第36話 槍使いの竜飼師
(……………………? ――ぅぐっ!? な…にが……~ッ!?)
目の奥がチカチカして何も見えず、耳鳴りが酷くて何も聞こえない。鼻の奥がツーンとしてにおいが分からず、舌先が痺れている。頭痛と吐き気がひどい。三半規管がやられているのか、自分が今、立っているのか横たわっているのかすら分からない。
そんな有り様故に、状況を把握しようとしても儘ならず、反射的に自己診断を開始したものの五感が正常に機能していない上、集中力が著しく低下しているせいで体内霊力制御の精度が低過ぎて捷勁法が使えない。
だが、自分が呼吸しているという事に気付いたランスは、捷勁法の基礎の呼吸を開始した。
体内を循環する霊力は、同じく循環する血の流れの影響を受ける。そこで、普段通りの事ができないなら、直接的に霊力を制御する事が困難なら、強引に御そうとするのではなく、呼吸法によって心肺を、血流を制御する事で間接的に霊力の循環を正常化しようと試みる。
それが功を奏した。
30秒ほどそれを続け、体内霊力制御が可能になれば問題は解決したも同然。捷勁法の一つ、自己治癒力を高める〝
この段に至ってようやく、ランスは、自分が槍を手放していない事、片膝立ちで転倒していない事、目が見えないのはプレートを下ろしたままの〔
ランスは、改めて〔万里眼鏡〕と同調し、通常の【全方位視野】を発動させる。
すると、傍らには虎ほどの大きさに形態変化した
正面には、虎ほどの大きさになった
そして、牙を剥いて唸る幼竜達の視線の先には――床に
自分は意識を失う前の場所から移動していない。一方のソフィアは、負傷している様子はないものの、5メートル以上移動している。それらから推測するに、異変を察知したスピアが咄嗟に風を操り突風で吹き飛ばした、といった所か。
「スピア、パイク」
『ごしゅじんっ!?』
口と喉の震えを抑え込み、なんとか普段通りの声を出して呼びかけると、唸るのをやめて振り向くスピアとパイク。そして、ソフィアが恐る恐るといった感じで顔を上げ……
「俺は大丈夫。時期回復する」
だから、心配は無用だと伝えると、それを聞いた頬を涙で濡らすソフィアが、信じられないものを見たような顔をこちらに向けてきた。
ちょうどその時――
『――――っ!』
スピアとパイクが揃って同じ方向へ首を巡らし――ズガァアァンッ!! と豪快に壁を突き破って巨大な四本腕の熊のような何かが突っ込んできた。
2対ある腕の内、1対はロボットのようなアームで、目許にはゴーグル埋め込まれ、口には酸素吸入器のようなものが装着されており、黒っぽい灰色の毛皮のいたる所に金属部品が見え隠れしている。
元から四本腕だったのか、後から2本付け足されたのかは知らないが、おそらく、先程の人型の3体同様、熊が機械化されたものだろう。
それは、どうやら自分の意思で壁を突き破った訳ではないようで、床に叩き付けられて、ゴッ、ガッ、と数度バウンドし、天井を支える柱の1本に激突して止まり、そのまま動かなくなった。
そして、その巨体が開けた孔から姿を現したのは、無傷のクオレで――
「――ソフィッ!?」
床でうずくまっている少女の姿を目にするなり、一足飛びに駆け寄った。
「いったい何が……ッ!? それに……スピアとパイク、なのか……?」
あれが本来の大きさではないと知らなかったクオレは、虎サイズの幼竜達を警戒しつつソフィアに寄り添い、
「説明してくれ。これはいったいどういう状況だ?」
片膝をついて俯いたまま動かないランスに問う。
それに対してランスは、
「ソフィアから精神攻撃を受けました」
確信を込めて推測を述べた。
証拠はないが、他に考えられない。この突然の体調不良は、ソフィアからの精神攻撃に対して、軍幼年学校時代に数年がかりで無意識下に刷り込まれた対精神干渉系術式【
