鬼姫の選択

『と、いう訳で、私はランについて来る事になったのですわ』

「え、ちょ、ちょっと待って」


話の締めに入るとフィアは抗議する様に口を開く。いえ、実際に抗議しているのでしょうね。

私も馬鹿ではありませんから、彼女が何を言いたいかぐらいは解っていますわ。

解っていてわざとその部分を飛ばして話したのですから。


「今、肝心な所を物凄く飛ばしたよね」

『あら、そう感じました? 私にとって一族皆殺しは肝心な部分だったのですけど』

「あ、そ、その、ごめんなさい。その辺りの話を要らないと言うつもりは・・・」

『なんて、冗談ですわよ。解ってますわ』


私の言葉を聞いて素直に申し訳なさそうに謝るフィア。

その様子を見ているとこちらが申し訳なくなってきますわね。

思わずすぐに自分の言葉を撤回してしまいましたわ。


「・・・ヒナミさん、最近ちょっと意地悪ですよね」

『あら、私は割と最初からこんな調子だったと思いますわよ?』


私の答えに小さく「そうかなぁ」と呟くフィアが少し可愛くて苦笑を漏らしてしまう。

ただ声に出さない笑い声は彼女に届くはずもなく、私の悪戯心はある程度は隠されているはず。

フィアの腕に宿る様になってからずっと彼女を見ているせいか、まるで娘の面倒を見ているような気分にになっている。


いや、年齢だけを見れば孫の年齢になりますわね。

だから余計に可愛くて、半ば無意識に揶揄ってしまうのでしょう。

私にはきっと彼女の様な可愛い子供は望めないでしょうからね。

いつ封印から解放されるか解りませんし、解放されたとしてもあの異形では・・・。


『ちゃんと解っていますわ。私が当時と喋り方が違う理由ですわよね?』

「・・・違います。ヒナミさん、解っててやってるよね」

『あら、違いましたの?』

「はぁ、言いたくないって事なの? 嫌なら無理に聞かないのに」


フィアは溜め息を吐いて諦めた様に言い、少し拗ねた様子を見せる。

少し揶揄い過ぎたようですわね。ここは素直に謝っておきましょうかしら

拗ねた彼女も可愛いですけど、余り怒らせて関係を悪化させたくは有りませんからね。


『あはは、ごめんなさい、大した理由では無いですわよ。ただその後にあのつまらない封印の洞窟に戻るか、それともついて来るかと、そう問われただけですわ。私は私自身の意思でランの中に留まっていましたの』

