仇討ちの果てに

燃える城を遠く離れた人気のない丘から眺め、全てが終わる瞬間を見つめる。

城壁が崩れ、兵の死体が山の様につまれ、城はあのままなら全焼だろう。

広場で見せしめの様に身なりの良い人間が処刑されている。いや、まさしく見せしめだろう。


その中には、私が差し出した男の姿もある。

私は男に思いつく限りの責め苦を与えていた。ギリギリまで死なない様に気を付けて。

その結果玉座の間に兵達が雪崩れ込んで来たので、ボロ雑巾の様になった男を差し出した。

彼等にも私と同じ想いが有るだろうと想い至ったからだ。


まさか化け物に差し出されると思っていなかったのか、彼らは私の行動に面食らっていた。

戸惑っているその間にその場から全力で離れ、成り行きをここから見守っている。


男は生きているのが不思議な程の負傷に応急処置をされて、今は処刑場に吊るされていた。

放っておけばそう時間もかからず死ぬだろうが、あえて処刑をして見せしめにする様だ。

そして今、内臓を避ける様に、男にいくつもの槍が付きたてられる。

人の事は言えないが彼等も中々に意地が悪い。あの状態で尚も簡単に死なせる気は無いらしい。


男は叫び上げている様だが、喉を潰されているので碌な音は出ていないだろう。

ここからでは聞こえないが、おそらく呼吸音が漏れ出るのがせいぜいのはずだ。

そうして暫くすると、段々と力なく項垂れて行く男を見て、死んだ事を確認する。


男が死ぬと大きな歓声が上がる。暴君の最後に皆が喜んでいる。

あんな街を作り出していればこの結末は必然だったのかもしれない。

誰一人として、王の死を悲しむ様子は見せていない。

だけど私にはそんな事はどうでも良い。この国行く末なんて私には関係ない。


これで、仇は討った。里の皆が満足してくれるかどうかは解らない。

私自身、満足する気持なんか全くない。胸の辛さは一片たりとも取れてなどいない。

だって仇を討った所で、皆は戻ってこないのだから。









―――――そう、戻ってこないのだ。










「ふぅ、ぐっ、うぐぅううぅぅうぅぅぅ」


嗚咽が漏れる。辛くて、悲しくて、地面に崩れ落ちながらの鳴き声が周囲に響く。

嬉しさなど欠片も無い。仇を討てた満足感など全く湧いてこない。

有るのはただただ悲しいという想い。もはや自分には何も無いのだという現実への悲しみ。


辛くて、こんなにも辛くて仕方ないのに、胸に詰まる想いがこんなにもあるというのに、どれだけ泣き声を上げても涙が流れない。

自分が化け物どころか最早生き物ですならい事実を突きつけられている様に感じ、尚の事悲しみは膨れ上がっていく。


「うあ、うああああ、あああああああああああああ!!」


叫ぶ様に、最早咆哮の様に泣き声を上げる。それでも涙は流れない。

声をどれだけ上げても、震える声になろうとも、一筋の涙すら赦されない。

この身は、本当に、化け物だ。


「やだあああ、いやだよぉ、うああ、わた、わたし、もう、一人だよ、や、やあああああ!!」


泣きながら感情のままに地面を叩くとクレーターが出来上がった。

それでも気持ちは収まらず、子供が癇癪を起した様に暴れ、周囲の木々が薙ぎ倒されていく。

暴れた所で心が晴れる筈なんてない。そんな事は解っている。

それでも、私は、暴れずにはいられなかった。冷静になどなれなかった。


そうしてどれだけの時間暴れたのだろうか、気が付くと日が落ちていた。

暴れに暴れた後、酷い惨状の最中で泣きながら月を見上げる。

皆が居た頃と変わらない綺麗な空。ああ、そういえば空を見る様な余裕すら今までなかったな。


「・・・よう、気は済んだか?」


そこに、彼女が現れた。私に力を与えた悪魔が。

静かな目を私に向けて、白猫を横に従えながら立っている。

いつから居たのだろう。少なくとも私が暴れている最中ではあるのだろうな。


「気なんて、済むわけがないわ・・・でも、貴女には礼を言わせて。ありがとう」


彼女に顔を向けて感謝を伝える。だって彼女のおかげで私は私の心を保てているのだから。

これから彼女に使われる身なのだとしても、それでも私は最後まで私でいる事が出来た。

それは彼女のおかげだ。

あの洞窟から出してくれて、殺意を向けるべき相手を教えてくれた彼女が居たからだ。

でなければ私は、心すらもただの化け物になっていただろう。


「そうか・・・じゃあ、これはサービスだ」


彼女はそう言って私に手を触れると、私の体は呪詛を受ける前の姿になった。

あの人が美しいと言ってくれた、本当の私の姿に。

彼女の優しさが嬉しくて胸から込み上げて来る物があり、また少し泣きそうになる。


いや、泣いていた。頬に一筋、涙が流れていた。水滴が頬に垂れている。

それを手で掬い、自分の瞳から洩れている物だと確認する。

泣いている。泣けている。涙が流れている。この作り物の体で。

彼女が、泣けるようにしてくれた。


「泣け。存分に泣いちまえ。お前は悪くねぇ。何にも悪くなんかねぇ。お前は泣いて良いんだ。泣いて、良いんだ」


彼女のその言葉に、涙が溢れ出る。まるでさっき泣けなかった分を取り戻す様に。

それでもまだ自分の状態を把握しかねている私を見て、彼女は私の頭を抱きしめた。

優しく、でも力強く、暖かい抱擁を。


「泣いちまえ。声が枯れるまで、涙が流れなくなるまで、何が悲しかったのか解らなくなるまで。思いっきり泣いて良い」

「―――ふあっ、あ、ああ、うああ、うああああああああああ!!」


それで、今度こそ、泣き声を上げられた。

抱きしめてくれる彼女に縋りつき、大声を上げて泣き続けた。

彼女の言う通り、借り物の体でありながら声がかれるまで、涙が出なくなるまで、最早何が悲しかったかすら解らなくなるほどに、ずっと泣き続けた。

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