エゼアルシルト軍上層部は、自分達が作り上げた兵器の矛先が自分達に向けられるのを何よりも恐れ、忌み嫌っている。それ故に、対策として施されるのが、徹底した教育とこれ。
そういう自覚はないのだが、師匠の話だと、自分は感情の起伏が乏しいらしく、それは、これを施術された事による副作用らしい。
――それはさておき。
【
それは、精神干渉系の術や異能は、干渉を受けている事に気付けさえすれば意識的に抵抗し、影響下から脱する事ができるからだ。
もちろんそのための訓練は必要で、指導教官の術や任務中に遭遇した敵が召喚した
おそらく、禁忌として抹消されたはずの精神干渉系法呪【
「精神攻……まさかッ!? ――ソフィッ!」
どうやら、思い当たる節があるようだ。クオレの様子を観察していたランスは、自分の推測が的と射ているという確信を深めた。
「だって……だって……~ッ! クオレを……助けにいってほしくて……~ッ!」
そんなソフィアの涙ながらの言い訳に、憤怒、悲愴、悔恨……様々な感情がクオレの表情を過ぎり…………最終的に、瞼を硬く閉ざして眉間に深いしわを寄せ、歯を食い縛って何かを堪えるように天を仰いだ。
「……グルルゥ……」
不吉な唸り声がなんともいえない沈黙を破り、再起動した四本腕の機械化熊が身を起こす。迂闊にもまだ止めを刺していなかったようだ。
何かを迷っているらしいクオレは、そんな機械化熊とこの状況でも
「…………、――すまないッ!!」
まるで、血を吐くようにその一言を告げると、ソフィアを抱き抱えて一目散にその場から離脱した。
ランスは呼び止めようとしたが、まだ遠く離れてしまった彼女達に届くほどの声を出せるまで回復していなかったため開いた口を噤み、スピアとパイクは、揃って何となくその背を目で追ってから、視線を機械化された四本腕の熊へ移し――
「グォオオオ――ガッ!?」
酸素吸入器のような機械が装着されている口を開いて咆哮しようとした――その時、ドシュッ!! と床のタイルを割って一斉に飛び出した無数の水晶の槍が機械化熊を串刺しにした。冷静に〝敵〟を観察しているパイクの仕業だ。
巨大な剣山のような水晶の槍の群れで全身を
爆発に備えていたスピアが警戒を解き、水晶の槍が現れた時と同様の唐突さで一斉に引っ込む。瞬く間に焼けて形を失っていく機械化熊の残骸が硬い音を立てて落下し、程なくして床に焼け跡だけを残し完全に焼失した。
「だいじょぶ? ごしゅじん?」
「ごしゅじ~ん?」
ランスは回復に専念し、そうと知っているからそれを邪魔しないよう小さくなって否応なく他を威圧してしまう
そして、3分が経過しようかという頃、
「ふぅ~――…」
ランスが、すっ、と立ち上がった。
まだ違和感が拭い去れず完全とは言えないが、しっかり立てて【空識覚】を維持できれば十分戦える。
今回は一切負傷していないというのに、五感能力が等しく不調という初めての事態に手探りで対処したため、最低限戦闘が可能な状態まで復帰させるのに思ったよりも時間がかかってしまった。しかし、次があればもっと巧くできるだろう。
「ごしゅじんっ!」
「ごしゅじ~んっ」
立ち上がったランスだったが、もう一度片膝をつき、尻尾をフリフリしながら見上げてきていた幼竜達の頭を撫でた。それから立ち上がり、
「――行こう」
クオレとソフィアの後を追う――つもりが、
「きゅうっ」
「がおっ」
両脚にしがみ付かれて転倒――しそうになったものの、咄嗟に銀槍を突いて支えにし、何とかそれだけは
不調に加えて思わぬ不意打ちに珍しく内心ドキドキしつつ、左右の足にそれぞれしがみ付いているスピアとパイクに何をしているのか訊く。すると、