「そう、なんだ。ならヒナミさんはランさんに助けて貰ったんだね・・・」

『・・・ええ、そうね。そうなりますわね』


フィアの言葉を肯定し、その時の事を思い出す。

彼女に問われたあの言葉を。





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「お前はこれからどうする。目的は果たしただろ」

「あら、私の魂は貴女への報酬なんでしょ?」


泣き止んで落ち着いた私に問いかける彼女に問い返す。

私は元々そのつもりで契約したのだし、反故にする気は無い。

反故にするには彼女に恩が有り過ぎる。それにもう、自分を大事にする理由も、無い。


だが彼女は私の問いにすぐに答えずポケットから煙草を取り出し、火をつけて煙を吐いた。

そしてぼーっとした様子で燃えた城を眺め、もう一度タバコを吸って煙を吐きがなら口を開く。


「報酬は別の所からたんまりと頂いた。お前が暴れてくれたおかげで手持ちも困らねぇ」


別の所というと、私以外の魂という事だろうか。

私が暴れた事で手に入ったという事は、城に居た兵士や貴族達の魂か。

なるほど、彼女にとって魂の質はどうでも良く、数があれば構わないのだろう。


「あら酷い。私が暴れる事で死人が出る事も織り込み済みだったんだ」

「お前がどう動くか細かい事までは流石に予測できねぇさ。ただ結果としてそうなった。ただそれだけの話だ。私は神様でも何でもねえし、未来の予測なんか出来ねぇよ」

「悪魔さんが言う言葉では無いわね」

「はっ、私はただの人間さ。人間だからどんな手だって使うだけだ。感情のままに殺すだけだ」


彼女は吐き捨てる様に言うと、また煙を吸ってゆっくりと吐きだす。

まるでそれで心を落ち着けているかのように見える。

彼女の城を見つめる目がどこか悲しげに見えるのは気のせいなのだろうか。


「で、どうすんだよ、お前」

「そうね、もう私には何も無いし、もし私の魂が要らないなら殺してくれると嬉しいわ」

「・・・そうか」


私の答えに彼女は眉すら動かさず、城の方を眺めながら煙を吐いて返事をする。

まるで私がどう返事を返すか解っていたかの様な態度に、やはり彼女は悪魔だと思った。

彼女には全て解っていたのだろう。

私が何を選択し、何を悲しみ、どんな結末を望むのか。

でなければこんなにも都合の良い結末は望めなかった。


「そうだ、一つ聞きたい事があるの。良いかしら」

「なんだ」

「魂を集めているなら、私の里から一族の魂も貴女の下に集められないかしら?」


それはふと思いついてしまった願いだったのだろう。

私を別の器に詰め込める彼女なら、またあの人と会わせてくれるのではないかと。

だが私の望みとは裏腹に、彼女は表情を変えずに静かに首を振ってから口を開いた。


「お前の一族の魂は全て変質してお前の体に宿っている。お前の魂に宿っている。お前が会いたい男には、どう足掻いても会えない」

「――――っ、そう。そっか、答えてくれてありがとう」


きっと彼女はこの質問が来る事を解っていたのだろう。

解っていてあえて訊ねているんだ。なんて酷い人だろうか。

そして、なんて優しい人なのだろうか。余りにも悪魔だ。余りに彼女に助けを求めたくなる。

だが私はその答えに首を振り、最初の言葉をもう一度口にする。


「じゃあ、お願い。私を殺して。それで全ては片が付く」


私がそう言うと、彼女はやっと視線を私に向ける。

そして煙草を咥えたまま単装銃を取り出し、私に銃口を向けた。

それで私が死ねるのかは甚だ疑問だが、彼女のやる事を素直に見守る。


「・・・しまった。弾切れなの忘れてた」

「・・・は?」

「この街で弾薬補充は出来ねえだろうし戦力が居る。他の国に行くからその間私を守れ。別にやりたくないなら構わねぇぞ。その代わりその場合は洞窟に逆戻りだが」


だが彼女は銃の弾倉を開き、弾が入っていない事を見せつける。

そして、訊ねたのだ。私について来るかと。私が望む言葉を。

だからきっと私の認識は間違っていない。

彼女は悪魔だ。人が望む物を与え、報酬を得ようとする最悪な悪魔だ。


つまり最初から、彼女は私を生かしておくつもりだったのだろう。

それでも尚私に選択をさせ、私自身の意思で生きようとさせているのだ。


「っ、貴女は、本当に酷い悪魔だわ」

「かもな」

「そんなの、洞窟に戻りたくない私に断れるわけないじゃない」

「そうだな」


ああ本当に酷い悪魔。何でそんなに優しい目で私を見るの。

まるで私に生きて欲しいと訴えるような眼だ。そんな目で私を見ないで欲しい。

私は確かに最後こそ誇りを取り戻せたけど、人殺しの化け物だという事は変わらないのに。


「生きて、いて、いいの、かしら」

「さあな。そんな事は私の知ったこっちゃねえさ」

「あはは、そう、よね。あははっ、本当に貴女は狡いわ」

「良く言われる」


折角泣き止んだのにまた泣きそうになる。彼女はそんな私の言葉に返事しか返さない。

じっと見つめ、私自身の答えだけを待っている。

私は涙を拭って彼女の顔をしっかりと見据え、はっきりと自分の意思を口にした。


「いいわ、私が貴女を守ってあげる」

「そうか。じゃあ頼む」

「あっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


私の答えを聞いた彼女は煙草をふかしながら興味がなさそうに移動を始めた。

焦りながらついて行くと、隣にいる白猫にもよろしく頼むと挨拶をされる。

少し戸惑いながらもそれに応え、それから彼女との旅が始まった。








結局最初から最後まで、私は彼女の掌の上だったのだろう。

それでも私は救われたのだ。救われてしまったのだ。

ただただ化け物として暴れ、化け物として屠られるはずだった。

そんな私が鬼の一族の最後の生き残りとして、比口妃波として生きて行ける。


感謝してますわよ、ラン。だからこそ、私は最後まで貴女を見届けますわ。

貴女の最後が、どうか貴女の望む物である事を祈っています。

その為にもフィアは私が必ず守って見せますわよ。

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不死者の人形劇 四つ目 @yotume

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