな?」
肩に
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