「きゅうきゅうっ」
「がおがおっ」
揃って首を横に振る幼竜達。二人を追うのに反対らしい。
理由は分かっている。心配してくれているのだ。それ故に、ソフィアに近付けたくない。加えて、攻撃を受けて膝を屈した姿を初めて目の当たりにして、少なくないショックを受けたようでもある。
ありがたいと思うし、申し訳ないとも思う。だが――
「依頼とは達成すべきものだ。例え失敗する事があったとしても、途中で放棄するなどありえない」
ランスは断固として告げる。
すると、そんなごしゅじんに対し、スピアとパイクは顔を見合わせて、はぁ~~っ、とため息をついた。
その、仕方ないなぁ、と言わんばかりの仕草に思わず苦笑するランス。そして、
「――行こう」
「きゅいきゅいっ」
「がうがうっ」
やはり、
言い換えると、二人はまだ幼竜達の知覚範囲の外へ出ていなかった。
その場所は思いの
既に多くの警察車輌が到着していて、通りを挟んで隣接する建物の屋上には
右手で銀槍を携え、左手でパイクを抱っこし、右肩に乗っているスピアの【光子操作】で透明化しているランス達は、指揮車輌を見付けて接近し、【感覚共有】で竜族の聴覚を借りて中で行なわれている会話を盗聴する。
それによると、誘拐犯による立て篭もり事件発生の報を受けて緊急出動した現場の警官達は、詳しい事情を聞かされていないようだ。現状を維持したまま待機するよう上に厳命され、無線で突入する許可を求めた指揮官が不服を申し立てている。
話は飛ぶが、スピアとパイクは、あの強襲輸送列車の接近を感知していた。だが、そもそも列車を知らなかった幼竜達は、通常と異常の区別がつかなかったため、それを危険なものだとは認識できなかった。あの機械化された人や獣も同様。戦闘に及ぶまで敵意や殺意といったものが感じられなかったため、知覚範囲内に存在していても気に留めなかった。
だが、
スピアとパイクは、人と物が溢れるこの街中で、知覚範囲内に存在する全ての機械化された人間を炙り出した。
その大半が既に百貨店の中。早々に全ての出入口を封鎖した上、手分けして捜索している。既に二人は袋の鼠だ。
そして、外にも数名が配置されている。監視を兼ねる報告要員だろう。目視で確認したところ、外観は人にしか見えず、どれもこれといった特徴のない無表情の男で、封鎖の外の野次馬の中に紛れ込んでいる。
判明している敵性存在は以上。
今回も、
その理由は、あのソフィアの能力にありそうだ。
――何はともあれ。
(――兵は拙速を尊ぶ)
確認すべき事を確認したランスは、透明化しているため何者にも気付かれる事なく、その百貨店を包囲している警官隊を尻目に地下駐車場の入口から戦場へ突入した。
地下2階駐車場のエレベーターホール前に、機械化人間が2体。一方のAはエレベーターの動きを見張っていて、もう一方のBは地上へ続く出入口のほうを見張っている。
身長はどちらも180センチ前後。筋骨隆々とした体格は男性のもので、肌の露出は皆無。フルフェイス型のヘルメットにグローブ、ブーツ、レーシングスーツのようなツナギの上に、要所を金属で補強された戦闘用コートを身に纏っている。手に武器を持ってはいないが、機械化された肉体そのものが武器であり、何が飛び出してくるか分からない――が、
――ドドドヅッ
そもそも、ランスには敵に攻撃する
地下2階駐車場に響いたのは、間髪入れない3度の打突音。
まず、敵Bが、正面からの襲撃だったにもかかわらず、〝
次に、敵Aの右腕が二の腕を打ち貫かれて千切れ飛び、最後に、振り返る間もなく敵Aの延髄と心臓がほぼ同時に貫かれた。
およそ1秒の間にそれだけの事をやってのけたランスは、所有している四つの内の一つ、使用していない〔
何故そんな事をしたのか?
