第96話 強襲は咆吼と共に
――マルバハル共和国の首都リルルカ。
レムリディア大陸で最大級の港湾施設を
まるで、
そんな表側の発展に
それが、現在、マルバハル共和国での窃盗や密輸、違法な武器、人身、そして、麻薬の売買などなど、あらゆる犯罪の総元締め――『グラジナ・カルテル』。
そのリルルカにおける拠点は、表向き貿易会社という事になっている地上7階の建物で、――そこはまさに、難攻不落の要塞。
外壁は見た目以上の耐久力を
建物の中には、犯罪組織の隠れ
そして、周辺一帯にはそれ以上高い建物が存在せず、上から
更に、エレベーターホールと、細い通路の先のロビー――
そんなペントハウスの2階、メゾネット式の階段を上がった奥の部屋に身を置くのが、
それら全ての障害を排除して、最高幹部――『マデュエス・ホーマー』を逮捕するには、警察の特殊部隊か軍隊が必要だが、警察署長やリルルカの市長がそれを許可する事は、絶対にない。
それ
――いや、できなかった。
〝平和な日々は
今日も今日とて、ここのボスの側近達は、豪華な調度品が取り
「…………そろそろ
超一流の殺し屋として知られる『モンド兄弟』の兄――『ジャン』は、そんな連中を横目に
中肉中背の彼が
「……とは言っても、まだ契約期間
少々
「…………」
少々草臥れてはいるものの、白シャツ、しっかりとした仕立てのベスト、スラックス、薄手のロングコート、軍用の
そして――
強過ぎる効果を弱めるための混ぜ物を減らした特別製の
凄腕の殺し屋兄弟の兄が、お前も
――パリィイィン、とクリスタルガラスが砕け散ったような音を、耳で聞くのではなく全身で感じ、
「グォオォオオオオオオオオオオォ――――~ッッッ!!!!」
その直後、特大の
「…………おいおい、なんだなんだ? この世の終わりでもやってきたってのか?」
ジャンは、
その隣では、ほぼ
一応、天国のお花畑から戻ってきたらしい側近達と女共は、きょとんとした表情でトロトログダグダしているものの、
そして、
すると、そこには、空中に
「……ったく、
出していた顔を
「…………」
《セスロの鎌》の分隊長は、顔を半分出したまま様子を窺いつつ、手振りで部下に待機を指示した。
その両名は、ドラゴンを目の当たりにした事による
「――《トレイター保安官事務所》よッ!! 違法な武器、麻薬等所持の現行犯、並びに殺人その他諸々の容疑で逮捕しますッ!!」
そして、二人の
それに対する反応は――
「――
エレベーターホールから駆け付けた者を
(……
その様子を横目に、またテラスのほうを
今、裏の世界で、ドラゴンを見て
だが、そこにそれらしき人物の姿はない――という事は、別の場所にいるという事で……
「…………まさかッ!?」
直感に
それは、確かに閉まっていたはず。だが、今は半開きの状態で――
「――兄貴ッ!!」
「…………ッ!?」
こちらが外に気を取られている
突然
「――――ッ!」
――見付けた。
前後にずれた横並びで自動小銃を撃ちまくる《セスロの鎌》の隊員達の背後で、鉄兜の
そして、次の瞬間――それは、まさに一瞬の出来事。
殺し屋兄弟の目には、まず左から右へ、次に右から左へ、槍使いが神速で
だがしかし――
――〝
実際は、横一列に並んだ点が線に見えるほど、連続する刺突が横薙ぎの斬撃に見えるほどの高速で繰り出された多連突き。
それ故に、ドッ、ドッ、と
初手の〝断突〟で、8名全員の
鳴り響いていた銃声が唐突に
隊員達は、ランスの存在にも、攻撃を受けたという事実にも気付く事なく倒れ伏し――
「貴方達は〝敵〟ですか?」
容赦のなさと残虐さで知られたカルテルの戦闘部隊《セスロの鎌》、その命を無情に
「…………違う。俺達は、敵じゃない」
敵意や殺気の
殺し屋モンド兄弟は、武器を捨てて降伏した。
リルルカに限らず、たいていの空港を有する都市では、着陸・離陸するための
それは、貴族や大商人が個人で所有するものは当然、保安官事務所や
しかし、申請したルート上にカルテル関連の建物がある場合は、それがどのような理由であっても、許可が下りる事はない。
そして、
それ故に、例え【飛行】や【浮遊】が使えても、屋上からの侵入は不可能だと誰もが考える。
だからこそ、ランスは屋上から突入する作戦を考えた。
飛行機械が規定のルートから外れる事、市街地上空を航行する事は原則として禁止されている。――だが、ドラゴンの行動を制限する法律は存在しない。
ランスは、
そして、〔
ゆっくりと垂直に降下する天竜。その背から、まずスピアが飛び降り、ランスとピルムが続く。
先行したスピアが、以前ごしゅじんにもらって食べた白い槍――ありとあらゆる防御や結界を貫き決して癒えない傷を刻む〔
その直後、フラメアの咆吼に
〔
最優順位の1位と2位の身柄を確保したランスは、天井の
そして、モンド兄弟が武器を捨てて降伏すると、ランスは、監視をスピアに任せてエレベーターホールへ移動し、外扉を開け、人が乗る箱状の構造物――通称『
「……もう『
物音がしなくなったペントハウスの様子から制圧が完了した事を察し、味方ながら恐ろしいと頬を引きつらせるレヴェッカ。
戦闘員達が撃ちまくっていた自動小銃の弾は、レヴェッカ達が、フラメアの特殊能力――【界の殻】の内側にいたため、その固有領域に接触した瞬間、運動エネルギーを奪われて落下した。
なので、テラスの床に散乱しているライフル弾の弾頭は、潰れる事なく綺麗なまま。
レヴェッカ達は、それを
すると、そこにあったのは、あの大森海の夜の再現。スピアの【念動力】で、見えない巨人の手で
それは、腕っ節だけで今の地位まで上り詰め、死ねと言われれば
「スピアちゃん、ランス君は?」
通路の前、エレベーターホールのほうを向いてちょこんとお座りしているスピアを見付けたのでそう
「くる もうすぐ」
返ってきたのはそんな答えで――チーンッ、と響き渡るベルの音。
それは、エレベーターが間もなく到着する事を
一同は、反射的に音が聞こえてきたほう、通路の先へ目を向けて…………外扉が開けっ放しだったため、籠が昇降路を上がってきたのが、そこにランスだけが乗っているのが見えた。
「驚かすなよ」
そうぼやいたのは、
「
もう感心を通り越して呆れたように言ったのは、ランスの意図を理解したレヴェッカ。
それを聞いて、流石って何が? と
「エレベーターがこの階で止まっている限り、誰も上がってこられないから」
フィーリアの言う通り、この建物にある3機のエレベーターは、管制室のような場所で操作しているのではなく、籠に乗った専属の運転手がレバーを
そして、この屋上まで
以上の理由で、籠が屋上で止まっている限り、誰もここまで上がって来られない。
だからこそ、ランスは、屋上から昇降路内を落下し、【落下速度制御】でいっきに減速。1階で止まっていた籠の上に音もなく着地すると、天井にある点検用のハッチから滑り込むように籠の中へ。好都合な事に、運転手は外で何が起こっているか気になったらしくエレベーターホールに出ていたので、内扉――通称『籠戸』を閉めるなりレバーを上げ、籠を上昇させて屋上へ戻った。
一応、建物の外壁を
ティファニアは、フィーリアの説明を聞いて、そういう事かと納得した。
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