目的を果たす時

目が覚めると、私は鬼の姿で立っていた。

周りには誰も居らず、ただボロボロの部屋が視界に入る。

ただその部屋にある今にも崩れそうな机に一枚の書置きがあった。


『後は好きにやれ』


書かれていた事はたったそれだけだが、それで十分だ。

今の体は封印されていた時の姿だし、内から力が溢れるのを感じる。

最早説明なんて要らない。彼女は約束を守ってくれたのだ。


「感謝するわ、悪魔さん」


彼女への礼を口にして外に出る。

私の姿を見た人間達は当然恐れて逃げ惑うが、私は彼らを攻撃する気など無い。

大きく跳躍して家屋の上を飛びまわり、一直線に目的地に向かう。

里の皆の、家族の、恋人の仇の下へ。


すぐに目的の場所に辿り着き、城の正門に向かって堂々と歩いて行く。

周囲にいた民間人は逃げ出し、兵士は震えながら私に向って武器を構えた。

兵士の持っている物は槍だ。そんな物が今の私に効くはずが無い。


門を守る兵士を薙ぎ払い、門を正面から力づくでぶち壊す。

真正面から城に乗り込むと兵士達もわらわらと集まって来た。

その全てを薙ぎ払いながら、ゆっくりと、まっすぐに、城の中へと向かう。


「・・・脆い」


この国の軍はこんなに脆いのかと思う程に脆い。脆過ぎる。

攻撃は時代遅れの鉄器突撃ばかリ。重火器による攻撃が一切ない。

こんな物で呪詛を背負った鬼を止められると本気で思っているのだろうか。


里に攻めて来た時に居た火器武装兵が一人も居ないのは何故なのだろう。

不思議に思いはするが好都合だとも思い、兵士達を悉くを蹂躙していく。

一般人に被害を出さない様に、兵士も私に攻撃して来る兵士だけを相手にする。


もし一般人や無抵抗の相手に手を出せば、きっと私は私でなくなる。

最早この体は化け物だけど、心まで化け物になっているのでは意味がない。

あの光景を見て、殴る相手を教えられて、そう思った。


私の敵はこの国の中枢だ。国王という名の腐った化け物だ。

あれと同類になるつもりは無い。なってたまるものか。


この身はもはや化け物で、暴れている体は借り物で、化け物以外の認識をされるはずは無い。

それでも、心に誇りを持とう。鬼の一族の生き残りとしての誇りを。

呪詛を一身に受け、異形の化け物と化したとしても、私は私を見失わない様に。


ただ好きに暴れて、殺したいだけ殺して、やりたい事をやる。

私が討つべき敵はそんな化け物だ。

なのに自分が同類になったのでは、死した同胞達に申し訳が立たない。


「待っていろ化け物。今から仇を討ちに行くぞ」


群がる兵をなぎ倒し、恐れて逃げる兵は追わず、城の中をずんずんと進む。

ただ国王が何処に居るのかは知らないし、やみくもに進んで出会えるとも思えない。

兵士に聞いたところで解るとは思えないし、素直に答えもしないだろう。

身分の高そうな人間を捕らえて聞き出す必要は有るかな。


だが私が暴れているのに都合よく上の人間が出て来るはずもなく、出て来るのは兵士ばかり。

仕方なく無造作に薙ぎ払いながら進み続けると、逃げ遅れたらしい身なりの良い男を見つけた。

運が無いね、貴方。私にとっては好都合だけど。

彼は震える足で近くの部屋に逃げ込み、どうやらカギをかけて閉じ籠った様だ。


兵士達は末端だろうから逃げるなら追う気は無い。だがお前達は別だ。

お前達上に立つ者には背負うべき責任と義務があり、それだけの報酬を得ているはずだ。

ならば里の皆の命の仇には、お前達も入っている。見つけた以上逃がす気は無い。

壁をぶち破って部屋に入り、扉を抑えて震えている男を見下ろす。


「貴様は国王の居場所を知っているか」


要件を端的に問うが、男は震えてへたり込んで動かなくなってしまう。

それは致し方ない事だと理解は出来るが、今の私に許容してやる余裕も義理も無い。


「お前のその頭と口は飾りか。語れないのならば今すぐ潰すぞ」

「ひぃ、し、知っております!」


男の体を掴み、持ち上げて力を少し込めながら脅しをかける。

すると男は怯えながらもすぐに答えだ。

知らなければこのまま殺すつもりだったが、知っているならば好都合だ。


「なら案内しろ。出来なければこの場で殺す」

「わ、解りましたぁ!」


男を前に付きだしながら部屋を出ると、待ち構えていた兵士達が一歩下がる。

どうやら男は人質にも使える身分の人間の様だ。

ならば尚の事都合が良い。国王と出会うまでは精々使わせて貰おう。

雑兵ばかりとはいえ兵士をずっと相手にするのも面倒だし、この状態であれば爆薬や火器の類は持ち出せないだろう。


「さあ、案内しろ。騙せばその場で握りつぶす」

「は、はひぃ!」


ガタガタと震えながら男は頷き、指をさして私を誘導する。

この怯えようで私を騙せるとは思えないが、一応警戒だけはしながら進んでいく。

兵士達も後を追ってきてはいるが、あれから攻撃される気配はない。

どうやらこの男、かなり上の方の人間のようだ。


「こ、この先ですぅ!」


男が涙目になりながら叫んで伝える先には、火器を構えた兵士達が並んでいた。

どうやら王の周りを固めていたらしい。その先にある扉の向こうに国王が居るのか。

兵士達は私の手にある人間の存在に気が付いているので撃つ事が出来ない様だ。


「貴様ならこの兵達を退かせられるのか」

「は、はひ、の、退くんだ! お前達速く退かんか!」


男が指示すると兵達は一斉に道を空けた。

軍隊だから命令に従った、だという事では済ませられない現状だと思う。

彼等が行った行動の先に何が有るのか解らない人間だけではないだろうに。


だがそんな事は私には関係の無い事なので、このまま行かせて貰う。

兵達は真っ直ぐに進む私に火器を向ける事すらなく道を譲る。

それを冷めた感情で眺めながら、仇の待つ扉を開いた。


「いらっしゃーい」


一瞬、自分の目を疑った。

そこにはあの娘が、悪魔が、にやりと口角を上げながら私を見上げていた。

初めて会った時と同じように、白猫を横に連れながら。

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