理由は主に二つ。
一つは、敵が隠滅したい証拠なら、何か使い道があるかもしれない。故に確保しておく。
使えそうなものはとりあえず確保しておこうとする――それは生存術に習熟した者の
もう一つは、警察とはどこの国でも物証をほしがるものだから。
今回も、前回も、投入されている人員が全て機械化されている理由がソフィアの能力にあるのなら、依頼を達成するためには機械化された四肢を有するクオレが必要不可欠である可能性が出てきた。
現在この建物は警察に包囲されており、クオレが誘拐犯という事になっている。
もし彼女が逮捕されてしまった場合、その疑いを晴らし、釈放してもらわなければならない。そのためには、当人と被害者とされているソフィアのものだけでは足りず、例えLv・Ⅶのスパルトイのものであっても、やはり証言だけでは弱い。大協約に基づく竜族の証言は何ものにも勝るのだが、とある事情からスピアとパイクは例外とされてしまう可能性がある。故に、備えておいて損はないだろう。
――シュボッ
崩れ落ちた敵Aの躰だけでなく、千切れ飛んだ肘から先までもが少し離れた場所で燃え上がった。一部でも証拠として残せないかと試してみたのだが……。
確保しても、取り出して程なくすると焼失してしまい死骸から何の情報も得られない。だとしても、こういったものが存在していたという事実を示す事はできる。少なくとも、床の焼け跡だけよりはいくらかましだろう。
もっとも、敵が軍や警察の上とつながっている可能性が高いため、現状では使わない可能性のほうが高い。
――何はともあれ。
「スピア、パイク」
ランスが呼びかけると、幼竜達が、テッテッテッテッ、と駆け寄ってきて、
「体調が万全とは言えない。加減するほうが辛いから、楽に上げるほうで行く」
そう告げて、大丈夫だよな? と確認すると、
「きゅ――~っ!」
「がぅ――~っ!」
その元気な返事に頷き、
「――兵は神速を貴ぶ」
無意識に浮かんでいた微笑みが消えるとほぼ同時に、1歩目を踏み出した
ランスがエゼアルシルト軍幼年学校時代に受けた『特化修練』とは、『膂力』『速力』『練法』――この三つのいずれかに特化させる特殊な訓練法の事。
対象となるのは、そのいずれかに突出した才能を持つ者、または何の才能も見出せない者。前者はその優れた部分を更に伸ばし、後者は一つに集中させる事で最低限使えるようにする。
ちなみに『技術』がない理由は二つ。
一つは、膂力を生かすにも、速力を制するにも、練法を操るにも、そのための技術が必要不可欠だから。
もう一つは、育てるのは武術の『達人』ではなく『軍人』だから。戦はいつ起こるか分からない。求めているのはあくまで即戦力。期限は成人と認められる一五になる年、軍幼年学校を卒業するまで。故に、技を広く深く学び研鑽を積む時間などない。
後者寄りのランスが、その特異なリズム感を生かすために選択されたのは『速力特化』。突く速さ、引き戻す速さ、薙ぐ速さ、振り下ろす速さ、反応の速さ、先読みの速さ、思考の速さ、体捌きの速さ、足捌きの速さ、移動の速さ……ありとあらゆる〝速さ〟をただひたすらに追求する一方で、その速度を制御する技術をも会得するための訓練を受けた。
エゼアルシルト軍には何の役にも立たない穀潰しの居場所など存在しない。壊れたなら、潰れたなら、死んだのなら、次を育てれば良い。代わりは幾らでもいる。
そんな考えを良しとしない師匠には大切にしてもらったが、軍が求める水準は常に厳しく、ランスは師匠の期待に応えたい一心で修行と任務に明け暮れ、身を粉にし、魂を磨り減らした。
そして、ランスは過酷な修行を耐え抜き、生き抜いて一五歳になり、少しばかり特別な兵士になった。
要するに、――速力の特化修練を受けたランスと余人とでは、棲んでいる速度域が違うのだ。
――ドドドドヅッ、ドヅッ、ドドヅッ
主観ではほぼ静止している世界で、自分だけが、捷勁法の移動術として知られている〝
〝あらゆる武器の中で刺突は槍のものこそ至高。――故に突け〟
師の言葉に遵って、突く。ただ突く。ただただ突く。ただただひたすらに突いて突いて突きまくる。
――ドドドドドヅッ、ドドドヅッ、ドヅッ
愚直なまでに毎日毎日、何千回、何万回と素振りを繰り返す内に自然と無駄は削ぎ落とされ、予備動作がなくなり、技は躰に刻み込まれ、ついには神速の域へ至り、最早〝突こう〟という意識すら必要としない。己の間合いに敵を捉えた瞬間、その二箇所以上の急所に大口径狙撃銃で撃たれたような風穴が開く。
――ドドドヅッ、ドドドヅッ、ドドヅッ
大型百貨店内を視認不可能な速度で駆け巡り、幼竜達との【感覚共有】と【空識覚】で敵を先に見付け、発見される前に不意を衝き、槍の
だが、この〝閃捷〟ばかりを多用する戦い方は、本来、慎むべき行為。
何故なら、どれだけ速かろうとも、ただ速いだけならその速さに慣れ、動きの先を読んでタイミングを合わせるのは難しい事ではない。つまり、速度が速度だけに痛烈なカウンターをもらう危険を高めてしまうのだ。
〝閃捷〟と〝捷影〟――光が強まれば影が濃くなるように、変幻自在にして闇夜の影のように存在感を消し音も気配なく他者の意識の裏側をすり抜ける〝捷影〟と併用してこそ真価を発揮する。
今回はあくまで、先にスピアとパイクに伝えた通り、ソフィアの精神攻撃の影響で体調が思わしくないが故の事。常態であればまずしない。
それと、蛇足になるかもしれないが、まずその場の敵を一掃した後、まだ発火していないものは〔収納品目録〕に回収した。
機能停止した機械化人間が発火しても天井のスプリンクラーが作動しないのは、煙が少なく数秒で燃え尽きて消えてしまうからか、水はまずいと敵によって止められているのか、それとも店の不備か……
――それはさておき。
女性用の衣類や装身具を扱う店舗が集められていた広いフロアは、クオレ達の戦闘によってほぼ半壊しており、床には点々と機械化人間が存在していた事を示す残滓が黒い焼け跡として刻まれている。
他の全ての敵を始末してランスがこの階へ辿り着いたその時、ソフィアを背に庇っているクオレは、残り3体の敵によってフロアの隅に追い詰められていて――
――ドドドヅッ
響いた打突音は3度。開いた孔は六つ。
二人の前に立ち塞がり、バチバチ音を立てて雷電を纏う両義腕をクオレ達に向かって突き出していた3体の機械化人間は、背後から忍び寄った
――コツッ
突然の事に愕然としていたクオレとソフィアは、ランスが右手で携えている銀槍を立てて床に石突をついた音で、はっ、と我に返り、それでようやく炎の向こう側で佇んでいるランスの存在に気が付いて、
「貴女が護り、俺が戦う。今更ですが、やはりこれが正しい役割分担だと思います」
一つ頷いてから紡がれたそんな言葉に唖然とした。
「他の敵は全て排除しました。警察が突入してくる前にこの場を離れましょう」
「す、全て?」
「はい」
少なくとも、外傷は一切ないランスに対して、クオレは少なくないダメージを負っている。機械化された両手足の表面には細かな無数の傷が見受けられ、打撃をもらったのか口許に血が垂れた跡がある。
クオレは信じられないと言わんばかりの面持ちで泰然と佇むランスを見詰めるが、その気持ちはランスも同様だった。
クオレは、ソフィアを保護しつつ多対一の状況下であれらと正面からやりあったようなのだが、それでソフィアを護り抜いた上、これだけの敵を倒し、この程度の負傷で済んでいる。流石と言わざるを得ない。
「……君は……いったい…何者なんだ……?」
思わず口を衝いて出たといった様子のクオレの問いに、ランスは首を傾げた。
スパルトイだという事は知っているはず。ならば、返すべき答えは――
「
堂々としたその回答に、クオレとソフィアは、ぽか~ん、とし、
「ごしゅじんっ」
「ごしゅじ~ん」
追いついてきて、ランスの肩に舞い降りた
そんなパートナー達の姿を見て、ランスは、いえ、と前言を撤回した。
そして、告げる。
過酷な修行を耐え抜き、生き抜いて一五歳になり、少しばかり特別な兵士になった。それからたいして時は流れていないが、紆余曲折を経て、今は――
「――槍使いの
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